(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大 (全2枚)

住宅価格の高騰や購入年齢の上昇を背景に、定年後も住宅ローンが残るケースは珍しくなくなっています。しかし「退職金で完済すれば大丈夫」と考えて資金計画を立てていても、長い返済期間のなかでは思いもよらない出来事が起こることも……。夫婦の事例をもとに、住宅ローンを組む際に押さえておきたいポイントを辻本剛士CFPが解説します。

退職金で完済すれば大丈夫」…35年ローンで“夢のマイホーム”を購入

現在は、夫婦で月20万円の年金を受給しながら、家賃5万円の公営住宅に暮らすタツヤさん(仮名・70歳)。しかし、かつては“夢のマイホーム”を所有していました。

タツヤさんが住宅購入を決断したのは42歳のときです。当時は会社員として働き、パート勤務の妻・アキコさん(仮名・同年齢)、12歳の息子の3人暮らしでした。当時のタツヤさんの年収は700万円、アキコさんは100万円で世帯年収は約800万円。貯蓄も1,500万円ほどありました。

一家はそれまで、郊外にある家賃10万円・1LDKの賃貸マンションで暮らしていましたが、「マイホーム」が夫婦の長年の夢であったことと、息子が中学生になるにあたり「自分の部屋がほしい」と言ったことから、夫婦も将来を見据え、購入を検討することに。

不動産会社に相談したところ、「35年ローンを組むなら、年齢的に購入は数年以内にしたほうがいいですよ」と強く勧められ、その言葉に背中を押されて夫婦は購入を決断しました。

選んだのは価格4,500万円、築20年の3LDK中古マンションです。諸費用などで500万円を支払い、残りを35年ローンで借り入れました。

定年後もローン残高1,800万円…それでも「老後生活は問題ない」と判断

住宅購入によって貯蓄は1,500万円から1,000万円に減りましたが、タツヤさんは「まだ1,000万円ある。これからもコツコツ貯めていく予定だし、大丈夫だろう」と考えていました。

また、住宅ローンの返済額は毎月約12万5,000円、管理費と修繕積立金は合わせて2万5,000円で、毎月かかる住居費は合計15万円です。賃貸で暮らしていたころより月5万円負担が増えますが、不動産会社からは「現在の手取り収入なら返済負担率は約28%で、無理のない水準です」と説明を受け、納得していました。

35年ローンを組んだタツヤさん、完済は77歳の予定です。定年を迎える65歳時点でもローンが約1,800万円残りますが、「退職金が2,000万円くらいあるみたいだからそれで完済できる。老後生活も問題ないだろう」と判断。

こうして、一家は夢だったマイホームでの生活をスタートさせました。しかし、思い描いていた計画どおりには進まない事態が次々と起こります。

親の介護、業績悪化…“想定外”が重なり「退職金で完済」計画が崩壊

住宅購入から数年後、アキコさんがパートを辞めて専業主婦になり、世帯収入が100万円減少。また、住んでから10年ほど経った50代前半には給湯器が故障し、水回りの設備も交換時期を迎え、突発的にまとまった支出が発生しました。加えて、80代の親の介護が必要になり、不足分をタツヤさんが負担することに。

修繕費や介護費などの支出が増えたことで思うように資産形成は進まず、タツヤさんが65歳で定年を迎えたころ、1,000万円あった貯蓄は300万円まで減少していました。

「貯蓄はあまりできなかったけれど、退職金で住宅ローンは完済できるだろう」と考えていたタツヤさん。しかし、その期待すら裏切られることになります。

なんと、勤務先が業績悪化により民事再生法を申請し、退職金規程が変更されたことで、約2,000万円を見込んでいた退職金は約1,000万円まで減額されたのです。

さらに、マンションの管理費と修繕積立金も合わせて月2万円増額。夫婦で月20万円の年金を受給し始めましたが、住居費や生活費を合わせると毎月約16万円の赤字となり、このままでは7〜8年で資金が底をつく計算でした。

タツヤさんは、70歳を過ぎても、住宅ローンを返済するために働き続けるしかありませんでした。

「老後は安心して暮らせると思っていたのに……」と、思い描いていた老後とのあまりの違いに言葉を失いました。

【CFPの助言】住宅ローンは数十年の付き合い…「老後の家計」まで見据えて

住宅を購入する際、多くの方が35年ローンなどの長期ローンを利用します。その一方で、現在の年収や住居費だけを基準に、返済できるか否かを判断してしまう方も少なくありません。

しかし、完済までの数十年のあいだには、さまざまなライフイベントによって、家計が大きく変化する可能性があります。

【収入が減少するケース】

・リストラや転職による収入減少

病気やケガによる休職・退職

退職金の減額

・配偶者の退職や働き方の変更

【支出が増加するケース】

子どもの教育

・住宅設備の修繕やリフォーム

・管理費・修繕積立金の値上げ(マンションの場合)

・親の介護費用

住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローン利用者の平均年齢は43.3歳と年々上昇しています。そのため、35年ローンを利用した場合、完済時の年齢が70代後半となるケースも珍しくありません。

[図表]「年齢」別利用割合の推移(2015〜2025年度) 出典:住宅金融支援機構「2025年度 フラット35利用者調査」

住宅ローンを組む時点では現役世代で収入が安定していても、定年後は年金が主な収入源となります。そのため、定年後も住宅ローンが残る場合は、年金収入に対する住宅ローンの返済負担が大きくなり、家計を圧迫するおそれがあるため注意が必要です。

住まいを手放したことで取り戻した「安心した老後」

70歳を迎えたタツヤさんは、これ以上住宅ローンを返済し続けることは難しいと判断し、妻と相談のうえ、マイホームを売却することを決意。売却後は、家賃5万円の公営住宅への入居が決まり、新たな生活をスタートさせました。

長年暮らしたマイホームを手放し、当初は気持ちの整理がつかなかったタツヤさんですが、住居費はこれまでより大幅に抑えられ、毎月の赤字からもようやく解放されました。

「まさか団地が終の棲家になるとは……。苦渋の選択でしたが、いま考えると『もっと早く決断していればよかった』とも思います」

住宅ローンは長期間にわたって返済が続くため、現在の収入だけでなく、ライフプランの変化や定年後の収入まで見据えて計画することが大切です。将来の変化にも対応できるよう、余裕を持った借入額や返済期間を検討しましょう。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP