アングル:「トランプ外交」再び、戦火の世界が向かうのは混乱か緩和か
Matt Spetalnick
[ワシントン 6日 ロイター] - 米大統領に返り咲いたトランプ前大統領は選挙戦でロシアのウクライナ侵攻を24時間以内に終わらせることができると豪語し、中国からの輸入品に追加関税を課すと公約。また、自分が選挙に負ければイスラエルが「根絶やしにされる」と警告してきた。
トランプ氏が勝利宣言したことを受け、同氏が外国政策に関して発してきた脅しや約束、予告が実現するかが国内外の大きな関心事となっている。
外交政策に関する発言は具体性を欠いてきたが、支持者らはトランプ氏の強力な個性や「力による平和」のアプローチで、外国の指導者を自らの意のままに動かし、共和党員が「火に包まれた世界」と呼ぶ緊迫した国際情勢の緩和につながると期待する。
共和党は国際的危機はバイデン政権の弱さにより作り出されたと主張してきた。
一方、米国の友好国と敵対国はともに、来年1月に始動するトランプ政権の2期目が1期目のような混乱と予測不能性に満ちたものになるのではないかと警戒している。
2017─21年の1期目にトランプ氏は「米国第一主義」を掲げて保護主義的通商政策を推進し、北大西洋条約機構(NATO)脱退までもほのめかす一国主義的な発言が外交政策のアプローチを特徴付けた。
その一方で、北朝鮮と首脳会談を実現したほか、イスラエルとアラブ諸国数カ国との国交正常化交渉を仲介して一定の成功を収めるなど、交渉をまとめる力にたけた実業家としてのイメージも演出しようとした。
シンクタンク「欧州外交評議会」のアナリストは選挙期間中、「ドナルド・トランプは外交政策に関しては相変わらず不安定で一貫性がない」とブログに投稿。「欧州の人々はトランプ政権1期目で負った傷がまだ癒えていない。前大統領の関税、欧州連合(EU)やドイツに対する深い敵意を忘れていない」と指摘した。
<ウクライナ戦争の終結>
ロシアのウクライナ侵攻にトランプ氏がどのように対応するかが、今後の政策課題を方向付け、NATOや主要な同盟国とどう向き合うかの前兆となる可能性がある。
ウクライナのゼレンスキー氏はトランプ氏の勝利宣言直後、トランプ氏の「力による平和」のアプローチこそが「ウクライナに公正な平和を実質的にもたらすことができる原則だ」とXに投稿した。
トランプ氏は昨年、もし自分がホワイトハウスにいれば、ロシアのプーチン大統領が22年にウクライナに侵攻することはなかったと主張し、「今でも24時間以内に解決できる」と述べた。しかし、どのように解決するかは言及していない。
バイデン氏のウクライナ支援を批判し続け、自身が大統領になればNATOの目的を徹底的に再評価する考えを示してきた。昨年にはロイターに対し、和平合意にはウクライナの領土割譲が必要になるかもしれないと語ったが、これはウクライナ側が拒否している。
ウクライナを支援するNATOは脅威にさらされている。
トランプ氏はかねてから共通の国防費目標を達成していないNATO加盟国を非難し、選挙戦では「滞納」している国の防衛を拒否するだけでなく、これらの国に対しロシアに「やりたい放題」やらせるとの脅しを口にしていた。
オバマ政権時代に外交政策顧問を務めたブレット・ブルーン氏は「NATOは創設以来最も深刻な存亡の危機に直面するだろう」と語った。
<イスラエルに無条件の支援>
一方、イスラエルについては、イスラム組織ハマス壊滅を掲げたパレスチナ自治区ガザでの作戦に支持を表す一方で、ネタニヤフ首相がこの任務を早く終わらせなければならないと述べている。
イスラエルへの軍事支援は継続するとみられるが、バイデン政権が人道的懸念から限定的な形で圧力をかけたのとは異なり、人道面で条件を付けず支援を行う可能性が高い。イラン対応もイスラエルの裁量に委ねる面が大きくなる可能性がある。
しかし、トランプ氏が18年に核合意から離脱して以来、核関連活動を活発化させているイランが核兵器開発を急げば、トランプ氏は新たな危機に直面する可能性がある。
一方、1期目で着手したイスラエルとサウジアラビアの歴史的な関係正常化への取り組みを再開する可能性が高い。
<中国へのメッセージは首尾一貫せず>
選挙期間中、トランプ氏は中国に対する強硬姿勢を示し、中国製品に対する関税引き上げを公約した。多くのエコノミストは、これが国内の物価上昇を招き、世界の金融市場に影響が波及すると指摘する。
トランプ氏は、対中強硬路線が貿易戦争に発展した1期目よりさらに態度を硬化すると示唆している。しかし、中国の習近平国家主席について「鉄拳」による支配が「非常に賢い」と評するなど、これまでと同様、硬軟織り交ぜたメッセージを発している。
また、台湾は米国に防衛費を支払うべきだと主張し、自身が大統領になれば中国が台湾を侵攻することはないだろうと述べている。
トランプ氏は国防総省、国務省、中央情報局(CIA)の要職に、自身に忠誠心を示す人物を据えるだろうと、現・元側近や外交官は予想する。
その結果、トランプ氏は政策だけでなく、海外での大統領の行動を規定し、時には制約する連邦機関にも大幅な見直しができるようになるとみられている。