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 暗号資産(仮想通貨)の20%課税で注目されるのは、税率の引き下げだけではない。分離課税の対象となる損失は3年間繰り越せる一方、給与や株式、DEX(分散型取引所)取引の利益とは相殺できず、利益は扶養や住宅ローン控除の判定に使う合計所得金額にも算入される。確定申告の手間も残る。新制度で見落としやすい損失処理、申告、情報報告、デリバティブなどの実務上の注意点を解説する。

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損失は3年間繰り越せるが、相殺できる利益は限られる

 暗号資産(仮想通貨)の売却益を一律20%の申告分離課税とする制度が、2028年から始まる見込みだが、税率の引き下げと並ぶ改正のもう1つの柱が、損失の繰越控除である。節税という点でも重要な変更になる。

 分離課税の対象となる譲渡で生じた損失は、翌年以後3年間にわたって繰り越し、その後の同じ分離課税の利益から差し引くことができる。これまで、暗号資産の損失は、事業所得に区分される場合を除き、年をまたぐと切り捨てになっていたことからすると、大きな前進である。

 数字で見ておこう。ある年に国内の取引所で120万円の損失を出し、翌年に同じ経路で180万円の利益を出したとする。繰り越した120万円を差し引けるので、課税されるのは60万円であり、税額は約12万円で済む。繰り越しの仕組みがなければ180万円に課税されて約36万円だから、24万円ほど違う。

 暗号資産は、1年で数倍になることも、半分以下になることもある資産である。大きく損を出した翌年に大きく利益が出る、という展開は珍しくない。繰り越しがなければ、損の年は税務上なかったものとされ、翌年に利益が出た場合はそのまま課税されていた。

 値動きが大きいほど損の年と利益の年の振れ幅も大きくなるので、それを翌年以後の利益にぶつけられることが、そのまま節税になる。損切りを先送りする理由が1つ減る、という言い方もできる。

 ただし、使える範囲は限られる。分離課税の暗号資産(現物)の損益は、それだけで1つの箱に入っていると考えるとよい。給与所得や事業所得とは相殺できず、暗号資産デリバティブや上場株式など他の分離課税の所得とも相殺できない。

 また、上場株式には、譲渡で出た損失をその年の配当と相殺できる仕組みが用意されているが、暗号資産には、これに当たる規定は置かれなかった。ステーキング報酬*1、マイニング報酬*2、エアドロップ*3は箱の外にあるままなので、国内の取引所で出した売却損とぶつけることはできない。

*1:ステーキング報酬/特定の暗号資産を保有してブロックチェーンネットワークに預け入れる(ロックする)ことで、そのネットワークの維持や取引の承認に参加し、これに伴って受け取る報酬
*2:マイニング報酬/ビットコインなどの暗号資産の取引データを検証・承認する作業(マイニング)を行うことに伴って受け取る、新しく発行された暗号資産や取引手数料
*3:エアドロップ/暗号資産やトークンが無償で配布されること。発行者やプロジェクトの運営者が、広告宣伝・販売促進のために、一定の条件を満たした者や特定の暗号資産の保有者に対して行う

 同じ年に、国内取引所でのビットコイン売却益300万円と、DEXでの取引による損失200万円があったとしても、この2つは別の箱に入っているため差し引けず、300万円にそのまま課税される。

 繰越控除を使うには、損失が出た年から続けて確定申告書を提出する必要がある。利益が出ていない年も申告を続けなければならない点は、上場株式と同じである。

 もっとも、どの経路で売るか、出た損失をどの利益にぶつけるかは、暗号資産以外の所得がいくらあるか、翌年以後に利益が見込めるかによって答えが変わる。

 納税者にとって税制上の有利・不利の組み合わせは思いのほか多く、節税を一般論で決めきれる場面は少ない。取引の規模が大きい方は、早めに税理士に相談したほうがよい。

税率が下がっても所得は減らない、扶養や控除への影響

 見落とされやすいのが、税率は下がっても「所得」は減らないことである。分離課税になっても、暗号資産の利益は合計所得金額に算入される。

 合計所得金額とは、その年の各種の所得を足し合わせた金額のことで、課税所得と違い、基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額である。税額そのものを計算するためではなく、各種の控除が使えるかどうかを判定するために使われる。

