イチロー氏も「野球じゃない」と異を唱えた7回制はなぜ導入に進むのか? 結論ありきの進め方に現場で募る“疑問”【高校野球】

写真拡大 (全3枚)

開幕が迫る選抜高校野球を前に、7回制の導入が話題を呼んでいる(C)Getty Images

無条件で賛成という意見は皆無

 去る1月30日に行われた選考委員会で出場32校が決まった第98回選抜高校野球大会。春の風物詩となる“センバツ”を前に、高校野球界で話題となっているのが、将来的な7イニング制の導入だ。

【関連記事】イチロー氏が異論を唱えた高校野球の7回制は「時間の問題」か 現場から反対意見続出も「導入不可避」な理由

 この7イニング制の検討は2024年4月25日に行われた日本高野連の理事会で『高校野球7イニング制に関するワーキンググループ(WG)』が設置されたのが最初である。その後、度々議論され、2025年12月5日の理事会において「現在加盟校で活動する部員たちは、高校野球は9イニング制という前提で入学しており、部員たちの心情を考慮すると、全ての公式戦での7イニング制の採用は移行期間を設ける必要があるとの声もあり、全ての公式戦での7イニング制採用は、現在の中学3年生が高校3年生となる2028年の第100回記念選抜高等学校野球大会ならびに各都道府県高等学校野球連盟の春季大会から採用することが望ましい」と発表した。

 この発表にハレーションは広まった。マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏は、TBSの番組内で「そこ(7イニング制)をしちゃったらもう野球じゃないから」と反対意見を表明。春夏の甲子園で通算8度の優勝を誇る大阪桐蔭の西谷浩一監督も「7イニングはあり得ないと思います」と異を唱えた。

 実際、高校野球の現場で7イニング制の話題が出ても、無条件で賛成という意見はほとんど聞かれない。昨年に日本高野連が行った7イニング制導入についてのアンケートでは加盟校では約7割が反対。同連盟のサイト上で実施された一般向けのアンケートでも9割以上が反対という結果だった。また、調査会社のモニターに対するアンケートでは7イニング制の賛成が35.9%、反対が25.0%と唯一賛成が上回ったが、高校野球に関心のある層や野球経験がある層は反対が多かったという。

 一般向けのアンケートに能動的に答えているのも当然高校野球に関心が高い層であり、野球に関わり、より関心が高い層ほど反対が多いというのが現状である。イチロー氏や西谷監督などが断固反対の姿勢を示すのも、現場の反対があるにもかかわらず、導入して良いのかという疑問から生じる思いが強いのではないだろうか。

変化する高校球界の疑問を投げかけたレジェンドの一人がイチロー氏だった(C)Getty Images

「夏休みに甲子園で開く」前提で始まる議論

 では現場や野球関係者の多くが7イニング制に反対する理由はどこにあるのだろうか。筆者も多くの関係者と意見を交わしたが、最も多く聞かれたのが7イニング制導入という結論ありきの進め方と感じる点だ。

 12月5日に日本高野連が公開した「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議の結果報告」には、「高校野球が目指すもの」と始まり、WGでされた課題が以下の項目に分けて述べられている。

(1)部員、加盟校に関わる課題
 ”員数の減少
 部員の健康対策(障害予防)

(2)社会に関わる課題
 ’中症リスク
 働き方改革
 社会の中の高校野球

(3)組織的意義

 どの課題についても理解はできる。ただ、7イニング制が解決方法として有効かは疑問が残るものが多く、他の解決策が十分に議論されているようにも感じられない。例えば、(1)の,任蓮嵒員数の減少によって少数の部員で大会に参加する出場校や連合チームが増え、7イニング制を採用すれば試合後半に発生しやすい熱中症へのリスクを低減することが可能となり安全に大会へ参加することができる」とある。一方で100人を超える部員数を抱えているチームもあり、そういったチームから部員が少ないチームに選手を派遣して1チームあたりの人数を増やすというやり方もあるのではないだろうか。

 さらに(1)の△砲弔い討眦蠎蠅両祿架祝匹砲弔い匿┐譴討い襪、これも現行の球数制限をより厳しくするというのも一つのやり方である。(2)の,稜中症リスクも大会の実施時期を真夏から変更する方が、よりクリティカルな効果が得られるはずだ。

 もちろん、例に挙げた代替案もすべてを解決するものではない。メリットとデメリットやそれによって生じるコスト、実現性については十分に検討する必要がある。しかし、公開された報告資料にはそういった要素は一切ない。7イニング制の採用によって生じるデメリットも当然多いはずだが、その大きな目的の一つである出場機会の減少に対する案として挙げられているのは、このセンバツから導入される指名打者制だけである。

 報告資料の冒頭にある「高校野球が目指すもの」では、全国大会の開催期間について長期休業中に行うこと、そして会場も甲子園球場が望ましいとある。つまり夏休みに甲子園で開く前提として議論されているわけだが、ここも改善の余地はあるのではないだろうか。

 球界に対する意見をたびたび投げかけている菊池雄星(エンゼルス)は、自らのXで「7イニング制に反対の意見は、ほとんど感情論です。『つまらなくなる』『高校野球ではなくなる』など。一方で、賛成派は『怪我を防げる』『熱中症対策』など、ロジカルです。ちなみに僕も7イニング制は『どちらかと言えば反対派』です。しかし僕も例に漏れず、明確なロジックを持っているわけではありません。みなさんはどうお考えですか?」と述べている。人間は論理ではなく感情で動く生き物である。高校野球を運営、管理しているのは日本高野連であり、その決定を尊重すべきというのは当然のことである。

 ただ、これだけの反対意見がある中で進めるのは得策でないのも確かだ。多くの関係者が納得するという意味でも、7イニング制の導入ありきではなく、今一度あらゆる解決策の検討を望みたい。高校野球の未来のために。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。