「沖縄戦の図」を前に、現場に立って戦争や命を考える大切さを思う佐喜眞さん=沖縄県宜野湾市

 戦禍の実相が忘れ去られていないか─。戦争経験者が一人また一人と減っていく戦後81年。沖縄県宜野湾市にある佐喜眞美術館館長の佐喜眞道夫さん(80)は「戦前回帰」の空気に強い危機感を抱いている。平和主義が揺らぎ、歴史の継承が課題となる今だからこそ、「戦争、人間による暴力のもたらす痛み、命の重みを伝え続け、共有する」ことの大切さを痛感する。

 1994年に開館した美術館は、米軍普天間飛行場に食い込むように建つ。米軍に接収された先祖代々の1801平方メートルの土地を交渉の末に取り戻してできた。展示しているのは、戦争や人間による暴力に向き合って生きた画家、丸木位里・俊夫妻の「沖縄戦の図」。逃げ惑う女性、子ども、お年寄りなど「最もひどい目に遭う側から描いた戦争の本当の姿」だ。

 アジア太平洋戦争末期の沖縄戦。艦砲射撃と空爆で爆弾とその破片が降り注ぐさまは「鉄の暴風」と呼ばれ、凄惨を極めた。地上戦で住民同士が殺し合う「集団自決」(強制集団死)、日本兵による住民虐殺など「ありったけの地獄を集めた」と形容された。その地で今年、「平和教育」が問い直される動きが表面化した。

 名護市辺野古沖で研修旅行中の高校生ら2人が死亡した事故。文部科学省は高校の学習プログラムを政治的中立に反すると認定した。佐喜眞さんは「命が失われることなど決してあってはならない」と深く胸を痛め、思う。「賛否多様な視点を現場で学び重ねることを大切にするのが教育のはず。平和教育そのものの意義を見失ってはいけない」

 年間およそ3万人の来館者のうち、半数以上は神奈川など県外から訪れる修学旅行生だ。沖縄戦の歴史と現在の沖縄の姿、絵に込められた思い…。伝えているのは「命の視点から戦争を考えること」。「たとえば、描かれた風車にはどんな意味が込められていると思いますか? と尋ねれば、生徒たちはぐっと絵に入ってくる」。机上の論理ではない、現実や芸術と出合った一人一人が持つ力の大きさを実感できる。

 今、武器輸出規制緩和や安全保障政策の転換など「防衛力強化」が進む。過去への無反省や「負の歴史」を直視しようとしない政治家も目立つ。平和とは何か─。現場に立ち、戦争や命を考える意義を改めて痛感している。

 「沖縄戦の歴史や広大な米軍基地を目の前に感じて学ぶことは、自分の言葉で考える機会になる。現場でしか得られないものは非常に多い。そんな学びの場はとても貴重です」