沖ノ鳥島は「島」か「岩」か、中国艦の実弾射撃で再燃したEEZ、海洋権益、海底資源を巡る日中攻防の深層

沖ノ鳥島(写真:共同通信社)
今年(2026年)7月21日、防衛省は、19日に沖ノ鳥島の南西約180キロに位置する日本のEEZ(排他的経済水域。領海の外側に設けられ、領海の幅を測る基線から原則200カイリ、約370キロまでの海域)内で、中国海軍のミサイル駆逐艦が機関銃による射撃訓練を実施したと発表した。沖ノ鳥島は東京の南約1700キロに位置する。
中国艦艇が日本のEEZ内を航行することは珍しくない。しかし、防衛省が中国艦による日本のEEZ内での射撃訓練を公表したのは今回が初めてである。

図:共同通信社
中国艦が沖ノ鳥島EEZで実弾射撃、防衛省が異例の初公表
中国海軍のミサイル駆逐艦2隻(艦隊防空用の長距離対空ミサイルを装備)と補給艦1隻、ロシア海軍のフリゲート1隻の計4隻からなる中ロ艦隊は、「合同パトロール」の一環として、7月中旬に東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を抜け、太平洋を南下した。
沖ノ鳥島の南西約180キロのEEZ内では、中国海軍のミサイル駆逐艦が、機関銃による射撃訓練を実施したという。
防衛省は写真も公開した。艦艇付近に浮かべた赤色の標的に向け、機関銃による射撃訓練を行ったとみられる。
ただし、中国側にも一定の配慮はみられた。射撃前には、周辺船舶に対して無線による警告が行われたとされるなど、一定の配慮はみられた。とはいえ、大型水上戦闘艦による日本のEEZ内での実射は、日本に対する威圧と受け止められても仕方がない。少なくとも友好的な行動とはほど遠い。
木原稔官房長官は、「周辺の船舶の航行に危害を及ぼし得るものとして、中国に対し、外交ルートを通じて申し入れを実施した」と懸念を表明した。
これに対し、中国外交部(外務省)の林剣副報道局長は7月21日、「日本側のいわゆる『申し入れ』には何の道理もなく、中国側は断固として退けた」と発言している。

記者会見する中国外務省の林剣副報道局長(2026年7月21日、写真:共同通信社)
EEZでの軍事演習は違法なのか、UNCLOSが残す解釈の溝
海洋に関する国際的なルールを定めた「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約(UNCLOS、1982年採択、1994年発効)は、領海やEEZをはじめとする海洋秩序の基本原則を定めている。
UNCLOSの締約主体は、日本、中国、ロシアなど171カ国とEUの計172に及ぶ(2026年7月29日現在、国連の寄託情報)。米国は深海底資源の配分などに不満を抱き、締結していない。ただし、「公海の自由」をはじめ、大半の規定についてはUNCLOSに沿った運用を行っている。
EEZ内における沿岸国の権益は、水産資源や鉱物資源、自然エネルギーの探査・開発・保全・管理を排他的に行う「主権的権利」と、人工島・施設の建設、海洋環境の保護・保全、海洋科学調査などに対する許認可権である「管轄権」に限定される。
他国の船舶や航空機の航行・飛行の自由は当然確保される。またUNCLOSは、EEZ内における外国軍の射撃訓練を明文で一律に禁止していない。ただし、軍事活動の範囲や沿岸国の同意の要否を巡っては国家間に見解の相違がある。
日本や米国など多くの海洋国家は、沿岸国の権利に適切な考慮を払う限り、EEZ内での外国軍の活動は原則として許容されるとの立場を取る。これとは異なり、中国などは一部の軍事・情報収集活動には沿岸国の同意が必要だと主張しており、解釈は一致していない。
今回、日本政府は射撃そのものを違法とは断定せず、周辺船舶の航行安全に危害を及ぼし得るとして申し入れた。
EEZは「領海」とは似て非なる海域である。すなわち、中国艦艇が日本のEEZ内で実弾射撃を行うことは、日米などが容認するもので、日本が直ちに中止を求めれば矛盾が生じてしまう。これまで日本は実弾射撃そのものに反対を表明した例はなく、今回も「船舶の航行に危害を及ぼすことへの懸念」を伝えるなど、慎重に言葉を選んでいる。
林氏は日本側への反論の中で、沖ノ鳥島の法的地位に論点を移し、「“沖ノ鳥”は岩礁であって島ではない。日本は島であることにしてEEZを主張しているが、国際法に違反している」と批判を展開したのだ。
これに対し木原氏は7月22日、「沖ノ鳥島は国連海洋法条約上の島であり、EEZおよび大陸棚を有している。中国側の主張は当たらない」と否定した。
中国側がなぜ唐突に、沖ノ鳥島を基点とするEEZへの批判に話題を変えたのか。その真意は不明だ。おそらく、中国が現在強引に推し進めている南シナ海の領有権主張を巡り、国際的に旗色が悪くなっていることから批判をそらし、「EEZ」という共通のキーワードを使って、逆に日本批判へと議論を転じようとしたのではないか、との指摘もある。

