佐々木朗希

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 佐々木朗希はワガママ──。野球ファンからの批判が殺到したことを、ご記憶の方も多いだろう。発端は佐々木のロッテ時代、2023年シーズンオフの契約更改だった。年内に合意できず越年を選択すると、一部のメディアは「早期のメジャー挑戦を希望し、球団との話し合いが長引いている」と伝えた。佐々木が日本のプロ野球で投げ続けた場合、20代後半に海外FA権を獲得する見通しだった。これが選手の立派な権利であることは言うまでもない。(前後編の前編)

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 一方、25歳を超えた佐々木がポスティングシステムを利用すれば、ロッテは多額の譲渡金を得られる可能性があった。しかし佐々木が越年交渉を行っていた24年1月の段階で、彼はまだ22歳だった。

佐々木朗希

「なぜ佐々木は、それほどメジャー挑戦を急ぐのか?」という野球ファンの疑問は、あっという間に「佐々木はロッテという球団とファンをバカにしているのではないか?」という批判に変わった。

 当時の吉井理人監督も「ポスティングを要求するのが自分だったら『球団に対してもうちょっと恩返ししてからじゃないとだめかな』と思ったりもする」と報道陣に語ったことも世論に大きな影響を与えた。担当記者が言う。

「佐々木投手は2019年のドラフトで4球団から1位指名を受け、抽選でロッテが交渉権を獲得しました。ルーキーイヤーの20年は1軍に帯同したものの、1軍でも2軍でもまったく登板しませんでした。翌21年5月に初登板・初先発で1軍デビュー。このシーズンは11試合に先発して3勝2敗でした」

 22年は20試合に先発して9勝4敗。23年は15試合に先発して7勝4敗。24年は18試合に先発して10勝5敗──という成績だった。

不調だった昨シーズン

「当時のロッテで『先発ローテーションを支えたエース』は誰だったのか、少なくとも佐々木投手ではありませんでした。例えば先発としての登板回数を見れば、小島和哉投手や種市篤暉投手のほうが“チームの大黒柱”だったことは間違いありません。佐々木投手は良くも悪くも“日本プロ野球界の宝”であり、いつかメジャーに挑戦することは既定路線でした。ロッテとしては『とにかくケガをさせるわけにはいかない』と、ひたすら大事に扱っていたというのが実情だったのです」(同・記者)

 少なくとも、佐々木朗希がチームのために獅子奮迅の大活躍を続け、遂にロッテは日本一に輝いたという展開ではなかった。

 25歳という最初の節目まで待つことなく、「そろそろメジャーに挑戦させてください」と言い出した。これは、あまりにもワガママだろう──こう理解した野球ファンは少なくなかったはずだ。

「2024年12月にポスティングシステムの申請が受理され、佐々木投手のロッテ時代は終わりを迎えます。そうして念願のドジャース入団を果たした昨シーズン、ポストシーズンで抑え投手として存在感は発揮したものの、先発投手としては8試合に登板して1勝1敗と不本意な成績で終わりました」(同・記者)

「こんな投手だった?」の疑問

 アメリカの一部メディアは「マイナーに落とすべき」と報じた。何しろ160キロを超える剛速球でバッタバッタと三振を取る投手だと期待していたのに、球速は150キロ台後半ということも多く、四球で試合の流れを悪くする投球ばかりが目立ったからだ。

「今シーズンは8月18日現在、21試合に先発して5勝5敗という成績です。先発ローテーションの一角としてドジャースの投手陣を支えているのは紛れもない事実。ただ、相変わらず『期待されたレベルの結果を残せていない』、『奪三振は増えたが、投球は安定感を欠く』といった報道は絶えません。また最近、ロッテ時代を巡る議論に変化が生じてきました。今までは球団に対する不義理を批判する声ばかりだったのですが、近ごろは『ロッテ時代で充分な経験を積まなかったからこそ、メジャーで伸び悩んでいるのではないか』という意見がSNSなどで散見されるのです」(同・記者)

 野球解説者の前田幸長氏はロッテ、中日、巨人の3球団で投手として活躍。先発、中継ぎ、クローザーの全てを経験した。また2008年には渡米してレンジャーズとマイナー契約。3Aオクラホマで36試合に登板したため、アメリカの野球事情にも詳しい。

「シーズンを当たり前に過ごす力」

 改めて前田氏に取材を依頼すると、「私が注目したいのは『規定投球回』です」と言う。投手が最優秀防御率のタイトルを獲得するために必要な投球回数のことで、日本のプロ野球で1軍の投手なら「所属球団の試合数」に1・0を掛けた数になる。

「佐々木投手はロッテに所属した2021年から24年までの4シーズンで、規定投球回を上回ったシーズンは一度もありません。ドジャースで同僚の山本由伸投手が、オリックス時代にエースとして何度も規定投球回を上回ったのと非常に好対照です。もし佐々木投手がロッテ時代、規定投球回を上回るシーズンを積み重ねていたなら、豊かな財産になったのは間違いないでしょう。どんな財産か、それは『1シーズンを当たり前のものとして過ごす力』と言い換えられます」

 経験の浅い先発投手は、毎回の登板がプレッシャーになるという。全力を尽くすのに精一杯で、下手をすると心身共に疲れ果て、シーズン後半に失速してしまう。

「先発投手として1シーズンを過ごすことが当たり前のものになる、つまり投げて休みの日々が“ルーティン”として普通の日常として意識できるようになれば、プレッシャーや無用な気負いが少なくなります。身体に余計な力が入らなくなり、精神的にも落ち着いて投球できます。肉体にも精神にもプラスの作用をもたらすことで、投球の精度が上がるのです」(同・前田氏)

投げ込みの問題

 佐々木はロッテ時代の2022年4月、完全試合を達成した。しかし、どれほど素晴らしい投球内容でも、それが1試合だけなら意味がない。

「先発投手は1シーズンを通じて安定した投球を繰り返し、着実に勝ち星を重ねることが重要なのです。つまり一度も規定投球回を上回らなかった佐々木投手は、経験不足という弱点を持っているわけです。メジャーでの投球が安定しないのも、未完成のまま渡米したことを原因の一つとして挙げることができるでしょう。山本投手がドジャースでも即戦力として活躍できているのは、オリックス時代に充分な経験を積んだからです」(同・前田氏)

 佐々木に欠けているものは他にもある。例えば「投げ込み」だ。近年、投げ込みを頭から否定する意見は多い。

 だが、医学的に充分なケアを行いながら、ある程度の球数を投げなければ試合に勝つことはできないという。

 後編【佐々木朗希の好不調の波が激しい理由…元ロッテ技巧派投手が指摘する“制球力”と“経験”以外に不足している「3文字」の不安要素 「改善されたら打者は“差し込まれた”と感じる」】では、“昭和の投げ込み”がもたらす豊かなメリットについて詳しくお伝えする──。

デイリー新潮編集部