「はだかでベランダ」「部屋の中でもダウン」…1万件の相談を受けたプロが明かす、“片づけられない女性”の驚くべき日常
「その女性の部屋は、物が溢れかえって床が見えないほど。室内には洗濯物を取り込んで収納する場所すらない。そこで毎朝、服を着ない状態でベランダに出て、干してある服をその場で着ていたんです。ベランダがウォークインクローゼットになっていたんですね」
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そう明かすのは、お片づけ習慣化コンサルタントの西崎彩智さん(※「崎」は正しくは「たつさき」)。大手住宅会社のインテリアコーディネーターを経て専業主婦となり、20年の結婚生活の末に離婚。仕事と家事、育児を一人でこなす中で得意の「片づけ」を生かして起業し、これまで1万件を超える相談に応じてきた。手がけた片づけ習慣化講座「家庭力アッププロジェクト」の修了生は全国で4000名を超える。

西崎さんが向き合ってきたのは、いわゆる「片づけられない女性」たち。“片づけられない”と聞くと、だらしなくて、仕事もできなくて、貧しい生活を送っている……そんなマイナスイメージがあるのではないだろうか。
「ところが実際は、みなさんお金も仕事もあって、むしろ経済的には豊かな人がほとんど。片づけの仕組みを知らないために心の余裕を失い、焦ってさらに部屋を散らかしてしまう。その悪循環に陥っている人が多いですね」(西崎さん、以下同)
冒頭の女性は、マンションの高層階に暮らし、外資系企業に勤め、収入も高かった。家族構成は夫と、中学生と小学生の娘2人の4人暮らし。インスタには華やかな食事や暮らしぶりを投稿し、周囲からは仕事も家庭も順調な女性に見えていた。ところが自宅は物で溢れかえっていて、クローゼットは機能不全に陥り、先述の通りベランダまでもが物干し兼収納と化していた。
「脱衣場には足拭きマットが置いていなくて、シャワーを出たら脱いだ服で足を拭いていました。毎朝はだかでベランダに出て、干しっぱなしの服を着る。数日して着る服がなくなったら洗濯機をまわすそうです。ビックリして“え、服をベランダで着るの?”と尋ねたら、“高層階だし死角だから誰とも目が合いませんよ”って笑っていましたね」
インスタに投稿するのも、料理なら料理、コスメならコスメのアップ写真ばかり。散らかった部屋を背景に入れるわけにはいかず、暮らしの全体像がわかる“引き”の写真は撮れなかったのだ。経済的な余裕があるならば、なぜ家事代行などプロの手を借りなかったのだろうか。
「家事代行や清掃業者は、散らかった家には慣れています。それでも、外での役職や自分のイメージを気にするあまり、プロを呼ぶことすら躊躇してしまう人もいるんです。『絶対に人に見られたくない。恥ずかしい』と言いますね」
「リモコンが見つからない」家の中でダウン生活
もう一人、印象的だったのは、医療職に従事する独身女性だ。
「『夏からエアコンが止められず、冬になってもつきっぱなし。寒いので家の中でダウンを着て暮らしている』という人がいました。理由は『リモコンが見つからなくなった』というものでした」
人のためには時間を惜しまない一方、自分の生活を整えることは極端に苦手だった。仕事のストレスがたまると洋服を買い、届いた箱は開けないまま放置。やがて床は荷物に覆われ、下に何が埋まっているのか分からなくなった。そして、ついにはエアコンのリモコンが見つからなくなってしまったそうだ。
「コンセントを抜こうにも物に阻まれて届かない。結局、部屋がずっと寒いまま。疲れていても家に帰りたくないという状態になっていました」
埋もれていた「150万円」の保険証書
片づけによって人生が好転した例もある。ある経営者夫妻の家は、物で埋め尽くされていた。だが、妻が西崎さんの指導で片づけを進めたところ、思わぬ発見があった。
「ご主人が独身時代に加入していた保険の証書が出てきました。150万円の満期保険金が受け取れるもので、請求期限まであと1か月というギリギリのタイミングでした」
経済的な余裕があっても、物が溢れていれば大切な財産の管理さえままならなくなるのだ。
「私が知るなかで、片づけをして不幸になった人は一人もいません」
