2年連続サイ・ヤング賞腕・スクバルの早期復活支えた最新技術「ナノスコープ」手術「本当に大成功だった」
1日にトレードでドジャースに加入した2年連続サイ・ヤング賞左腕タリク・スクバル投手(29)がスポニチ本紙の単独取材に応じた。タイガースに在籍していた5月6日に左肘の遊離体(骨片など)除去手術を受け、わずか38日後の6月13日にメジャー復帰。その裏には、従来の関節鏡より細い器具「ナノスコープ」を用いた新たな手術法があった。異例の早期復帰を支え、一躍注目を集めるようになった最新技術について、自らの体験を明かした。(聞き手・杉浦大介通信員)
――「ナノスコープ」を使う新たなクリーニング手術に注目が集まっている。施術前に不安はなかったか?
「いや、リスクが高いとは全く感じなかった。世界最高の外科医(大谷の2度の右肘手術も担当したニール・エラトロッシュ医師)が“これは安全な手術で、君はこの方法を使うのに最適な患者だ”と言ってくれたからね。既に十分な研究が行われていたと思うし、実際凄くうまくいった。約5週間(38日)でメジャー復帰できたし、今までで一番いいくらいの感覚で投げられている。本当に大成功だったと思う」
――自分から希望したのか、それとも医師から提案されたのか?
「医師から“君の場合は特殊なんだ”と言われた。左肘の遊離体があった場所がとても珍しくて、普通は肘関節のもっと深いところにある。でも僕の場合は凄く浅い位置だったから、安心して手術できると判断したんだ。“非常に珍しいケースだから腫れも少なく済む。この遊離体を取り除けば、すぐにメジャーへ戻れるよ”と言われた。それだけ聞ければ十分だった」
――遊離体が見つかったのは初めて?
「分からないね。MRI検査ではこれまで遊離体が見つかったことは一度もなかった。だから今回が初めて経験したことだった」
――「ナノスコープ」は手術時間が短い利点もある。
「全身麻酔で眠っていたが、凄く短くてシンプルな手術だった。遊離体を取り除いて終了。それだけだった。手術時間は1〜1時間半くらいかな」
――リハビリ期間も非常に短かった。経過は順調だったのか?
「手術から10〜12日くらいでほぼ普通の状態になった。2週間後には症状はほとんどなくなっていた。肘が引っかかるような感覚もなくなったし、腫れもかなり引いた」
――通常は手術から復帰までどれくらいかかるものなのか?
「一般的には試合に戻れるまで3カ月くらいで、早くても6週間くらいかかるケースが多い症状だったと思う。でも、僕は2週間で普通の状態に戻った」
――ここまで早い回復には驚いたか?
「もちろん驚いたよ。ただ通常の遊離体手術の回復期間を知らなかったから、自分としては4〜6週間で戻れればいいなと思っていた。それでも医師は“それは保守的な見積もりだ”と言っていたから、安心していた」
――ド軍で同僚となったスネルも同じような状況だった。
「彼の場合は少し違うと思う。彼は遊離体が1つだけじゃなかったからね。僕は本当に特殊なケースだった。今後、この手術が多くの選手に影響するとは思わない。僕は表面近くに遊離体が1つあるだけだったけど、多くの選手はもっと深い場所にある。肘の奥まで入っていかなければならない手術だと、炎症もずっと大きくなる」
――今後、この手術法が新しいトレンドになるか?
「分からないが、もしそうなれば素晴らしいこと。逆に特殊なケースにしか使われなくても、それもいいことだと思う。どちらに転んでもポジティブだと思う。誰かに聞かれたら、もちろん自分の経験を話すつもりだ」
◇タリク・スクバル 1996年11月20日生まれ、カリフォルニア州出身の29歳。シアトル大から18年ドラフト9巡目(全体255番目)でタイガースに入団。20年8月にメジャーデビューし、21年から先発ローテーションに定着。24、25年に2年連続でサイ・ヤング賞受賞。今年2月には年俸調停史上最高額となる今季年俸3200万ドル(約50億7000万円)が認められた。8月1日にトレードでドジャースに加入。1メートル92、109キロ。左投げ右打ち。
≪レイズのアスレチックトレーナー兼鍼灸師・福田紳一郎氏「普及間違いなし」≫レイズのアスレチックトレーナー兼鍼灸(しんきゅう)師を務める福田紳一郎氏(41)は、スクバルが受けた「ナノスコープ」を用いた新たな手術法について「メジャーリーグでこの手術を受けた最初のケース。将来的にはトミー・ジョン手術のように“スクバル・スコープ”と呼ばれる可能性もある」と説明した。
従来の関節鏡手術との最大の違いは、器具の小型化と内視鏡画像の解像度向上だという。
「遊離体除去手術は、関節鏡で肘の内部を確認しながら異物を取り除く。これまで直径約4ミリと鉛筆ほどの太さだった器具が、1・9ミリと注射針ほどに細くなり、視野も格段に見やすくなった。傷口は従来の半分ほど。患部に流し込む水の量も65%少なくなり、術後の腫れを抑えられる」
術後は患部の炎症が治まるまでリハビリなどの運動ができないが、腫れが少ない分、復帰までの期間を短縮できる。スクバルも手術から1週間余りで投球練習を再開した。
「液体量削減、腫れ軽減、早期回復、早期コンディショニングという連鎖が起き、回復にかかる時間は従来の約半分。今後、メジャーリーグでは間違いなく使われていく。トミー・ジョン手術でインターナル・ブレース(人工じん帯での補強)が一般化したように、新しい技術はどんどん採用されていく。ナノスコープが普及していくのは間違いない」
わずか38日で復帰したスクバルの左肘が、野球選手に新たな選択肢の可能性を示した。

