その区議に取材を申し込むと、こう返ってきた。
「あんまりもう、思い出したくないんです。取材はご遠慮させてください」
止められなかったことへの自責の念が、いまも消えないようだった。

林崎の放火で犠牲になったのは、伊勢神宮へ向かう途中だった52歳の女性。
突然の炎が、妻であり母であった彼女の人生を奪った。
遺族の男性と息子はいまも神奈川県内で暮らしているというが、取材の申し込みに返事はなかった。
近隣の住人は静かに語る。
「ご主人は最近体調を崩されていてね。事件の話なんて、もうできる状態じゃないと思う」

政府は今年、年金を1.9%引き上げた。
だが65歳以上の単身世帯の平均収入は約13万4千円、支出は約16万2千円。
月に2万5千円以上が赤字という現実は、いまも変わらない。
物価は上がり、米の価格も高騰した。
孤独と困窮に追い詰められた人々は、あの頃よりむしろ増えている。
林崎春生という男は、何者だったのか。

「無敵の人」と一言で片づけられる存在ではない。
彼の放った火は、社会の矛盾に照らされた警告だったのかもしれない。
10年経ったいまも、この事件は「終わった」とは言えない。
あの男が見つめていた絶望の風景は、いまもこの国のどこかに残っている。

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テレビ、新聞、ネットニュース…この時代、あらゆる情報や”声なき声”が流れては消えていきます。しかし、この世界で実際に起きていることは、ニュースで流れるものだけではありません。このチャンネルでは事件や、事件の当事者など決してメディアが伝えない「名も無き人たち」の声を独自取材しお伝えします。