「闇バイト」という言葉の発案者は私です…「ルフィグループ」元最高幹部が明かす組織の実態 「50万円で売られてくるホストの女性客」「はした金で手なずけた弁護士」も
2022年10月から23年1月にかけて立て続けに発生した、いわゆる「ルフィ広域強盗事件」。この凶悪事件の全貌に迫ったノンフィクション『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)が話題を呼んでいる。前編では、著者・栗田シメイ氏が「伝説のかけ子」やフィリピン側の幹部・小島智信被告との取材を通して垣間見た、意外な人間性に迫った。後編では、彼らが荒稼ぎした金の使い道、フィリピンという国が犯罪をどう助長したのか、そして日本の「闇バイト」が抱える構造的な問題について聞いた。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】(全2回のうち第2回)
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第1回【「大変だったんじゃないですか?」 被害総額60億円「ルフィグループ」元最高幹部の意外すぎる“ねぎらいの言葉”…“恋愛漫画”を読み“スイーツ”を好む凶悪犯の素顔とは】からの続き。

特殊詐欺と広域強盗で荒稼ぎした金は、カジノや高級コンドミニアム、連日の豪遊に消えていった――。特殊詐欺や広域強盗の被害者は、物理的にも心理的にも深い傷を負うことを我々はこれまでの報道で見聞きしている。それだけに、本書を読むと、加害者側のあまりに刹那的で享楽的な金の使い方に憤りすら覚える。
日本国内での特殊詐欺の受け子や出し子、広域強盗の実行役も、微々たる“報酬”にありつくことができる。これを目当てに、彼らはSNS上に散見される「闇バイト募集」にコンタクトする。彼らが「闇バイト」に手を染める動機は“借金”が多い。
「犯罪に手を染める時は、もう少し葛藤や段階があるものだと思っていたんです。でも、わずか数十万円の借金がきっかけで闇バイトに応募してしまう人が存在する。しかも、借金の原因は携帯ゲームの課金だったり、ギャンブルだったりする場合がほとんどです」(栗田氏。以下同)
衝撃的なのが、女性メンバーの多くがホストクラブの“売り掛け”が原因でスカウトから組織に売られてくる実態だ。
「女性メンバーの8〜9割が、わずか“50万円”でスカウトから権利を買い取られる形で海外に渡っていると聞いた。1000万円の詐欺が成功した場合、掛け子の取り分は5%、つまり50万円。1回成功すればもとが取れる、という彼らなりのロジックなんです」
成功しなければ、接待要員や敵対組織へのスパイ、もしくは「自分の女」にすればいい――。そうした身も蓋もない計算が組織内で行われていたという。
「日本に戻ることは考えていなかったのでは」
携帯ゲームで溜まった借金のため、ホストクラブの売り掛け金のため……。そんな事情で組織に加わった末端構成員の“働き”によって得られた犯罪収益。幹部らはそのカネを湯水のように使っていたという。とはいえ、彼らにしても将来や老後のことを考えればあまりに向う見ずに思えてしまう。詐欺によって巨額のカネを手にした彼らのゴールは、一体、どこにあったのか。そんな疑問を栗田氏にぶつけると、思いがけない答えが返ってきた。
「多分、彼らは日本に戻ることを最初から考えていなかったと思うんです。想像の域を出ないんですが、ルフィグループの主だった幹部はほとんどが北海道出身なんですよね。寒い地域で生まれ育った人間は、温かい土地を好む――。これは犯罪者心理としてあるのではないかと思っていて。犯罪まがいのビジネスで私腹を肥やした半グレが、なぜか石垣島や宮古島に流れ着いて店を始めたりするのと同じ理屈です」
つまり、彼らにとってフィリピンは“逃亡先”ではなく、最初からゴールだったというのである。日本の捜査機関を甘く見ていたこともあり、“捕まる”という意識自体が希薄だったとも栗田氏は言う。
一方で、渡辺被告や小島被告ら上層部は、組織がいつまでも続くとは考えていなかったようだ。渡辺被告は現地の不動産開発案件に、小島被告は日本のレアなスニーカーの転売ビジネスに手を出していた。そんな商売柄か、小島被告は拘置所で面会を続ける栗田氏の“ファッションチェック”にも余念がなかった。
「僕が面会に訪れると、まず全身の服をチェックしてくるんです。“それ、F.C.R.B.でしょ、俺が組織の中で流行らせたんですよ”なんて言ってくる。フィリピンの富裕層向けに、現地の大きな財閥系グループと組んで転売ルートを作り、月500万円は確保していたと話していました」
あえて詐欺や広域強盗に手を染める必要などないのでは……、と思うほどのビジネスセンスだ。現地の富裕層との取引現場は、マニラ屈指の高級エリア「BGC」のショッピングモールで、しかも、地下駐車場にシークレットベースを作っていたというからスケールも大きい。
賄賂と人脈
なぜフィリピンで、これほどまでに大胆な犯罪が可能だったのか。栗田氏自身も取材のため現地入りしているが、そこで痛感したのは「賄賂と人脈がすべてを動かす」現実だったという。
「僕も現地の強いコネクションを持つ仲介者を通じて、官僚や捜査幹部に取材しました。顔とお金で成り立つ世界だと実感しました」
渡辺被告らのグループはタガログ語をまったく話せなかったが、彼に近しい人物が現地に太いパイプを持っていたことで、犯罪がスムーズに進んだと栗田氏は見る。収容所内では中国系・韓国系のグループも当たり前に詐欺を行っており、「詐欺をやるのが当然」という空気が醸成されていたことも大きかったという。
