「二度としません」とテスラ社は謝罪…横浜市が激怒した大黒埠頭での「ゲリラ納車」トラブルの内幕
〈売り上げが急増している『テスラ』を巡り、納車にまつわるトラブルが増加している。6月末には、横浜市が管理する駐車場を占拠しての大量納車が行われていたことが明らかになった。自動車生活ジャーナリスト・加藤久美子氏が切り込む〉
「新車のテスラがどんどん駐車場に運び込まれてきました。しばらくするとお客さんらしき人たちが、タクシーやテスラ社員の送迎車などで続々と駐車場に入ってきました。駐車場内にある休憩施設も手続きの場所として使われていたようです。納車らしきことが始まって、とても驚きましたね。こんなことは今までありませんでした」
こう語るのは、大黒埠頭にある大黒海釣り施設駐車場のスタッフだ。
テスラの“ゲリラ納車”が波紋を広げている。関東近郊の大型駐車場に納車予定の自動車を大量に集め、そこに購入者を呼ぶことで、一気に納車するというものだ。6月28日に大黒海釣り施設駐車場で行われた“ゲリラ納車”では、一日で数十台の新車が引き渡されたとみられる。
何十台もの駐車スペースを目的外で使用することは、もちろん禁止されている。しかも、駐車場の利用規定には停車できる車について「幅1.9m以内」と書かれているが、日本で販売されるテスラ車はほとんどが全幅1.9mを超えており、本来であれば駐車すること自体が禁止されている。当日は契約書の署名手続きのために共用部分が長時間にわたって占有されており、一般利用者に大きな迷惑をかけた可能性がある。
無許可で行われた“ゲリラ納車”の実態
さらに問題なのが、これらが全て“無許可”で行われていたことだ。管轄する横浜市港湾局の担当者は、筆者の取材に次のように語った。
「横浜市には事前に相談や許可申請はありませんでした。海釣り施設が納車会場に使われたことは、利用者からの問い合わせがあって発覚しました。事実関係を調査したところ、実際に納車が行われたことが確認できました。テスラ社とも話し合いをしまして、今後は海釣り施設の駐車場を納車会場に使うようなことは絶対にしないよう要請しています」
担当者によると、テスラジャパンは横浜市に「二度とこのようなことはしません」と謝罪したという。しかし、公式サイトには謝罪文などは一切掲載されていない−−。
そもそも、なぜこのような“ゲリラ納車”が起きたのか。
テスラは販売専用のディーラーを持たず、新車注文から代金支払い、点検や車検の予約、オプション品の購入まで専用アプリで行う。納車は全国7ヵ所(沖縄・福岡・大阪・名古屋・東京・千葉・仙台)の拠点に出向いて受け取るか、もしくは有料の自宅配送で行うことになる。東京での納車は、今までは有明の『テスラデリバリーセンター』(有明ガーデン内)にて行われてきた。
では、なぜ今回、大黒埠頭で大量のテスラが納車されたのか。最大の理由は「有明での納車がキャパを超えてしまった」ことにある。テスラは’14年に日本での販売を始めて以降、近年では年間5000〜6000台を売り上げてきた。しかし、昨年は約2倍となる1万600台に増加。さらに今年は、上半期だけで1万2500台以上を販売している。このままいけば、例年の4倍以上となるペースだ。
東京は「世界で一番安くテスラが買える街」
ここまで急激に売り上げを伸ばしている最大の要因は、電気自動車購入時に支給されるCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)が大幅増額したことにある。テスラの補助金は’24年〜’25年にかけて、もともとの30〜50万円から85万円まで増額され、’26年からはトヨタや日産など国産EVとほぼ同レベルの127万円にまで引き上げられた。
自治体からも補助金があり、東京都ZEV(EV・PHEV・FCV)補助金は条件によっては最大約110万円が支給され、国と東京都の合計で237万円にのぼる。東京は「世界一テスラが安く買える街」として公式サイトでもアピールされている。
巨額の補助金に加え、有明の拠点では一日最大200台もの納車が行われたこともあって、完全にキャパオーバー。苦肉の策として考えられたのが大型駐車場を使った“ゲリラ納車”だったのである。大黒埠頭はテスラのPDI施設(納車前の検査などを行う施設)があるため、利便性もよかったのだろう。
とはいえ、注文から納車までには少なくとも数週間はかかるのだから、キャパオーバーになることは事前にわかっていたはずである。その上で横浜市に許可を取らず、勝手に駐車場を納車会場としたのはただの迷惑行為に他ならない。
突然の「納車中止」と回収
短期間で急激に販売台数が増加したことで、他にも不適切事案が急増している。筆者のもとに寄せられた購入者からの声の一部を紹介する。
・納車予定日になっても連絡なし。拠点に行ってみたら、理由も説明されず「今日は納車できない」の一点張りで追い帰された。
・納車時、自賠責保険の証書が積まれていなかった。
また、テスラの関係者は「カスタマーサポートへのクレームメールが1日400件以上も寄せられている。窓口がパンクしており、問い合わせへの返信がままならない」という実態も明かした。
直近では7月11日ごろから、一部の車種で客の手に引き渡された車の「回収」や納車中止という事態も報告されている。7月上旬の納車予定が8月以降に延期されたケースも多発しているという。
しかも、現場の社員にも納車中止や回収の詳しい案内は行われておらず、「型式指定に関するトラブル」としか伝えられていないという。オーナーは、何のことだかわからないままに車を回収されて、納車予定日もいつになるかわからないという事態に陥っている。
納車を巡る“テスラ狂想曲”はしばらく終わりそうにない。
