(※写真はイメージです/PIXTA)

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50代で組んだ30年ローンと経年とともに高騰する管理費。老後不安に背中を押されて買ったマンションが、夫婦の首を絞めていく――。断腸の思いで自宅を売却した70歳夫婦が辿り着いた、「本当の安心」が得られる住まいとは?

老後不安に背中を押された、50代「焦りの住宅購入」

地方都市の公営団地で静かに暮らす、茂さん(71歳)と妻の真知子さん(70歳)。現在の住まいは築50年を超えた団地ですが、二人の表情は穏やかです。

「ここに来て、ようやく夜ぐっすり眠れるようになりました」

そう語る茂さんの言葉からも、ここ何年も“家のために苦しんできた”という事実がうかがえます。

すべての始まりは、夫婦が50代に差し掛かろうとした頃、長年住んでいた賃貸アパートの更新を前に、こんな会話でした。

「私たちこのまま賃貸で大丈夫なのかしら。年をとるとアパートの審査に通らなくなるって聞くじゃない? 多少無理してでも家を買っておいた方がいいんじゃないかしら」

真知子さんの言葉に、茂さんもうなずきました。「住むところがなければ、どうにもならない」――年齢的にも買うなら“ラストチャンス”だと思いました。

そして、郊外に立つ築15年の中古マンションを2,400万円で購入。当時の貯金600万円から諸経費を引き、頭金に300万円を充当。残りの2,100万円を30年ローンで組みました。完済年齢は80歳でしたが、「繰上げ返済をして、残った分を800万円受け取れる予定の退職金で一括返済すればいい」という目算でした。

狂い出した歯車と、マンション特有の「罠」

しかし、現実はそう甘くありません。大学進学する長男の学費や、相次いで倒れたお互いの親の介護費用で繰上げ返済は思うように進みませんでした。

「退職金も、ほとんど残らないな。ローンの繰り上げ返済、どうするんだ……」

「でも、子どもの学費も親の介護も、出さないわけにはいかない。ローンの返済は、これからのお給料とアルバイトで続けていくしかないわよ……」

追い打ちをかけたのが、マンション特有の「維持費」でした。購入当初は月1万5,000円だった管理費・修繕積立金が、建物の老朽化に伴って、気づけば月3万8,000円にまで跳ね上がっていたのです。

そして、65歳になり、夫婦の年金受給がスタート。受給額は合わせて月18万円。住居費(ローン+維持費で約10万6,000円)を払うと、手元には7万円ほどしか残りません。茂さんは深夜の警備員、真知子さんはスーパーのレジ打ちのアルバイトに追われる日々。しかし70歳を前に、茂さんは腰を痛めてしまいます。

「こんな体で警備の仕事はきつい」という茂さんに、「あなたが働けなくなったら、どうやってローンを払っていけばいいの? 私のパート代だけじゃ、やっていけないのよ」……危機的な状況に、2人のストレスは頂点に達していました。

 家賃月2万4,000円の団地へ

限界を悟った夫婦は、70歳でマンションの売却を決意しました。世間の不動産価格は上がっているとはいえ、地方の築35年超のマンションは簡単には売れません。結局、900万円での売却となりました。

20年間返済を続けたものの、残債は約770万円残っていました。売却額900万円から残債770万円を一括返済し、仲介手数料や諸経費(約40万円)を引くと、手元に残ったのはわずか90万円ほど。20年間、必死に住宅ローンを払い続けた結果が、100万円にも満たない手残りでした。

「あんなに一生懸命働いて、切り詰めてローンを払ってきたのに……残ったのはこれだけ。むなしいわね」

自分たちの20年間は一体何だったんだろうと話す真知子さんに対して、茂さんは清々した気持ちでした。「これで苦しみから抜け出せる」――。

安く、そして高齢者でも住める場所を探した結果、市営団地(高齢者優遇枠)に応募することに。そして、無事当選を果たしました。

現在、夫婦が暮らす2DKの団地の家賃は、世帯収入(年金)に合わせて減免され、月2万4,000円。以前のマンション維持費(3万8,000円)よりも安い金額です。

エレベーターのない3階建ての3階部分で上り下りは多少大変ですし、それまで暮らしていた分譲マンションとは設備も広さもまったく違います。それでも、夫婦の表情には、かつてのマイホームに縛られていた頃にはなかった、本当の安らぎが満ちていました。

「持ち家だった頃は、『資産を守らなきゃ』『ローンを払わなきゃ』といつもイライラしていました。でも、ここに来て肩の荷がすっと降りました。家はただの『箱』。大事なのは、そこでどんな気持ちで暮らすかですね」

 月2万4,000円の家賃がもたらした「本当の自由」

「高齢になると賃貸は借りられない」という噂は、完全な嘘ではありませんが、過度に恐れる必要もありません。焦って購入をする前に、“いざという時”の住まいの選択肢を知っておくことが大切です。

・公営住宅(団地)…所得に応じて家賃が安くなる。高齢者枠あり。ただし、抽選倍率が高い地域があり、設備が古いことも。

・UR賃貸住宅…礼金や仲介手数料、保証人などが不要。高齢者向け制度が充実。一定以上の収入や貯蓄基準が必要。

・高齢者向け優良賃貸…バリアフリーなど高齢者が住みやすい設計。家賃補助の有無は自治体による。

老後の住まい選びにおいて最も危険なのは、「周囲の噂や将来への焦りから、無理なローンを組んでしまうこと」です。マイホームは大きな安心感をもたらす一方で、ローン返済だけでなく修繕積立金の値上げや固定資産税といった隠れた維持費が重くのしかかります。

今では、日本全体で少子高齢化が進み、若い単身者やファミリー層の入居需要が減っています。大家側としても「空室のまま家賃が入らないよりは、身元がしっかりしたシニア層に長く住んでほしい」と考えるケースが増えてきました。そして、もし民間がダメでも、先ほど挙げたような選択肢もあります。

50代以降は、多くの人が役職定年や雇用継続の節目で収入が減る一方で、子どもの教育費や親の介護といったことにお金が必要になりがちな時期です。焦って家を買う前に、本当に返済が可能なのか、賃貸という選択肢では駄目なのか、冷静に検討する必要があります。