郵政民営化の頓挫が決定的に!赤字を垂れ流す日本郵政に国費を年に650億円も投入するのは「すべて選挙のため」
「これでは焼け太り」
小泉純一郎政権以来、国が四半世紀にわたって進めてきた郵政民営化の流れが頓挫することが決定的となった。「官業回帰」を目論む全国郵便局長会(全特)の意向を受けて自民党郵政族議員らが議員立法で特別国会に提出した、改正郵政民営化法が与野党の圧倒的多数で成立した。
人口も郵便需要も縮小する中、間尺に合わない全国2万4000の郵便局を維持するために年間650億円もの国費が投入され、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の完全民営化も事実上凍結されることになったからだ。
「これでは焼け太りだ。国民の利益はどこにあるのか」(財務省幹部)
法令違反から汚職事件まで不祥事が絶えず、料金値上げや土日配達の取り止めなどサービス低下も著しい郵便事業への公的支援を巡っては、霞が関でも疑問視する声が挙がっていた。だが、来年の統一地方選や再来年の参院選を控える中、そんな良識的な意見はかき消された。
自民党は全国約2万人の郵便局長を擁する全特を、野党は21万人超に上るJP労組をそれぞれ集票マシーンと頼んできた。総務省(旧郵政省)にとっても、日本郵政グループが半官半民の「巨大なキメラ」のままのほうが天下りしやすく好都合だ。かくて政官民の既得権益勢力の思惑通りに郵政民営化の理念はあっさり葬り去られた。
「かつての郵政一家のように会社(日本郵政グループ)や全特、労組と、我々や役所が一体となって民営化の見直しを必ず実現する」。「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟(郵活議連)」(会長=山口俊一・元副総務相)を中心とする自民党の郵政族議員は、こう意気込み、2年ほど前から郵政民営化法の見直しを邁進してきた。
裏で糸を引いたのは全特である。国政選挙となれば、全国の郵便局長を総動員して家族や知人、郵便局の顧客まで手当たり次第に推薦候補への支持を集める。
総裁選の行方も左右
2025年の参院選では組織内候補として擁立した犬童周作氏(1992年、旧郵政省)が自民党比例で最多となる48万票余りを集めて当選するなど、その威力は日本医師会やJAグループなど他の利益団体を大きく凌駕する。
また、各郵便局長は自民党員でもある。総裁選では、局長の家族や知人らも含めた全特ファミリー党員の「組織票」がどの候補に流れるかが勝敗を左右するカギとも指摘されてきた。
総務相経験者である高市早苗首相はもとより、かつて民営化を推進した小泉純一郎元首相を父に持つ小泉進次郎氏まで、総裁選時には全特に協力を要請したほどだ。全特幹部は2024年、25年の総裁選で「全ての候補から郵政民営化法の見直しへの賛同を取り付けた」と豪語している。
国費投入を巡っては当初、政府・与党内でも「民営化の趣旨に逆行し、国民に説明するのが難しい」との慎重論があった。
だが、郵政族議員は、郵便局を運営する日本郵便の「本来業務」に地方自治体の行政サービスなどの受託を追加。過疎化を背景に自治体の支所などが縮小されていることを挙げ、郵便局が公的証明書の交付や各種の届け出などの行政サービスを肩代わりして「地域を支えるインフラになる」(郵政族議員)と強調し、不採算の郵便局に国費を投入する仕組みを講じた。
財源は政府が保有する日本郵政株の配当金(年間約628億円)や07年の郵政民営化前に預けられていた払い戻しの権利が切れた郵便貯金(休眠貯金)の一部を充てると説明するが、国民負担に変わりはない。
マイナカードのほうが便利では?
「地方のインフラ」として本当に機能するかも疑わしい。全特の圧力で郵便局数の削減に手を付けられない日本郵政は、赤字の膨張を抑える苦肉の策として郵便局の半日営業など窓口の営業時間の短縮を拡大しているからだ。これで自治体の代替サービスを十分に行えるとは思えない。
政府はデジタル庁まで新設して「行政の電子化」をうたってきた。そうであるならば、マイナポータルの使い勝手を向上させ、マイナンバーカードを活用したデジタル証明書サービスを充実させるなどして自治体の業務縮小分をカバーしたほうがよほど有効だろう。高齢者でもスマートフォンが生活必需品となった状況を踏まえれば、郵便局にわざわざ出向くよりもはるかに利便性は高いと言える。
日本郵政が保有するゆうちょ銀行と、かんぽ生命の株式については、もともと05年に成立した旧郵政民営化法で17年9月末までに完全売却すると明記されていた。旧民主党政権下の12年の法改正で売却期限は削除されたが、「できるだけ早期に処分」との方針は堅持されていた。
片山さつき金融相も音なし
国が36%弱を出資する日本郵政傘下の金融2社には、民業圧迫回避を理由に貯金や保険の引受額に上限を設ける業務規制がかかっており、日本郵政が全株を手放し、完全民営化しなければ経営の自由度が高まらず、思い切った成長戦略が立てられないのが実情だ。
金融2社は、日本郵政とともに15年に株式上場しており、投資家は完全民営化による業務規制の早期撤廃を求めてきた。にもかかわらず、政治の圧力で日本郵政に「当分の間」2社株の保有が義務づけられたことは、民営化の趣旨だけでなく、市場原理にも逆行すると言わざるを得ない。
ちなみにゆうちょ銀を総務相とともに共管する片山さつき金融相は、自民党金融調査会長時代には「日本郵政の金融2社株の全株売却の趣旨を後退させるなら、業務規制を維持するのは当然。むしろ強化する必要性さえあり得る」などと激しく噛みついていた。だが、自らも28年夏に参院議員の改選期を控えているためか、今回は音なしの構えだった。
こうして国費投入が決まった日本郵政だが、このところ不祥事が連発している。旧郵政官僚出身のトップに経営は立て直せるのか。後編記事『血税で赤字の尻拭い…不祥事が頻発する日本郵政の「致命的な経営失策」』に続く。

