Athlete Night Games in FUKUIの陸上男子100メートルで優勝した山本匠真(左)【写真:奥井隆史】

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「THE ANSWER 陸上PLUS|INSIGHT」 Athlete Night Games in FUKUI/福井・9.98スタジアム(8/14-15)

 陸上男子100メートルの山本匠真(広島大大学院)が、また勝った。大会2日目の決勝を10秒05(追い風0.9メートル)で制した。9日の富士北麓ワールドトライアルで出した自己ベスト10秒04に100分の1秒差に迫る好タイム。国立の広島大大学院で半導体研究に励む24歳は、これで今季の日本GPシリーズ4勝目となった。文武両道を貫きながら、なぜこれほど安定して速いのか。話を聞けば、“そりゃ強いわけだ”と思わせられる理由があった。(取材・文=THE ANSWER編集部・上田 悠太)

 山本が勝負強く勝ち切った。午後8時からの決勝。心地よい福井の夜風を味方に、得意の中盤から先頭に立った。抜け出せば、追随は許さない。タイムは10秒05。6日前に出したばかりの自己ベストに100分の1秒差まで肉薄し、また勝った。「狙っていた通りのレース展開。タイムも『0秒台を出せばいい』と思っていた。そういった意味では目標達成できたと思います」と納得のレースだった。

 修正力も光った。決勝を走り終えた直後、勝利の高揚感の中で「予選がダメでよかった」と漏らした。約3時間前の予選は10秒13(追い風0.6メートル)で1組1着。どういう意味だったのか――。

「予選はスタートが出られなかった。それが自分の技術のせいなのか、体のせいなのかは、ちょっとよく分からなかった。トレーナーさんと相談したら『ここら辺が固まってるね、こういうエクササイズをやろうか』と。いつも通りのコンディションで走れるように、仕上げてもらったのが良かったのかなと思います」

 浮き彫りになった課題の原因を見つけ、必要な手を打った。

 スタートの面で言えば、6月の日本選手権の後につかんだ新感覚も、結果につながっている。西日本インカレには200メートルで出場し、20秒69の大会新で優勝。そこで新たな引き出しを見つけた。

「その時に、ある程度リラックス、抑えめな力感でも、いいスタートで出られると気がついた。自分が今(当時)やっているスタートって、最適じゃないんじゃないかと気がついた。そこから技術というより、意識の問題ですけど、よりスタート時に体幹を柔らかく使うことによって、ストライドを伸ばせるようになった」

自分のレースを分解し、どこが強く、どこが弱いのかを把握できる

 自分を客観的に見つめる視点に長け、好記録を出せるレースの「再現性」をつかみつつある。

「元々、自分のレース展開って、スタートはちょっと速い、中盤は遅い。で減速はあんまりしないから後半は少し速いという感じ。前後半が速くて、中盤が遅い形だったんですね。同じレベルのタイムを持っている選手と比べると、トップスピードがあまり出ていないタイプの選手だった。スタートの力感をちょっと変えて、しっかり中盤でトップスピードを出せる走りに改善してきました。それが最近は上手くハマって、再現性も高まっているのではないかと思います」

 昨季に苦しんだ腰痛を克服した。万全となったコンディションに加え、技術も定着し、自信も深まってきている。

「元々、減速は少ないタイプなので、割と後半も走れる。日本選手権以降はしっかりトップスピードも上げられるようになった。スタートを改良したおかげで、トップスピードを持たせられるようになってきた。前半で多少、出遅れたとしても、最後にまくれる自信がついてきています。日本選手権で、怪我を完全克服したなと思えるスタートが出せたのが大きかったです。それも自信になっているのかなと思います」

 自分のレースを分解し、どこが強く、どこが弱いのかを把握できる。課題を見つければ、そこを1つずつ埋めていく。

 ルーティーンは視界を絞ること。スタート位置に立つと、自分のレーンだけを見つめ、集中力を高める。試合に挑む中で、意図的に思考をシンプルにする。「考えるのは1つだけに絞る。足りない部分を挙げだしたら、キリがない。(意識は)試合では最大でも1つ。『ここだけは解決する』と集中する。それで頭をシンプルにできて、普段通りのレースができているのかなと思う」と話す。

 もともと陸上は中学から始めた。「小学校の時はサッカーをやっていたのですが、ボールコントロールなど、めっちゃ下手だった。ただ、(周囲より)足だけは速かった」という理由だった。

 競技場を離れれば大学院生になる。広島大の工学部では電気電子・システム情報系の勉強を重ねた。現在、同大学院で取り組んでいるのは半導体の研究だ。

 両立の秘訣を問われると「あんまり自分で両立できているとは思わないですけど…」とした上で、続く言葉に山本らしさが表れていた。

文武両道の秘訣は「スケジュールを逆算して…」

「スケジュールを逆算して、やれることをやるという感じです。研究は頑張ろうと思えば、キリがないので『ここまでは最低限やる』というラインを決める。『この期限までにこれをやる』と節目をおいて頑張る。時間を自由に使える研究室なので、人と走れる時間に練習して、昼に研究するもの、夜に研究するものとか、あまりこだわらずに、空いた時間に研究する。それで空いている時間で練習を進めています」

 競技でも研究でも、現状を把握し、やるべきことを細分化し、1つずつ潰していく。その思考は共通しているようにも映る。

 9秒台が現実味を帯びる10秒04、10秒05を立て続けに出しても、浮つかない。「まだまだ(9秒台には)壁があるというか、まだ力不足かなという感じですね。まだ9秒台を出せる準備ができていない。今は風に頼らずに、10秒0台を安定して出せることを目標にやっていきたい」。さらなる技術、フィジカルのレベルアップに励んだ先に9秒台を見据える。

 伸びしろも具体的に見えている。「取り急ぎできるのは、やっぱり足首」という。ボックスジャンプなどの跳躍系がまだ強くなく、接地時間にも改善の余地があるという。ウェートトレーニングの出力も含め、今後の強化ポイントとする。

 自分をよく分析し、課題を具体化する。目の前に小さなゴールを置き、そこから必要な準備を逆算する。そして、結果が出ても目標を必要以上に上方修正せず、1段ずつステップを踏んでいく。

 半導体研究と陸上。2つの世界で積み重ねを続ける山本の言葉を聞いていると、自然と思わされる。そりゃ、強いわけだ。

(THE ANSWER編集部・上田 悠太 / Yuta Ueda)