記事のポイント ブリリアント・アースやヒューが選手と協業し、特注アイテムを通じて存在感を示している。ラルフローレンやティファニーなどが会場施策を展開し、ファン体験を重視している。 WTAやアメリカン・エキスプレスも参入し、テニスコアが文化的潮流として拡大している。
全米オープン(US Open)が盛り上がりをみせるなか、ファッションブランドもテニスファンに負けない熱気を放っている。2025年の大会は、公式、非公式を問わず、ファッションブランドとのパートナーシップやアスリートとのコラボレーション、USオープンをテーマにした多彩な施策であふれている。ブランドにとっては、テニスアパレルへの関心の高まりを収益につなげる絶好の機会だ。調査会社サカーナ(Circana)のデータによると、2024年は女性向けテニスアパレルの売上が22%増、男性向けも19%増となった。2025年の大会もすでに記録を更新しており、開幕前に行われた無料の「ファンウィーク」試合には24万人近くが来場。新設されたミックスダブルスの初戦には8万人近くが詰めかけ、大会史上最多を記録した。

スター選手とブランドのパートナーシップ

多くのUSオープン関連施策にはスター選手が関わっている。高級ジュエリーブランドのブリリアント・アース(Brilliant Earth)は、今回の大会を機に初めてアスリートとのパートナーシップを発表。2025年の全豪オープン優勝者マディソン・キーズとともに、特別なメダリオンをデザインした。キーズは8月24日の初戦でこのメダリオンを着用し、同アイテムは一般販売も開始された。さらにキーズがブリリアント・アースとともにキュレーションしたコレクションも展開されている。ブリリアント・アースのチーフブランドオフィサー、パメラ・キャトレット氏は、この取り組みについて「取引的ではなく、真に本物であることが重要だ」と強調する。「本物のパートナーシップは、価値観が真に一致する人物と出会うことからはじまる。マディソン氏はジュエリーを自己表現の手段として重視し、テニスと同じように精密さを大切にしている。我々の共通点を祝うことこそ、最良の協業だ」と語った。メダリオンには、キーズのラッキーナンバー「9」や、彼女と妹にとって個人的な意味を持つシンボルがあしらわれている。

新たなブランド参入と選手の活用

コート上で選手のために特別アイテムを用意したのは、ブリリアント・アースだけではない。ソックスやレギンスなどを展開する創業50年近いブランド「ヒュー(Hue)」は、女子ダブルス世界1位で全豪オープンダブルス優勝者のテイラー・タウンゼントと提携。8月19日の初戦で、タウンゼントは自身のロゴ「TT」が刺繍された特注のヒューのソックスを着用した。ヒューにとっても、スポーツ選手との協業は初の試みだ。シニアブランド&ECディレクターのデブラ・バウム氏は「ブランド認知拡大の一環。刷新期にあり、若い世代へリーチしたい」と語る。バウム氏自身も大のテニスファンで、子どもの頃から毎年USオープンに足を運んでいる。「大会は年々変わってきた。今ではファッションイベントのよう。観客は観戦のためにテニスウェアを着て、昼と夜で着替えるほど。男女ともにファッションが重要な要素になっている」と話す。その言葉を裏付けるように、世界ランキング1位のアリーナ・サバレンカは初戦勝利後のコート上インタビューで、スポーツブランドのウィルソン(Wilson)と共同制作した限定バッグを大々的にアピールした。男子では、スポーツウェア大手のヴオリ(Vuori)がジャック・ドレイパー氏とアンバサダー契約を結び、大会直前にソーホー店でイベントを開催した。

会場での大型施策とファン体験

大会会場では、ラルフローレン(Ralph Lauren)やティファニー(Tiffany)といったブランドが大型施策を展開。ティファニーは制作した優勝トロフィーを展示し、ラルフローレンは大規模なショッピング可能なインスタレーションを設置した。さらに、試合のボールパーソンや審判の公式ユニフォームも提供している。ファッション以外でも、アメリカン・エキスプレス(American Express)がカード会員向けラウンジを開設し、カスタムハットや靴ひもを作れるブースを用意した。

テニスコアが示すカルチャーの浸透

アメリカン・エキスプレスのグローバルブランドスポンサーシップ&エクスペリエンシャルマーケティング担当バイスプレジデント、シズ・スズキ氏は「カスタマイズはZ世代のあいだで特に人気。スニーカーや帽子、靴ひものカスタムはストリートカルチャーにおける大きな自己表現だ。USオープンでもテニスコア(tennis-core)のトレンドを取り込み、ファンにスタイルを通じて競技やカルチャーとつながる体験を届けたい」と語った。女子テニス協会(WTA)もまた、WNBAなどの女性スポーツリーグを参考に、ファッション分野における選手の影響力を重視している。8月21日にはファッション誌「ザ・カット(The Cut)」と提携し、「WTAクラブハウス」を開催。「スポーツとスタイルの祝祭」と銘打ち、タウンゼントら選手がバーバリー(Burberry)などの高級ブランドに身を包んで登場した。WTAベンチャーズCEOのマリーナ・ストルティ氏は「文化的視点から選手やツアーを紹介し、スポーツとスタイルの交差点を祝うことで、より幅広い層に訴求できた」と語った。PR会社マイクワールドワイド(Mike World Wide)のプレジデント、ブレット・ワーナー氏は「テニスコアは今や確立されたファッショントレンドだ」と分析する。「テニスは常に独自の美学を持ってきたが、今は文化全体に浸透している。ブランドが活用するには、テニスのシルエットを取り入れたカプセルコレクションや、コート外でも影響力を持つ選手との協業が効果的だ」と指摘した。ファッショントレンドがテニスに深く浸透したことを示す象徴的な出来事として、8月26日の試合で勝利した大坂なおみは、自身がカスタムしたラブブ(Labubu)のぬいぐるみを披露。その名前は「ビリー・ジーン・ブリング(Billie Jean Bling)」だった。
[原文:Fashion Briefing: Fashion brands descend on the US Open]Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)