 具体的には、配偶者控除や扶養控除、住宅ローン控除などの判定に用いられる。扶養に入っている配偶者や学生が暗号資産で利益を出せば、税率が20%かどうかとは関係なく、合計所得金額が62万円を超えた時点で扶養から外れることがある(令和8年分以後に適用される金額。年分によって金額が変わるため、申告の際は対象年分の法令をご確認いただきたい)。

 住宅ローン控除にも所得の要件があるため、利益を確定した年だけ控除が使えなくなる、という事態も起こり得る。国民健康保険料にも影響する。

 さらに紛らわしいのが、繰越控除との関係である。先ほどの例で、繰り越した120万円を差し引いて課税対象を60万円まで下げたとしても、合計所得金額は差し引く「前」の180万円で計算される。税額をゼロにできた年でも同じである。「税金はかからなかったのに扶養から外れた」という結果が起こりうる。

申告負担は残る一方、税務署への取引情報の報告は強化

 株式投資の経験がある方は、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を思い浮かべるかもしれないが、暗号資産にはこれに相当する制度が導入されていない。分離課税になっても、損益の計算は自分で行い、確定申告も自分で行う。取得価額の計算方法(総平均法・移動平均法)は、これまでと変わらない。主に変わるのは、計算した結果に掛ける税率と、損失の取り扱いである。

 申告の手間が軽くならない一方で、税務署に情報が届く仕組みは整備される。

 国内の暗号資産取引業者には、顧客の売却に関する報告書をマイナンバー付きで税務署に提出する義務が新たに課される。この報告書の制度は、分離課税の適用開始からさらに1年遅れ、適用開始が令和10年(2028年)であれば令和11年(2029年)の取引分から始まる。

 申告する側の手間を軽くする仕組みが用意されないまま、当局が取引を把握する仕組みだけが整っていく、という順序である。

 海外の取引所についても、情報が届く体制が整備されつつある。CARF(暗号資産等報告枠組み)という国際的な枠組みで、各国の取引業者が自国の税務当局に非居住者の取引情報を報告し、それが税務当局同士で交換される。

 日本もこの枠組みに参加しており、日本の居住者が海外の取引所で行った取引の情報は、その国の税務当局を経由して日本の国税庁に届くことになる。もっとも、開始は国・地域ごとに順次である。参加していない国・地域の取引所や、DEX、個人間の直接取引については、情報が届きにくい。

会社員の「20万円ルール」は継続、住民税申告には要注意

 会社員の方からよく聞かれるのが、いわゆる20万円ルールである。給与の収入金額が2000万円以下で、給与を1カ所から受け、年末調整が済んでいる人は、給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下であれば、確定申告をしなくてよいというものだ。

 まず押さえておきたいのは、この20万円が売却代金ではなく、そこから取得費などを引いた後の利益の額だということである。100万円で買ったものを115万円で売れば、判定に使うのは15万円であって115万円ではない。

 分離課税になっても、この考え方は変わらない。国内の取引所での売却益も、副業の収入や海外の取引所での利益と合わせて、20万円を超えるかどうかを見る。

 ただし、20万円以下だから何もしなくてよい、という話ではない。所得税で申告不要であっても、住民税の申告は別に必要になり得る。医療費控除やふるさと納税のために確定申告書を提出するのであれば、20万円以下の暗号資産の利益も申告書に載せなければならない。

