「アメリカが危険な生物実験に全面協力していた可能性が」米・ギャバード国家情報長官の執念の発表の中身【ウクライナ戦争の影響も甚大】
ギャバード国家情報長官の調査結果とは
米国の中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)など18の諜報機関から構成される「情報コミュニティ」を統括し、大統領へ直接情報報告を行う最高機関、国家情報長官室(ODNI)は6月12日、同月末で退任予定のトゥルシー・ギャバード国家情報長官(下の写真)の執念の調査結果を発表した。
数カ月にわたり情報機関の保有資料やファイルの調査を行った結果、ギャバードは、「米国政府が30カ国以上にある120カ所以上の生物実験施設に対し、長年にわたり資金提供を行ってきたことを示す新たな証拠を明らかにした」というのである。
注目されるのは、「これらの生物実験室(Biolab)にはウクライナにある施設も含まれており、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争により、その安全が脅かされる恐れがある」とニュースリリースに明示されていることだ。さらに、「たとえば、情報機関は以前、ウクライナにある米国が資金提供した生物実験室には危険な病原体が保管されている可能性が高く、ロシアによる攻撃、接収、または破壊という長年の脅威にさらされたままであると警告していた」とのべている。ただし、この警告は第二次ドナルド・トランプ政権の発足後の方針転換によってもたらされたものだ。
トランプ政権が資金提供停止
昨年5月5日、トランプは「生物学的研究の安全性とセキュリティの向上」と題された大統領令第14292号に署名した。これにより、「病原性を増強させたり、伝播性を高めたりすることにより疾病を引き起こす可能性のある病原体または毒素に関する科学的研究」、すなわち、「危険な機能獲得研究」を停止するよう命じられた。その結果、「懸念される国(例:中国)において外国の主体が実施する危険な機能獲得研究への連邦政府による資金提供を停止する」、または、「当該国が米国の監督基準および政策を遵守していることを確保するための適切な監督体制が整っていないその他の国における同種の研究への資金提供を停止する」――といった措置がとられた。
これは、バイデン政権が「米国による監督が限定的であるか、あるいは生物安全対策の実施が合理的に期待できない中国やその他の国々において、国立衛生研究所(NIH)を通じて、連邦政府による生命科学研究への資金提供を積極的に承認した」ことへの意趣返しを意味している。なお、今回公表された調査結果は、このトランプによる大統領令に基づいたものであった。
バイデン政権の不誠実
いまから振り返ってみると、バイデン政権下での報道はたしかに「親バイデン、反プーチン」というバイアスがかかっていたようにみえる。たとえば、2022年9月22日付のThe Economistは、「ロシアは、この紛争の原因を北大西洋条約機構(NATO)の拡大にあると非難し、ウクライナを米国の傀儡として描き、西側の欠点を強調するとともに、米国がウクライナを生物兵器開発の拠点として利用したといった荒唐無稽な陰謀論を広めている」と書いた。
しかし、「米国がウクライナを生物兵器開発の拠点として利用した」のは事実のようにみえる。そのため、「荒唐無稽な陰謀論」(wild conspiracy theories)を広めたわけではなかったように思われる。マスメディアは、ウクライナ国内の生物実験室への米国の支援を陰謀論と決めつけることで、この議論を封印し、バイデン政権下で推進されてきた危険な試みを否定しつづけてきたのだ。
ロシア側の情報によれば、このウクライナ支援プログラムは、米国とウクライナが「共同脅威低減プログラム」の一環として協定に署名した後、2005年に正式に開始された。掲げられた目的は、生物兵器として利用される可能性のある技術や病原体の拡散を防ぐことだった。2008年は、建設、研究所の設備整備、作業実施許可の発行など、プログラム実施の活発な段階となり、2005年以降、ウクライナの研究所および関連施設に対する米国の総投資額は約2億ドルに達したという。
40ヵ所以上の生物実験室
先に紹介したプレスリリースには、4ページにわたるプレゼンテーション資料のPDFファイルが添付されている。その2ページ目が下に示したものである。情報の一部は黒く塗りつぶされているが、米国からの支援を受けた生物実験室がウクライナだけで40以上あり、その数が突出していることがわかる。不可思議なことに、全体の3分の1がウクライナに集中しているのだ。