中国海警局の護衛船(写真:共同通信社)
中国の「九段線」を退けた南シナ海仲裁判断の衝撃
中国は、南シナ海の大半を囲む「九段線」と呼ばれる破線を示し、その内側にある島嶼や岩礁などに権利を主張している。その根拠として持ち出すのが、漢代から同海域を管理・利用してきたとする「歴史的権利」である。

図:共同通信社
これに対し、南シナ海沿岸各国は反発した。特にフィリピンの反発は激しく、係争中の南沙(スプラトリー)諸島を巡って、中国が主張する「歴史的権利」の法的根拠について、2013年1月に常設仲裁裁判所(PCA)が事務局を務める仲裁廷に判断を求めた。いわゆる「南シナ海仲裁判断」である。
中国は仲裁手続きへの参加を拒んだが、仲裁廷は2016年7月12日、中国が九段線内の資源についてUNCLOS上の海洋権原を超えて主張する「歴史的権利」には法的根拠がないと判断した。
仲裁廷は、南沙諸島の島嶼がどの国に帰属するかについての判断は避けた。一方、これまで曖昧だった「島」と「岩」の判断基準や、それに付随するEEZ・大陸棚*注の扱いについて、かなり踏み込んだ判断を示したことで注目された。
*注:大陸棚/沿岸国の主権的権利が及ぶ海底およびその地下。海底の地形や地質が一定の条件を満たす場合、EEZの外側、すなわち領海基線から200カイリを超える海域に、大陸棚の限界を設定することができる。細かな規定はあるが、領海基線から350カイリ、または水深2500メートルを示す等深線から100カイリ沖合の、いずれかを超えない範囲で「延長大陸棚」として設定できる。延長大陸棚では、沿岸国は海底およびその地下にある資源の探査・開発・掘削、人工施設の建設などについて、排他的な権利を有する。
結論として、仲裁廷は「島」と「岩」を区別するに当たり、相当に厳格な基準を採用し、南沙諸島にはEEZや大陸棚を生じさせる「島」は存在しないと判断した。
UNCLOS第121条「島の制度」の第1項と第3項では、次のように規定している。
1.島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう
3.人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできない岩は、EEZまたは大陸棚を有しない
もっとも、第3項にいう「人間の居住」や「独自の経済的生活」が具体的に何を意味するのかは明確ではなく、その解釈は長く定まっていなかった。このため、高潮時にわずかでも水面上に残る自然地形であれば、EEZや大陸棚を生じさせる「島」として扱われる余地があるとの見方が、各国の実務では広く存在していた。
しかし、第1項で高潮時に少しでも水面上にあれば「島」と規定しながら、第3項では「人間の居住」「独自の経済的生活の維持」という例外規定を設ける複雑な構成となっている。しかも、「居住」とは何人程度を指すのか、一般市民ではなく警備任務の将兵でもよいのか、「独自の経済的生活」とは具体的に何を意味するのかなど、不明瞭な点が少なくない。
南シナ海仲裁判断では、一つの判断基準として、例えば飲料水を確保できるか、農業が可能か、植生が存在するか、実際にその土地に長年にわたり生活基盤を置く複数の住民がいるか、といった点が示された。
仲裁廷は、こうした条件を満たさない地形について、高潮時にも水面上にある場合でも、UNCLOS第121条3項の「岩」に当たり、EEZや大陸棚を生じさせないと判断した。
この結果、南沙諸島の各地形を基点とするEEZや大陸棚は認められないことになった。フィリピン側は主張の大半を認められ、全面勝訴に近い結果となったが、当然ながら中国はこの判断を無視し、現在に至っている。
仲裁判断10周年、相次ぐ海洋対立と米国のけん制
南シナ海では、中国とフィリピンの対立が依然として続いている。南シナ海仲裁判断から10年を迎えた今年7月12日、中国外務省は「仲裁判断は違法かつ無効であり、効力のない紙くずにすぎない」とする声明を発表し、改めて判断を受け入れない姿勢を鮮明にした。
その後、東アジアと南シナ海では、海洋秩序を巡る緊張が相次いで表面化した。
7月19日には、中国海軍の大型艦が沖ノ鳥島周辺の日本のEEZ内で射撃訓練を実施。翌20日には、南シナ海のアユンギン礁で中国とフィリピンの船艇が接近し、フィリピン兵が負傷する事案が発生した。
21日には、防衛省が中国艦による日本のEEZ内での射撃訓練を初めて公表し、木原稔官房長官が中国側に外交ルートを通じて申し入れた。中国側はこれを拒否するとともに、「沖ノ鳥島は島ではなく岩礁だ」と反論した。
さらに23日、ASEAN関連外相会議に出席するためフィリピン・マニラを訪れていたルビオ米国務長官は、南シナ海でフィリピンへの圧力を強める中国の行動を「憂慮すべきだ」と批判した。米国は米比相互防衛条約に基づくフィリピン防衛の義務を果たすと改めて強調し、中国の威圧的な行動をけん制した。
沖ノ鳥島周辺と南シナ海で相次いだ一連の動きは、EEZや海洋権益、国際的な海洋秩序を巡る対立が一段と深まっていることを示している。

