虫歯はミュータンス菌などの細菌によって歯が溶かされ、欠損したり穴が空いたりしてしまう病気です。そんな虫歯の治療では患部を削ることもありますが、「歯を削らずに塗るだけで虫歯の進行を止める薬」の臨床試験がアメリカで行われました。

Efficacy of Silver Diamine Fluoride on Young Children With Severe Early Childhood Caries: A Randomized Clinical Trial | Trials | JAMA Pediatrics | JAMA Network

https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2851913

Drill-free cavity care: One minute. One tiny brush. One pivotal trial. | University of Michigan News

https://news.umich.edu/drill-free-cavity-care-one-minute-one-tiny-brush-one-pivotal-trial/

A 10-Second Treatment Can Stop Tooth Decay in Kids Without Drilling : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/a-10-second-treatment-can-stop-tooth-decay-in-kids-without-drilling

アメリカでは乳幼児における虫歯が深刻化しており、2024年の統計によると2〜5歳の子どもの約11%が少なくとも1本の未治療の虫歯を持っており、6〜8歳になるとその割合は約18%へと上昇するとのこと。また、貧困率の高いグループでは未治療の虫歯の有病率が約18%だったのに対し貧困率が低いグループでは約6.6%と、社会経済状況による格差もみられます。

重度の虫歯は強い痛みや感染症リスク、歯の喪失といった問題を引き起こし、子どもの成長にとって欠かせない栄養状態や生活の質の悪化にも影響する可能性があります。特に重度の虫歯を患う子どもの治療では、全身麻酔が必要となるケースもあり、歯科治療の待ち時間が長くなる一因にもなっているそうです。

そんなアメリカの虫歯状況を改善するため、「歯に塗るだけで削らずに虫歯の進行を食い止める薬」の承認に向けた第III相臨床試験が、ミシガン大学の研究チーム主導で行われました。

臨床試験で用いられたのは、「フッ化ジアミン銀」という物質を含む薬です。フッ化ジアミン銀には虫歯の原因菌を殺菌すると同時に歯の残存部分を強化する作用があり、スポンジ状の器具で患部に塗布するだけで使用でき、歯を削ったり麻酔を使ったりする必要もありません。

日本ではすでにフッ化ジアミン銀が38%入った「サホライド」という薬が認可されていますが、アメリカでは2014年に歯の知覚過敏の治療薬として認可されたのみで、虫歯治療での使用は適応外使用となっています。そのため、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可取得に向けて、安全性と有効性を確かめるための臨床試験が行われたというわけです。



研究チームはミシガン州・ニューヨーク州・アイオワ州の歯科医院や小児科診療所を通じ、虫歯を患っていた6歳未満の子ども830人を募集しました。臨床試験では、被験者となった子どもを「フッ化ジアミン銀を塗布する実験群」と「偽薬を塗布する対照群」へとランダムに分けて、1回の塗布から6カ月後に虫歯の進行がどうなっているかを調査しました。

実験の結果、フッ化ジアミン銀を塗布した子どもたちでは6カ月後に54%で虫歯の進行が抑制されたのに対し、偽薬を塗布した子どもたちでは22.5%にとどまりました。両グループで歯の痛みに差はなく、喉の痛みといった副作用も軽度〜中度だった上に、治療との直接的な関連性は認められませんでした。

臨床試験を主導したミシガン大学歯学部教授のマルゲリータ・フォンタナ氏は、「これは非常に効果的で安全な治療法であり、1歳という幼い子どもにも適用できます」とコメント。また、高齢者や発達障害がある人、重度の歯科恐怖症を患う人などでも歯を削らないフッ化ジアミン銀による治療が役立つ可能性があるとのこと。

なお、フッ化ジアミン銀を用いた治療のデメリットとしては、「虫歯の部分が黒く変色してしまう」というものが挙げられます。そのため、日本では主に歯が変色しても大丈夫な部分や小児、そして通院が困難な高齢者などに使われているそうです。

論文の共著者であり、ニューヨーク大学歯学部教授のアムル・ムールシ氏は、「今回の研究結果は、幼児の虫歯進行抑制におけるフッ化ジアミン銀のFDA承認を支持するものです。フッ化ジアミン銀を適応外使用から外すことは、医療提供者による利用の増加、保険会社による支払額の増加、そして製品品質の一貫性向上につながる重要な革新となるでしょう」と述べました。