〈板東英二のON秘話〉「入団時は僕のほうが格は上でした」同期・王貞治との意外な関係、長嶋茂雄には「突然、監督室に呼ばれて…」

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7月に亡くなった元プロ野球選手でタレントの板東英二さん。1958年夏の甲子園で大会記録となる83奪三振をマークし、“戦後の怪物”と呼ばれた板東さんは、中日入団後、同じ年に巨人入りした王貞治さんと親交を深めた。「同期のワンちゃんとは、新人のときから飯も食いに行く仲でした」。一方、4歳年上の長嶋茂雄さんについては「ライバルと思ったことない。遠い存在」と語っていた。王を最も抑え込んだ投手でもあった板東さんが明かしていた“ON”との知られざる関係と、長嶋さんから突然「板ちゃん、ありがとう」と感謝された日の記憶とは。(前後編の後編)

【画像】「阪神優勝なし」で約束通り滝に打たれる板東英二さん

「ワンちゃんはみんなに優しいからようモテた」

「同期のワンちゃん(王貞治)とは、互いに騒がれて入ってきた者同士ということで新人のときから飯も食いに行く仲でした」

王貞治の話になると、板東英二の少しこわばっていた顔がほころんだ。

1958年夏の甲子園で徳島商業のエースとして83奪三振の大会記録を樹立し、“戦後の怪物”と呼ばれた板東。一方、王も高校時代から甲子園で脚光を浴びたスターだった。

板東が中日に入団し、王が巨人に入ったのは同じ年。ともに高校野球で注目を浴び、そのままプロの世界へ飛び込んだ同期だった。だからこそ、球団の垣根を越えて親しくなったという。

「名古屋に来れば行きつけの寿司屋に連れていったり、僕が東京に行けばワンちゃんが中華料理に連れて行ってくれたりしましたね」

世界のホームラン王となる王も、板東にとってはあくまで「ワンちゃん」だった。

「彼は2年のときの選抜優勝投手で3年夏は甲子園に出ていない。僕は夏の準優勝ピッチャーだから入団時は僕のほうが格は上でした」

板東らしい軽口を交えながら、嬉しそうに振り返る。

王との付き合いはグラウンドの外にも及んだ。

「彼はビールが大好きでね~。お店に行ってもみんなに優しいからようモテた」

さらに板東は、王の女性への接し方についても冗談交じりに語った。

「僕なんか美人しか相手にしないけど、ワンちゃんは誰隔てなく接し、むしろちょっとあれっていう子に優しくしていたね。あれはなんでやろうね」

王を“最も抑え込んだ投手”

板東にとって王は、後に世界記録を打ち立てる大打者である以前に、同じ時代にプロ入りした気の置けない友人だった。

その関係性は、マウンドと打席で向き合ったときも変わらなかったのかもしれない。

王との対戦成績は68打数14安打、3本塁打。打率2割6厘。四死球31、三振18。王と100打席以上対戦した投手は45人いるが、打率だけを見れば板東は王を最も抑え込んだ投手だった。その事実を伝えると、板東は意外そうに語った。

「ワンちゃんは僕から3本ホームランを打ったのを覚えていたねー。僕は1本しか覚えてない」

記憶に残っていたのは、大差がついた試合だった。

「大差がついたゲームで登板する予定がなかったのに、敗戦処理的な場面でマウンドに上がることになって、イヤイヤ投げて打たれた1本しか覚えてないな。でも、通算3本しか打たれてないっていうのはビックリしたねー」

板東は王との対戦で、ある“奇策”も用いていた。

「ワンちゃんに山なりのフワーとしたスローボールを投げたのは僕が初めてなのよ」
後に、2人で寿司屋へ行った際、王からこう言われたという。

「板ちゃん、あんなの投げられたら無理やぞ」

王ほどの打者でもタイミングを外されるスローボールには手を焼いたらしい。

「それからあまり投げなかったですけど」

100打席近く対戦して、本塁打はわずか3本。板東自身は自らのプロ野球時代の記録について「何の関心もない」と語り、成績を誇ろうとはしなかった。それでも、同期の王との思い出を話すときだけは、表情が緩んだ。

長嶋との忘れられない出来事

一方、もうひとりの巨人の大スター、長嶋茂雄について聞くと、王とはまったく違う言葉が返ってきた。

「ライバルと思ったことないですよ。向こうは遠い存在の人ですから。当時のスポーツ新聞をみれば長嶋一色ですからね」

現役時代の長嶋は、板東より4歳年上。板東が中日に入団した当時、すでに長嶋はプロ野球界を代表するスターだった。同期として飯を食い、酒を飲んだ王とは違い、長嶋は「遠い存在」だったという。

実際、板東は王を相手に好成績を残していた一方、長嶋には本塁打を6本打たれている。
それでも、引退後には長嶋との忘れられない出来事があった。

長嶋が巨人の監督として第2次政権を率いていた1994年のことだった。板東が解説の仕事で球場にいると、長嶋のマネージャーから声をかけられた。

「所マネージャーが『監督がお呼びなんで』っていうから、“またなんかいらんこと言ったかな”って心配しながら監督室まで連れて行かれたの」

通常、監督室など簡単に入れる場所ではない。何を言われるのかと身構えていると、長嶋は板東の顔を見るなり、思いもよらない言葉を口にした。

「そしたらいきなり『板ちゃん、板ちゃん、ありがとう』と言われるから、なんのこっちゃわからなくてポカーンとしてると、『板ちゃんがテレビやラジオで復帰を促すことを言ってくれて、またこうしてユニフォームが着られるようになって、ありがとう』って長嶋さんが言うんです」

テレビやラジオで長嶋の監督復帰を後押しするような発言をしていた板東に、直接礼を伝えたのだという。板東は、そのときのことをこう振り返った。

「こういう気配りができる人なんだな~って感動しました」

現役時代は、到底ライバルなどとは思えない「遠い存在」。それでも、年月を経た後、一人の人間として接した長嶋の姿に板東は感銘を受けた。

王は「ワンちゃん」。新人時代から飯を食い、酒を飲み、ときに寿司屋で打撃について語り合った同期の友人だった。長嶋は、スポーツ新聞を独占するほどの「遠い存在」。

同じ巨人のスーパースターでも、板東英二にとって2人との距離感はまったく違っていた。それでも王と長嶋の話になると、板東の言葉にはどこか懐かしさがにじんだ。

文/松永多佳倫