表:共同通信社
中国の「岩」論に対抗、日本が積み重ねる統治とインフラ
では、中国が「岩でありEEZを有しない」と主張する沖ノ鳥島の法的地位は、盤石といえるのだろうか。
木原氏は7月22日の会見で、「日本は1931(昭和6)年7月の旧内務省告示以来、島として実効支配し、EEZを設定してきた。島としての地位はすでに確立したものと考えている」と強調した。
南シナ海仲裁判断では「島」の資格が厳格に定められた。ただ、この判断はあくまでも南シナ海の事案に限ったもので、直ちに地球全体かつ普遍的に適用されるものではないとも強調する。また、地形の大きさそれ自体が、その地位(島か岩か)を決定する基準とはなりえないとも念押ししている。
それでも仮にこの解釈を当てはめれば、沖ノ鳥島は「岩」に格下げされ、広大なEEZや大陸棚を失う可能性もゼロではないとの指摘もある。
木原氏が強調するように、日本は1931年、沖ノ鳥島を正式に日本領として認定・公示し、閣議決定を経て東京府小笠原支庁に編入した。
その後、他国から抗議や異論が示されることもなく、1987(昭和62)年には護岸工事を実施した。さらに、その維持管理を建設省京浜河川事務所が所管するなど、「島」として永続的に統治してきた実績を持つ。
中国が沖ノ鳥島をEEZや大陸棚を有しない「岩」だと主張し始めたのは、2003年末から2004年にかけてのことだ。その後、中国は日本の同意を得ないまま、沖ノ鳥島周辺海域で海洋調査を繰り返している。日本はこれに対抗し、国土地理院による電子基準点「沖ノ鳥島」や、海上保安庁による「沖ノ鳥島灯台」の設置、低潮線保全区域の設定などを進めてきた。
さらに2012年には、大陸棚限界委員会が、沖ノ鳥島北方の四国海盆海域(本州南部に広がる、四方を日本のEEZに包囲された“空白地帯”)などを延長大陸棚として勧告し、日本はこれを受諾した。
大陸棚限界委員会の勧告は、あくまでも大陸棚外縁の科学的・技術的審査による結果で、これにより沖ノ鳥島がUNCLOS第121条上の「島」であることを、国際機関が法的に承認したものではないが、この延長大陸棚の勧告も中国は苦々しく思っている。
沖ノ鳥島の保全と港湾整備、「島」の地位は守れるか
こうした約1世紀にわたる行政管理の積み重ねは、日本の領有権を支える重要な実績となっている。
日本は2010年、EEZや大陸棚の基礎となる低潮線を保全し、海洋資源の調査・開発などに必要な拠点施設を整備するため、低潮線保全法を制定し、沖ノ鳥島を特定離島に指定した。これを受け、インフラ整備を加速させる計画が進められている。
具体的には、国土交通省、水産庁、東京都が中心となり、2034(令和16)年度までに約2220億円を投じて、港湾施設(全長160メートル、水深8メートル)や臨港道路などを整備する。
そのほか、漁業活動の実績づくりや、コバルト、ニッケルなどを含むコバルトリッチクラストの調査・開発を支援する計画が進められている。当然ながら、港湾施設については、防衛面での使用も念頭に置かれているはずだ。
こうした動きに対して、「南シナ海仲裁判断では、人工物を構築しただけでは不十分であり、島に根付いた経済活動や生活が永続していなければならない。調査員や公務員が居住するだけでは、島として認められないのではないか」と懸念する向きもある。
しかし、日本には沖ノ鳥島を約100年にわたり継続的に統治してきた実績がある。その統治の延長線上に、港湾施設などのインフラ整備が存在する、との論理も成り立つ。加えて、沖ノ鳥島では、水面上にわずかに突き出た「岩」、すなわち陸地を防護するため、チタン合金製の柵やコンクリート構造物で厳重に保護している。
もはや自然の「島」とはいえないのではないかとの指摘もある。だが、南シナ海仲裁判断を厳格に当てはめた場合、地球温暖化による海面上昇で、今後国土の水没が危惧される太平洋の島嶼国の多くが「岩」と認定され、広大なEEZや大陸棚を手放さなければならないという不都合も生じかねない。
国土の防護・保全は、国家の存続に不可欠な行為である。海面上昇によって水没しかねない国土を守るために堤防を築いた結果、「岩」と認定されるという理屈はあまりにもナンセンスだ。こうした理由から、人工物によって陸地を防護した場合には「島」ではなく「岩」になるという考え方は、島嶼国から支持されないことは間違いない。
実際、沿岸国の中には、本土に近接する島や岩礁など、高潮時にも水面上にある地形を基点として、海洋区域を設定している例がある。オーストラリアのエリザベス礁やミドルトン礁などがその一例だ。
南シナ海仲裁判断が示したUNCLOS第121条3項の解釈を、こうした地形にも機械的に当てはめれば、各国が設定してきた基線やEEZ、大陸棚の見直しを迫られる可能性がある。その場合、海洋権益が縮小しかねない沿岸国の反発を招くだけでなく、長年にわたって積み重ねられてきた国家実行や法的安定性にも影響を及ぼすことになる。
レアアースと制海権、中国が沖ノ鳥島を狙う2つの理由
沖ノ鳥島とは別に、日本の海底資源開発で注目されているのが南鳥島周辺である。日本は同島近海の深海底、水深約5600メートルに広がるレアアース泥を連続的に吸い上げる「揚泥」について、海底から船上まで泥を連続的に引き上げる採鉱システムの接続試験を実施した。7月24日には、内閣府などが泥の成分分析結果を公表した。
その結果は想像以上のものだった。レアアースの中でも、現在中国以外での産出が少ない「中重希土類」(イットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなど)が、レアアース成分の半数以上を豊富に含んでいることが確認され、2027年2月からは大規模な実証試験に移行する計画だ。