地図にある「BSL」は生物安全レベルの略称であり、その多くが「BSL-2」、すなわち、「ヒトや動物に病気や健康被害を起こす可能性があるものの、重篤な状態に陥る可能性は低く、有効な予防法や治療法が存在する中等度のリスクを持つ病原体・細胞を取り扱うための実験室の基準」を備える程度のものにすぎない。だが、「吸入によりヒトに重篤または致死的な疾患を引き起こす可能性のある病原体を取り扱うために設計された、高度な封じ込め実験施設」を意味する「BSL-3」レベルの生物実験室も複数存在したことが示されている。
このレベルの実験室では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2といったリスクの高い病原体が扱われる。つまり、ウクライナ国内にたしかに危険な生物実験室があり、米国政府からの支援が実施されていたことになる。
PDFの3ページ目にある資料から、ヘルソン検査センター(約173万ドルが割り当てられた)、 国立農業科学アカデミー 獣医学研究所(約211万ドル)、ウクライナ科学防疫研究所中央レフェレンス実験室(約349万ドル)、およびザカルパチア検査センター(約192万ドル)に米国政府から資金提供されていたことがわかる。
ギャバードの強烈な一撃
先のニュースリリースには、つぎのような強烈なギャバード国家情報長官の発言が紹介されている。
「生物実験室における危険な病原体の研究が、世界規模で壊滅的な影響を及ぼす可能性が明らかであるにもかかわらず、政治家やファウチ博士のようないわゆる医療専門家、そしてバイデン政権の国家安全保障チーム内の関係者は、米国が資金提供し支援している生物実験室の存在について米国国民に嘘をつき、真実を暴こうとした人々を脅迫した」
彼女が、バイデン政権が「国民に嘘をついた」とみなしているのは、おそらく2022年3月9日付で出されたプレス声明のためだろう。当時、広報担当者の一人だったネッド・プライスが出したもので、「クレムリンは、米国とウクライナがウクライナ国内で化学兵器や生物兵器に関する活動を行っているという、あからさまな虚偽の情報を意図的に流布している」と書いている。さらに、「米国はウクライナ国内に化学・生物兵器実験室を所有・運営しておらず、化学兵器禁止条約および生物兵器禁止条約に基づく義務を完全に遵守しており、いかなる場所においてもそのような兵器を開発・保有していない」とも記されている。
「嘘」を暴いたルビオ
この声明が不可思議なのは、前日のビクトリア・ヌーランド国務次官(政治担当、当時)の発言と矛盾していることだ(NTDを参照)。実は、2022年3月8日、上院外交委員会の公聴会で、マルコ・ルビオ上院議員(当時)がヌーランドに対し、ウクライナが化学兵器や生物兵器を保有しているかどうかを質問し、「ウクライナには生物研究施設があり、現在、ロシア軍がこれらを掌握しようとしているのではないかと我々は強く懸念している」と答えていた。「万が一、ロシア軍が接近してきた場合に、研究資料がロシア軍の手に渡らないよう、ウクライナ側と協力して対策を講じている」というのだ。
この発言は、先のプライスが出した声明と矛盾しているように思える。いずれにしても、ギャバード長官自身は、「ODNI(国家情報長官室)は、政府内の各機関と緊密に連携し、これらの実験室の所在地や保管されている病原体を特定することで、米国国民および世界中の人々の健康と福祉を脅かす危険な機能獲得研究を終わらせるべく、引き続き取り組んでいく」と語っている。つまり、バイデン政権時代の「嘘」を暴きたてる姿勢を明確に示している。
ウクライナ側は全面否定
6月13日になって、ウクライナ外務省はウクライナの生物実験室をめぐる一連の操作に関するコメントを公表した。「我々は、根拠のない非難を改めて退け、ウクライナが生物・毒素兵器禁止条約(BTWC)に基づく国際的義務を一貫して履行していることを強調する」と書かれている。さらに、「ウクライナ側は、生物兵器の研究開発、製造、または備蓄に関連する活動を一切行ったことがない」と断言し、ギャバード長官のもつ疑いを全面的に否定している。
とくに、「BSL-3」レベルの生物実験室にどんな目的で、なぜ支援をしていたのかについては明らかにされていないことが気にかかる。
当局の情報操作に注意せよ
ギャバード長官が本当の話をしているのか、それとも、ウクライナ外務省のコメントが真実を伝えているのか。
もっとも重大なのは、ウクライナ戦争やイラン戦争のような暴力の応酬に際しては、とくに情報発信者が情報受信者を意図的に騙そうとする情報(ディスインフォメーション)を流すケースが圧倒的に多いということである。その意味で、情報受信者は受け取った情報の信憑(しんぴょう)性について熟慮する必要がある。
私はすべての原稿で、できるだけ情報の出所がわかるようにURLをつけている。どうか出所にまでアクセスし、情報に操作されないように細心の注意を払ってほしい。
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