弟の写真を持つ塚原たえさん(7月29日 都内/弁護士JPニュース編集部)

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「証拠がない、証拠がないと言われ続けてきた。でも、証拠となる本人がここにいるじゃないですか」--。原告代理人の福永活也弁護士は、隣に座る女性を示し、そう述べた。

9歳から17歳まで実父である被告から性的虐待を受け続けたとして、塚原たえさんが父親に損害賠償を求めている裁判で7月29日、第1回口頭弁論を終えた塚原さんは、29歳で自死した弟の写真を手に、都内で会見に臨んだ。

加害があったとされるのは何十年も前。塚原さんは福永弁護士に依頼する前、複数の弁護士から“時効”を理由に受任を断られ続けてきたという。

「この法曹界は何なんだとショックを受けた」

塚原さんは実名でメディアに出演し、被害を訴えてきた。だが、行く先々で立ちはだかったのが“時効”だった。民法上、不法行為の加害者に対する損害賠償請求権は、被害や相手を知った時から3年(人の命や身体の害については5年)、または行為の時から20年経過すれば、時効により消滅する(民法724条)。

塚原さんは本人訴訟を試みて裁判所に足を運んだものの、受け付けすら断られたと振り返る。

一方、福永弁護士がこの事件を知ったのは、塚原さんの発信を見た知人からの紹介だったといい、「事件に関するいろんな記事を見ていたら、時効の壁が厳しくて弁護士に断られたという話を見かけた。この法曹界は何なんだとショックを受けた」と受任の経緯を明かした。

当初は「勝てるかもわからない、勝っても賠償金が支払われるかわからない」との声もあったというが、福永弁護士は「金銭目当ての裁判ではない」と強調。

「傷ついた状況を司法という第三者機関に認めてもらい、自尊心を回復すること」が目的だと考え、受任を決めたと説明した。

9歳から続いた虐待

訴状によると、被告からの性加害が始まったのは塚原さんが9歳のとき。当初は体を触られる行為に始まり、やがて強姦に及ぶようになり、その後17歳まで日常的・継続的に続いたとされる。加害は自宅の一室や入浴の際など、生活のあらゆる場面で繰り返されたと主張している。

被害を受けたのは塚原さんだけではなかった。訴状では、塚原さんの弟と妹も性加害を受けたとされ、弟はその後、29歳で自死したと記されている。

訴状では、性的な加害だけでなく、9歳ごろから16歳まで塚原さんと弟に日常的に繰り返されたという身体的虐待やネグレクトも詳細に列挙されている。

服や下着を剥ぎ取られ、うつ伏せや正座をさせられたり、鴨居から両手首をつって吊るされたりした状態で、洗濯用のホースや濡れタオルで、傷ができるまで背中や太ももを打たれる。傷口には酢や醤油を塗り込まれ、悲鳴を上げれば口をタオルで塞がれた-。訴状はそう記す。

屋外の浴槽で顔を何十回も水に沈められる水責め、火のついたタバコを両手や体に押し付ける“根性焼き”、真っ暗なトイレへの長時間の監禁、数日間食事を与えられず水道水だけで飢えをしのいだこと、真冬に裸で屋外に出されたこと、15歳の夏に包丁で右腕を切られたこと-。

訴状には、こうした行為が具体的に挙げられており、近所のスーパーで万引きを命じられ、土下座して「服従します」と何度も言わされたこともあったという。

塚原さんは会見で、浴槽に水を張られ何十回も顔を沈められた記憶から「お風呂が今でもつらい。今も一人で湯船につかることができず、シャワーですら、ドアを開けたままでなければ入れない」と述べた。

1通の手紙がきっかけでフラッシュバック

訴状によると、16歳のころ、塚原さんは警視庁本部の少年課に被害を申告した。被告は加害を認めたものの、立件には至らなかったという。

その後は児童自立支援の施設に入所したが、施設を出て暮らそうとした際にも、被告に連れ去られ性的被害を受け妊娠し、流産を経験した。

塚原さんはその後、結婚を機に20年近く被告との接触を絶っていた。だが2021年10月、被告から連絡を求める手紙が届いたことをきっかけに、初めて加害された当時の光景がフラッシュバックするようになったという。

自傷行為や解離症状も現れたことから、同年12月、50歳の誕生日を機に精神科を初めて受診したところ、虐待による複雑性PTSD(長期間の虐待などで生じる心的外傷後ストレス障害)と診断された。

「損害は今も続いている」

本件で最大の争点となるのが、消滅時効だ。

この点について、塚原さん側は、現在も精神的苦痛や身体の不調を抱えており「損害の発生は加害から時を経ても続いているため、時効は完成していない」という立場を示している。

また、加害があったとされる当時は、同意のない性交を処罰する不同意性交等罪(2023年に新設)もなく、被告側がどう反論するかも焦点となる。

加害当時に不同意性交等罪はなかったものの、福永弁護士は「明確な暴行・脅迫はあった」と主張。

物証が乏しい性加害の立証については「裁判では物証だけでなく、証人尋問を通じて得られる証拠もある。塚原さんの話は具体性も迫真性もあり、体験した人でなければ語れない」と述べ、本人尋問を軸に立証する方針を明かし、次のように述べた。

「(虐待を受け)傷ついた塚原さん本人という証拠がある。裁判ではそこを見てほしい」(福永弁護士)

匿名Xで“うそつき”と中傷、正体は実父本人

訴訟にはもう一つの柱がある。塚原さんが実名で被害を告発した後、被告が匿名のXアカウントを使い、“うそつき”“知恵遅れ”などと繰り返し中傷したとされる問題だ。

塚原さんが警察に相談して投稿者を特定したところ、投稿者は被告本人だったという。被告は2025年に侮辱罪で略式命令を受け、罰金10万円の支払いを命じられた。

そこで今回の裁判では、名誉権の侵害と、侮辱による名誉感情の侵害の双方を主張。請求額は100万円だが、福永弁護士によると、裁判の進行にあわせ、総額3300万円まで増額する予定だという。

「尊厳を取り戻すための裁判」

「金銭の問題ではなく、私たち3人きょうだいの尊厳を取り戻したい」。塚原さんはそう語った。「被害に遭っている子たちに、自分は被害者なんだと気づいてほしい。戦っていいんだよ、と伝えたい」。会見では亡き弟に触れ、「この子のためにも最後まで戦い抜きたい」と述べた。

塚原さんは、性被害や性虐待に遭った子どもの相談に応じる一般社団法人の代表理事を務め、公訴時効の撤廃と厳罰化を求める署名活動も展開しており、会見までに5万6000超の署名が集まっているという。

なお、第1回口頭弁論で被告側は請求の棄却を求めた。実質的な反論は「追って主張する」としており、本格的な攻防は、次回期日以降に交わされる見通しだ。