フィリピン取材は危険と隣り合わせでもあった。夜は外出を控え、運転手を付けるなど安全確保に神経を使ったと明かす。
「行ってよかったとは思いますが、正直、リスク管理には細心の注意を払っていました」
23年1月、フィリピン側の幹部らの指示で実行された東京・狛江での強盗事件で、住人の90歳女性がバールによる殴打で命を奪われた。以降、日本国内でも“闇バイト強盗”の残忍さが広く知られることとなった。
この事件をめぐっては実行役だけでなく、フィリピンの幹部4人も逮捕され、組織の実態解明が進められてきた。しかし、彼らは日本の留置場や拘置所に身柄を拘束されながら、外部の関係者と意思疎通を図っていたという。
暗躍する「ハト弁」
「ルフィ」を名乗っていた今村磨人被告が、面会に訪れた弁護士の携帯電話を通じて、フィリピンにいるJPドラゴン幹部と通話していたことは2023年に大きなニュースとなった。この面会時の通話によって、幹部は今村被告に口止めしていた疑いもある。栗田氏が文通や面会取材を続けていた小島智信被告も、“お抱え弁護士”の存在を明かしたという。
「小島被告によれば、組織は何人もの“ハト弁”を抱えていたそうです」
ハト弁とは、身柄を拘束されている人間に外部から連絡を取る際、“伝書鳩”のように利用される弁護士を指す。
「無理な依頼をする時は50万円、伝言程度なら10万〜20万円くらいだと。“若い弁護士はいま稼げないから”と、足元を見るような言葉を聞かされて。嫌な話だなと思いました」
逮捕前は、特殊詐欺や広域強盗に手を染める末端の実行役に対して、そして逮捕後も稼げない弁護士に対して、安価な報酬をチラつかせて意のままに操る……。幹部の狡猾さは一貫している。
翻って日本側では、なぜ今も、若者たちが報酬目当てに闇バイトへ加担してしまうのだろうか。
「ルフィ事件が派手に報じられていた頃と、現在とでは、少し状況が変わってきていると思います。カンボジアで中国系グループが摘発され、誘拐に近い形で海外に連れて行かれるケースが発覚する一方、栃木で16歳の少年4人が関わった強盗殺人事件のように“先輩・後輩・友人”といった従来型の人間関係を通じた犯罪が復活してきている印象があります」
TikTokしか見ていない人たち
加えて栗田氏は「闇バイトに応募するなかで、“数百万とか数千万にのぼる借金があって、やむなく……”という人は聞いたことがないんです」とも言う。たしかに、法律的な知識に通じていなくても、闇バイトに応募して身分証の写真を送ることが危険なことは分かりそうなものだが……。
「実際は、犯罪に加担する意識すらなく、むしろコンビニや飲食店のバイトに応募する感覚の人も少なくないと思うんです。彼らはおそらくネットニュースすらも見ていない。テレビや新聞なんて以ての外で、目にするのはSNS、特にTikTokくらいではないかと」
テレビや新聞はおろか、Yahoo!ニュースすら見ておらず、情報源はTikTokだけ――。当然ながら、闇バイトの危険性や、逮捕された犯人の末路など知る由もない。そんな若年層の実態を挙げ、「ゼロから倫理観を説くのには限界がある」と栗田氏は指摘する。
そして最後に、こんな鋭い警句も。
「たとえばSNSで高級腕時計を自慢している人間がいるとします。その人物の情報がターゲットとして“売られる”ようなケースは今後、さらに増えると思います。また、ヤフコメなどで“騙される方がバカだ”“全員死刑にしろ”などと書き込んでいる人は気を付けた方がいい。騙されないと高をくくっている人ほど、実は騙されやすいと彼らは言います。僕自身、“成田空港の警察”を名乗る電話を受けた際“これ詐欺だよな”と思いつつも、移動履歴などの細かい情報を提示され、妙な説得力に焦った経験がありますから」
「闇バイト」というキャッチーな呼称そのものが、軽い気持ちでの応募を助長しているのではないか、と栗田氏は苦言を呈する。小島被告は、栗田氏に宛てた手記で、自分こそが“闇バイト”という言葉を生み出したのだと記している。
〈そして私が世の中に闇バイトと言う言葉を浸透させて日本の治安を悪化させました〉
小島被告はフィリピンにおいてリクルーターとしてSNSで日本の実行役を集めていた。こうした呼称が、応募者の罪悪感を軽減させることにつながったとしたら、罪深いことだ。
前編【「大変だったんじゃないですか?」 被害総額60億円「ルフィグループ」元最高幹部の意外すぎる“ねぎらいの言葉”…“恋愛漫画”を読み“スイーツ”を好む凶悪犯の素顔とは】では、狡猾かつ残忍な事件からは想像もつかない元最高幹部の素顔を詳報している。
さらに、「新潮QUE」で公開中の関連記事【【音声あり】ルフィ事件の裏側、話します。『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』栗田シメイ】では、栗田シメイ氏と高橋ユキ氏の対談音声のフルバージョンを公開中。新時代の犯罪組織「ルフィグループ」の闇について、さらに深く詳しく掘り下げている。
栗田シメイ(くりた・しめい)
ノンフィクションライター。1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。 著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』。新著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』が発売中。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部