 損失を繰り越している人は、金額の大小にかかわらず申告を続ける必要がある。そして、申告をしなかった20万円以下の利益も、合計所得金額には算入される。

暗号資産デリバティブも20%課税、現物とは損益通算できず

 これまで解説してきた暗号資産の現物の売買だけでなく、暗号資産の先物取引や証拠金取引にも改正が及ぶ。

 特定暗号資産を対象とする一定のデリバティブ取引は、FXや商品先物と同じ「先物取引」の分離課税の対象に加えられ、20%の税率と3年間の繰越控除が使えるようになる。対象となるのは国内の市場で行われるものと、国内の業者を相手方とする取引であり、外国市場での取引は対象外である。

 ここでも箱は分かれる。デリバティブの損益はFXなどと同じ箱の中で通算できるが、現物の売買の箱とは行き来できない。現物で利益、デリバティブで損失という年でも、両者を差し引くことはできない。

 暗号資産に投資する上場投資信託(ETF)についても、20%の対象に加える方針が示されている。ただし法改正は一部にとどまっており、暗号資産のETFを作れるようにするための関係法令の改正も済んでいない。このため、課税関係のルールが確定するのはこれからである。

巨額の利益は20%で終わらない、上乗せ課税の対象と条件

 もう1つ、桁の大きな利益を出した場合の話をしておきたい。極めて高い水準の所得に対しては、通常の税額とは別に上乗せの課税を行う仕組みがある。いわゆるミニマムタックスである。

 令和8年度税制改正でこの仕組みが強化され、1億6500万円を超える所得が対象、税率は30%となった。強化後の規定が適用されるのは令和9年分以後である。暗号資産の分離課税の利益がこの計算の対象に加えられるのは、それよりさらに1年遅く、分離課税の適用開始と同じタイミングになる。

 もっとも、1億6500万円を超えたら直ちに上乗せが生じる、というわけではない。実際に追加の税額が発生するのは、暗号資産の利益だけで考えれば、おおむね3億3700万円を超えてからである。一般の投資家には直接関係しないが、大きく当てた人にとっては「20%で終わり」とは限らない。

 なお、海外に移住すれば分離課税から逃げられるのか、という関心もあるだろう。暗号資産の現物は少なくとも現時点では、国外転出時課税(出国税)の対象に含まれていないが、居住者でなくなれば、そもそも国内の取引所を通じた分離課税を原則として使えなくなる。

制度開始までに確認したい取得価額、取引履歴、売却時期

 適用開始まで、まだ時間がある。その間にしておくべきことを確認しておきたい。

 1つは、取得価額と取引履歴の記録である。分離課税になるかどうかは「いつ売ったか」で決まり、「いつ買ったか」では決まらない。適用開始の前から持っていた暗号資産でも、適用開始後に国内の取引所で売れば分離課税の対象になる。

 その際、取得価額をいったん時価で洗い替えるような取り扱いは設けられていない。何年も前に買ったときの価額が、そのまま計算に使われる。古い取引の記録があいまいなままだと、そのときに困ることになる。

 もう1つは、適用開始の直前をどう過ごすかである。仮に令和10年1月1日から適用されるとすれば、令和9年12月の売却と令和10年1月の売却とでは、同じ取引でも税額が変わり得る。

 含み益の大きい銘柄を持っている人にとっては、年末年始の判断が効いてくる。もっとも、相場は税制の都合を待ってくれないし、課税所得の水準によっては総合課税のほうが安いこともある。税率だけを見て売り時を決めるのは、やはり危うい。

「暗号資産の税金が20%になった」という一文で片づけられる改正ではない。20%という数字は、いくつもの条件を満たした先にある入り口にすぎない。自分の取引のどれがその入り口の内側にあり、どれが外側にあるのか──。制度が動き出すまでの1年半ほどの間に、確かめておく価値がある。

【前編はこちら】暗号資産の税率は本当に「最大55%から20%」になる? 2028年開始見込みの新制度、対象銘柄と売却場所の落とし穴

筆者:泉 絢也