日本最東端の南鳥島(写真:共同通信社)
南鳥島周辺の有望海域約2500平方キロメートルには、酸化物換算で1600万トン超のレアアース資源が存在する可能性が推定されている(2018年研究)。沖ノ鳥島周辺でも、コバルトやニッケルなどを含むコバルトリッチクラストの存在が確認されており、港湾施設は調査・開発活動を支える拠点として期待されている。

南鳥島周辺のEEZ海底下にあるレアアースを含む泥を試掘するため、静岡市の清水港を出港する海洋研究開発機構の探査船「ちきゅう」(2026年1月、写真:共同通信社)
こうしたことから、中国が「沖ノ鳥島のEEZや大陸棚を取り消し、豊富な海底資源を日本が独占することを何とか阻止したい」と考えても不思議ではないだろう。公海の深海底やその地下は「人類共同の財産」として、国際海底機構の管理・規制をある程度受けるが、かなりの自由度で中国は資源開発を行うことができるからだ。
沖ノ鳥島のEEZ内で中国艦が実射訓練を実施した背景には、太平洋への進出を図り、伊豆諸島、小笠原諸島、マリアナ諸島を結ぶ「第2列島線」以内の海域で、軍事プレゼンス(存在感)を高めようとする狙いがあるとの指摘もある。

図:共同通信社
中国が西太平洋で軍事的な活動範囲を広げる背景には、米軍の接近を阻止する「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」戦略とも結びついている。
沖ノ鳥島周辺は今後、日中の海洋戦略がせめぎ合う重要海域となるだろう。さらに、太平洋で優位な軍事力を持つ米国と、空母艦隊を増強して海洋進出を図る中国との角逐の場として、緊張が一段と高まる可能性がある。
筆者:深川 孝行
