(※写真はイメージです/PIXTA)

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親からの住宅資金援助は、不動産価格が高騰する現代において、理想の住まいを手に入れる強力な後押しとなります。しかし、返済不要のはずの「善意の資金」が、思わぬ事態を引き起こすことも。ある夫婦のケースから、金銭的な恩義が招く落とし穴についてみていきます。

「頭金出すわよ」…義母の申し出が仇となり

東京都内のIT企業に勤務する佐藤健太郎さん(仮名・34歳)と、妻の美咲さん(仮名・32歳)は、2年前、都内近郊の3LDKマンションを購入しました。物件価格は7,500万円。共働きの2人の年収は1,200万円です。

マイホームはもう少し先と思っていた矢先、健太郎さんの母・和代さん(仮名・62歳)から「住宅取得等資金の贈与」として1,000万円の援助の申し出があり、購入を決断しました。

「当時は、母の厚意に甘えていいものか悩みましたが、最終的には感謝して受け取りました。これで子どもに個室を与えられる……そう、喜んでいたんです」と、健太郎さんは振り返ります。

しかし、購入直後から状況は一変しました。和代さんが「何かあったときのために」と、合鍵を要求してきたのです。

「断る理由が見つかりませんでした。援助してもらっている身、負い目もありましたし……」と美咲さんはいいます。

それからは、和代さんの「アポなし訪問」が週に3回は起きるようになりました。仕事から帰宅すると、キッチンに見覚えのない惣菜が並び、洗濯物の畳み方が変えられている。和代さんは「忙しいあなたたちのためにやってあげた」と胸を張ります。

和代さんの口出しは家事だけでなく、1歳になる長男の育児にまで及びました。美咲さんが用意していた市販の離乳食を勝手に処分し、「保存料が入ったものは子どもの脳に悪い。私が無農薬野菜で作ったものを食べさせなさい」と指示。さらに、知育教材についても「私の知り合いの孫は、この塾で英才教育を受けている。ここに通わせるのが親の責任よ」と、自身の価値観を執拗に押し付けるようになりました。

ある休日、和代さんが許可なく子どもを連れ出そうとした際、美咲さんは初めて「自分たちのペースで育てたいので、もう少し口出しを控えてほしい」と、努めて冷静に伝えました。すると、それまで穏やかだった和代さんの表情が険しくなり、こう言い放ったといいます。

「誰のおかげでこの家が買えたと思っているの? 私の1,000万円がなければ、今ごろ狭い賃貸で苦労していたはずよ。資金を出した私には、この家の生活を見守る権利も義務もあるの」

その言葉に、美咲さんはただ呆然とするばかり。感謝していたはずの援助金は、義母の要求を受け入れなければならない理由になってしまっていたのです。

「あのとき、お義母さんの申し入れを、ただ『ありがたい』と受け入れてしまった……本当、浅はかでした」

1,000万円を無理にでも工面して返済し、絶縁に近い形で距離を置くか、それとも今の生活を耐え忍ぶか――佐藤さん夫婦は苦渋の選択を迫られています。

住宅資金援助に潜む「心理的負債」と自立を守るための境界線

親からの住宅資金贈与を受ける際、まず理解しておくべきは公的な優遇措置です。「住宅取得等資金の非課税制度」は、父母や祖父母などの直系尊属から住宅の新築・取得・増改築のための資金を受けた場合、一定の要件を満たせば、最大1,000万円(省エネ等住宅の場合)までの贈与税が非課税になる仕組みです。110万円の基礎控除と併用可能で、2026年12月31日まで延長。利用には翌年3月15日までの贈与税申告が必須です。この制度は、若い世代の資産形成を国が後押しする形となっていますが、その利用実態は非常に大規模です。

国税庁『令和5年分申告所得税標本調査』によると、住宅取得等資金の非課税制度を利用した贈与は、年間で6.2万件にのぼり、贈与額は1件あたり770万円となっています。多額の資金が動く一方で、民法上の「贈与」は本来、無償かつ無条件で財産を与える契約であり、それによって受贈者の生活やプライバシーを制限する権利が生じるわけではありません。しかし、親子間では「金を出したのだから口も出す」という家父長制的な価値観が残存しやすく、法的権利を超えた過度な干渉が起こりやすいベースをつくるといっていいでしょう。

こうした過度な干渉を避けるためには、資金援助を「一方的な施し」にしない工夫が求められます。まず有効なのは、贈与を受ける前に「生活の主導権はあくまで自分たちにある」ことを口頭だけでなく、家族会議の議事録などの形で明確にすることです。

また、あえて全額を贈与とせず、一部を「金銭消費貸借契約(借金)」として扱い、少額でも毎月返済する実績を作ることもひとつの手段です。返済という行為は、親に対して「自立した大人同士の取引」であることを意識させ、過度な特権意識を抑制する心理的な抑止力となります。

親の善意を「干渉の理由」にさせないためにも、契約段階での毅然とした線引きが不可欠です。