宇宙産業といえば、多くの人がまずアメリカと中国を思い浮かべやすい。巨額の予算と技術力を背景に開発競争を繰り広げる両大国は、たしかに主役級の存在だ。しかし実業家のマイキー佐野氏は、本当に注視すべきなのはこの二強だけではないと指摘する。
 
佐野氏が挙げるのは、かつて鉄鋼業を経済の柱としていたルクセンブルクだ。需要低迷を機に構造転換を迫られたルクセンブルクでは、政府と経営者と労働者が協調し、衰退した工業地帯に研究機関や大学を誘致して知の集積地へと生まれ変わった。その後の展開として次の柱に選ばれたのが、衛星通信をはじめとする宇宙関連産業である。欧州初の衛星放送を成功させた企業を足がかりに、すそ野は数十年かけて広がっていった。今では100近い関連企業が拠点を構え、日本の宇宙関連企業や大手起業家が興した宇宙企業も名を連ねる、宇宙版シリコンバレーと呼べる様相を見せている。
 
佐野氏は、ルクセンブルクとアメリカとの違いを、生産者とファシリテーターという対照的な言葉で説明していた。アメリカが安全保障を背景に低軌道の衛星網や観測データといった実用領域で圧倒的な存在感を放つ一方、ルクセンブルクは独自の宇宙資源法を整え、世界中のスタートアップが資源の所有権を得やすい制度を築くことで、月や深宇宙といった中長期の領域を静かに固めているという。資金の集め方も対照的で、ベンチャーキャピタル頼みのアメリカに対し、ルクセンブルクは融資中心の手法で資金を賄う割合が高いとの分析も紹介されている。通信や観測データの分野でも役割分担は明確で、アメリカが安全保障向けデータで存在感を放つのに対し、ルクセンブルクは環境分野の観測データに力を注いでいるという。さらに佐野氏は、開発費を大幅に抑えて月面着陸を実現した国や、国家主導で低軌道衛星網を急拡大させる大国、宇宙部門の統合を進める欧州各国の動きにも触れ、宇宙市場全体を数千億ドル規模の経済圏として捉える視点を示す。
 
それぞれの国が異なる戦略で宇宙という新市場に食い込もうとする中、佐野氏はどの国のどんな動きに投資家として注目すべきかについて独自の見立てを語る。宇宙ビジネスの実務経験がない読者にとっても、国家戦略と資金の流れから未来の産業地図を読み解く視点が整理されるはずだ。

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現在はアカデミズム関係者・経営者・投資家・学生が参加するビジネススクールも運営