経営者だった夫を突然亡くし、事業を一人で背負うことになった女性のケースも忘れがたい。立派な豪邸には暮らしていたものの、室内には物が散乱していた。思春期と成人した息子を抱え、落ち着いて話し合える空間がないこともあって、親子関係までぎくしゃくしていた。女性は現実から逃れるように、仕事に没頭していたという。
「でも子どもと話し合いながら片づけを進めるうちに、ちゃんと親子で向き合えるようになった。さらに亡くなったご主人と前妻との間のお子さんも、自宅に招ける関係になったそうです。結果的に遺産相続もうまくいって、親子関係も改善。仕事もさらに順調になりました」
片づけられないのは「だらしない人」ではない
西崎さんは、片づけられない女性たちを一度も責めたことがないという。
「ある日突然、仕事での昇進や社会復帰、お母さんとしての役割、そこに急な介護まで重なって、やるべき役割がわっと増える。それで片づけられなくなる人って本当に多いんです」
その裏には「なぜ家事や子育ての負担が女性だけに偏るのか」という構造的な不条理がある。加えて「家事も育児もきちんとこなしてこそ、立派な女性だ」という日本特有の同調圧力、「女一人じゃうまくいかない」という呪いのような刷り込みが、女性たちを追い詰めていく。
「私がそういう立場を通ってきたから、痛いほど分かるんです。『できない自分』を認められず、必死に隠そうとして、誰かに頼ることすら躊躇してしまう。この悪循環をまず変えたくて、そもそもの思い込みを変えることのお手伝いをしています」
そもそも西崎さんが教えているのは、「収納ボックスの使い方」や「100円ショップの便利グッズ」ではない。「そういう小さなことから解放するのが私の仕事です」と語る。
家族で違う「片づいた」の完成形
西崎さんの片づけ相談では、実用本や世間が語る「うわべの正解」を追い求めることはやめるべき、とまず教えている。具体的な片づけのレクチャーは後編記事に続くが、相談で多く聞かれる質問は……。
「多いのが『靴は何足まで、スーツは何着まで持っていいですか』といった質問です。でも洗濯の頻度も家族構成も、暮らし方も好みも、一人ひとり違うから『正解の数』なんてないし、人に聞いてもわかりっこない。“家族の最善解を探す”ところからカウンセリングを進めています」
例えば家族間でさえ「片づける」という言葉の定義は大きくずれる。夫に「テーブルの上を片づけて」と頼んだら、パソコンを数センチだけ動かして「片づけたよ」と言われた――そんなすれ違いも珍しくない。
「『片づける』って、ものすごく解像度の低い言葉なんです。理想のゴールが曖昧なまま『片づけて』と言い合っても、絶対に噛み合わない。まずは家族の中で、何が完成形かをすり合わせるところから始めるべき。今の自分たち家族にとっての最善解は、自分たちにしか分からない。世間体じゃなく、自分の頭で考えて、自分たちでルールを決める。それこそが人生を整える本質だと思っています」
後編記事《自宅で倒れた50代バツイチ医師 友人が港区マンションに駆け付けると…“ゴミ屋敷”だった 片づけのプロが警告する「妻任せ」の代償》では、片づけを通して「決断を先送りしない力」を身につける方法や、苦手な家事を賢く手放す考え方について、西崎さんに聞く。
※事例は本人が特定されないよう、複数のケースをもとに再構成し、職業や家族構成などを変更しています。
※掲載写真は西崎さんが過去に手がけた実際の片づけ事例です。本文で紹介したエピソードの当事者とは異なります。掲載は提供者の了承を得ています
西崎彩智(にしざき・さち)
1967年生まれ。お片づけ習慣化コンサルタント、Homeport 代表取締役。大卒後、大手住宅会社のインテリアコーディネーターとして活躍。結婚を機に退職し、専業主婦となり2児の母となる。約20年の結婚生活もパートナーのリストラを機に夫婦関係の亀裂が露呈し破局。それを機に再就職。仕事と家事と育児の両立を図る中、得意の片づけを生かして起業。構築した片づけ習慣化講座「家庭力アッププロジェクト(R) 」修了生は全国で4000名を上回る。企業や組合のビジネス片づけ講座も手掛ける。テレビ、ラジオ出演ほか、メディア掲載、著書多数。最新刊は『時間とお金にゆとりが生まれる 貯まる片づけ』(プレジデント社)。
取材・文/木原みぎわ
デイリー新潮編集部
