「スタイル変えないで」北九州のソウルフード『資さんうどん』を買収した『すかいらーく』に聞いてみた

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資さんうどんは無くなってしまうのか…

北九州市民に衝撃を与えたニュースが報じられたのは9月6日のことだった──。

外食産業大手の『すかいらーくホールディングス』が北九州市を中心に展開する『資さんうどん』を運営する『株式会社資さん』の全株式を取得すると発表したのだ。このニュースに全国紙では、「北九州市のソウルフードが全国展開から世界を目指す」(『日刊ゲンダイ』’24年9月14日配信)や「すかいらーく『資さんうどん』買収がおいしいワケ」(『東洋経済ONLINE』’24年9月14日配信)などと報じられ、外食産業の買収としては好意的に受け止められていた。

そして、9月13日には『株式会社資さん』が今年の2月に発表した『’24年末に千葉県八千代市に関東1号店オープン』というニュースを改めて報じ、合わせて『’25年初頭に東京都墨田区両国への出店』を発表したのだ。これにSNSには 《まってました!》《まさか東京に来てくれるとは……》などと喜びのコメントが溢れた。しかし、肝心の地元では、全く逆の反応が大半を占めている。

この決定について、資さんを訪れていた常連客に話を聞いた。60代のタクシー運転手の男性は、

「今年2月に『千葉県に関東1号店』というニュースが出た時に、この独特な地元スタイルが果たして全国に通用するの? と。まずそこですよね。それからわずか半年で大手の外食チェーンに買収されたわけですから、『資さん(資さんうどんの通称)は無くなってしまうんですかね……』と聞いてくる乗客は多いですね。個人的には、私たちの知っている資さんのスタイルはいずれ無くなると思っています」

と諦めに近い思いを吐露した。他にも、

「これまで全国展開しなかったからチェーン店らしくない雰囲気が良かったのに、残念です」(週に2回は通うという家族連れ)

「正直、私たちは嫌ですよ。10年以上働いておられるご年配の従業員の方とか、みんないなくなっちゃうんでしょう? きっと配膳ロボットとかになっちゃうんですよね」(若い夫婦)

などと、不安を口にする客が大半だった。

個性的なサイドメニューとは

資さんうどんは1976年に北九州市戸畑区に1号店が開店。その後、幹線道路沿いに出店数を増やし、1980年代半ばには「北九州のうどんといえば資さん」と言われるほど、市民にとって定番の味となった。

「人気メニューはなんと言っても『肉ごぼ天うどん』です。甘く煮込んだ薄切りの牛肉と、細長いごぼう天が5本入った温かいうどんで、夏でも来客の半数は頼む定番中の定番。うどんスープは薄口醤油で、かなり甘口です。麺は表面はとろりと柔らかいのに、しっかりコシがある。

テーブルの上には、自由に入れることができるとろろ昆布が置いてあり、それをたっぷり入れると餡が絡むような食感になります。これを食べたくて、真夏でもほとんどのお客さんは温かいうどんを注文するので、長年の常連でも『資さんで冷たいうどんを食べたことがない』という人は多い」(グルメ誌ライター)

さらに、個性的なサイドメニューも豊富だ。

おでんおにぎりを温かいうどんと一緒に食べるのが定番のスタイルで、それでも1000円以下というリーズナブルな価格も魅力です。その他にも、北九州が発祥といわれる焼きうどんや、資さん特製のカレーも人気で、それらを目当てに常連になる客も多い。従業員が手作りするぼた餅は創業当初からの名物で、年間530万個を売り上げています」(前出・ライター)

そして、地元の常連が最も愛しているのが、その”チェーン店らしからぬ“店内の雰囲気だという。

「テーブル席と靴を脱いで上がるお座敷を選ぶことができて、お座敷には敷居がありません。横に積んである座布団を自分でとって敷きます。従業員はお店の近所に住んでる“おばちゃん”といった感じの方が多くて、客と従業員の距離が近い。お年寄りでも安心して注文できます。地元の人にとっては、食べたいものがなかったら『じゃあ資さんに行く?』というくらい親近感に溢れた店舗といえます」(地方紙記者)

人員削減は避けられないのでは?

だが、資さんうどんを買収した『すかいらーく』といえば、同グループが展開する『ジョナサン』や『ガスト』で猫型の配膳ロボットを導入し、人件費削減に成功した実績を持つ。これに「資さん」も倣うことになるだろうと想像できる。

「オートメーション化されることによって、長年勤めてきた従業員は解雇されるのではないでしょうか。私のような年配の従業員は皆、不安を感じています」

10年以上、資さんうどん店で働く従業員の女性はそのような不安を口にした。そこで、『株式会社すかいらーくホールディングス』(東京都武蔵野市)に質問状を出し、今後について聞いた。

─全国展開することによって、同店の味(関東エリアでも甘い出汁のままなのか?など)や雰囲気自体が変わってしまうのではないでしょうか。

「10月より資さんがすかいらーくグループの仲間になっていただきましたが、北九州のソウルフードとして長年愛された味やサービスを大切に守り続けたいと考えております。この味を全国の一人でも多くの方にお届けしていくために、すかいらーくグループのインフラを活用し、店舗展開を進めてまいります」

─オートメーション化や配膳ロボットの活用などで、従業員がリストラされる可能性が高まるのではないかという不安を口にする従業員もいます。

「外食ビジネスにおいて、従業員の方々は財産であり、すかいらーくグループでは人への投資(採用・教育)を強化しております。資さんにおいても同様であり、従業員の皆様が安心して長く働いていただける環境づくりを大切にしてまいります」

─地元では「全国展開を絶対にすべきではない」という声が多く聞かれます。

「味やサービスが変わってしまうのではないか? とのご心配からのお言葉かと思います。すかいらーくグループも資さんのファンであり、この味を大切に守り続けながら、多くの方々に資さんの魅力を知っていただけるよう尽力してまいりたいと考えております」

今冬に開店予定の2店舗では、どのようなサービスで、どのような味を提供してくれるのか。資さんファンは期待と不安の入り混じる中、見守っている──。