海底に作られた人間の居住施設が間もなく稼働開始、海底で暮らすことにどんな意味があるのか?

「海底で暮らす」と聞くと楽しいアトラクションのように感じるかもしれませんが、大気圧よりも強い水圧がかかる環境下で暮らすには、さまざまな問題を解決する必要があります。近日中にアメリカの海底居住施設開発企業・DEEPが建設した海底居住施設のVanguard(ヴァンガード)が稼働し、4人のテストクルーが滞在を始めるとのことで、科学系メディアのScienceAlertがヴァンガードの仕組みやクルーへのインタビューを公開しています。
https://www.sciencealert.com/this-human-habitat-at-the-bottom-of-the-ocean-is-now-operational-take-a-look-inside
DEEPはさまざままなミッションに応用可能な海底居住施設を開発する民間企業です。これまでにも、一部の科学者や冒険家は水中での生活にチャレンジしてきましたが、DEEPは「大陸棚のあらゆる場所で短期および半永久的な滞在を可能にする」という野心的な目標を掲げています。
2026年6月、DEEPはアメリカのフロリダ州南岸沖にあるフロリダキーズ国立海洋保護区に、試験的に開発した海底居住施設のヴァンガードを設置しました。ヴァンガードは科学研究や環境モニタリング、高度なダイビング訓練、宇宙飛行士の訓練施設といった幅広い用途に対応しており、一度に4人の乗組員を収容できます。
以下の写真が、フロリダキーズ国立海洋保護区の水深17mの海底に設置されたヴァンガードです。

居住区の様子はこんな感じ。ヴァンガードには数日間にわたり、水中探検家や科学者からなるテストクルーが調査および訓練ミッションのために滞在する予定です。

ScienceAlertは、ヴァンガード最初のクルーになる予定であるDEEPの科学研究部長ドーン・カーナギス氏にインタビューしています。カーナギス氏の研究テーマは極限環境下における人間の生理機能であり、特に脳と神経系との関連性に着目しています。カーナギス氏は以前にもNASAの海底居住ミッション「NEEMO 21」に参加した経験があり、海底生活には慣れているそうです。
科学者にとって、研究のために海底に滞在することにはいくつかのメリットがあります。たとえば、海底で採取した試料を水面に引き上げる際、急激な圧力変化が試料にダメージを与えてしまうことがあり、これは科学者にとって悩みの種でした。しかし、海底に滞在して同じ圧力環境で試料を分析できれば、圧力変化による影響を避けられるというわけです。
カーナギス氏は、「試料が水面に引き上げられると減圧されてしまいます。そのため、試料に含まれる分子や細胞の特徴はすべて、試料の減圧過程と密接に関係しているのです。つまり、試料が海底にあった時の状態を正確に反映しているとはいえません。私たちはこうした科学の多くを再検討し、深部までほぼリアルタイムで試料を処理できる新たな機会を創出できることに、非常に興奮しています」と語りました。
ヴァンガードは基本的に、内部の圧力とその中にいるクルーを制御する巨大な減圧室といえます。小型潜水艇でクルーがヴァンガードに到着した時点では、クルーや居住空間は周囲の水圧と同じ圧力になっています。その後、ゆっくりとヴァンガードの内部を減圧していくことで、クルーたちは長期間にわたって海底で活動できるようになります。これは、ダイバーが非常に深い水深で活動できるようにする飽和潜水と同じ仕組みです。

一晩かけた減圧が終わるとヴァンガードの内圧は再加圧され、クルーは「ムーンプール」と呼ばれる海底に通じる下向きの出入り口を通じ、周囲の海に出ていくことができます。クルーはヴァンガードの空気供給装置からケーブルで直接空気を取り込むことで、一般的なダイビングの60分という制限を超え、数時間にわたり外部での潜水が可能になるとのこと。
以下の写真は、DEEPの居住施設運営責任者であるロジャー・ガルシア氏がムーンプールを実演する様子です。

クルーは衛星通信を通じて陸上基地と24時間体制で連絡を取り合います。水面上のブイに設置された設備から電力や空気が、ヴァンガードのタンクから真水が供給されます。以下の写真は、ヴァンガードの真上の海面にある通信や発電、空気供給設備です。

ヴァンガードのような海底居住施設は科学研究だけでなく、石油・ガスなどの掘削施設や防衛産業、水中レクリエーションなどさまざまな分野に活用できる可能性を秘めています。実際にDEEPのプロジェクトパートナーには、これらのビジネスに携わる企業が多数あるとのこと。
カーナギス氏らは、より多くの人類のために海底居住を拡大したいと考えており、将来の居住者候補には芸術家・歴史家・学生・教育者などが含まれるとしています。カーナギス氏は、「海底居住は政治家にとっても素晴らしいものだと思います。海面の下に何があるのかを彼らに知ってもらう機会になるのですから」と述べました。
