竹内まりや『Precious Days』ジャケット写真

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CD Chart Focus

参考:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2024-11-04/

 2024年11月4日付(10月29日発表)のオリコン週間アルバムランキングによると、竹内まりやの『Precious Days』が売上枚数129,349枚で1位を獲得。その後、ILLITの『I’LL LIKE YOU』が26,288枚で2位、ずっと真夜中でいいのに。の『虚仮の一念海馬に託す』が19,215枚で3位と続いた。

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 今回取り上げるのは1位となった竹内まりやの『Precious Days』。同作は2014年に発表された『TRAD』以来約10年ぶりとなるオリジナルアルバム。竹内はこれで69歳7カ月での1位獲得となり、「アルバム1位獲得最年長アーティスト」記録において女性アーティスト歴代1位となったという(※1)。

 竹内の音楽がこれだけ多くの人々に長く愛されているのは、いつの時代にも通じる普遍的な音楽を作り続けているからにほかならないだろう。そのソングライティングのセンスは今でも健在だ。

 今作は全体を通して、歌詞に日々の生活や人々の営みにフォーカスした描写をはじめ、生き方に対するアドバイスのようなフレーズが多く見受けられる。どれも地に足のついた1人の都市生活者としての目線を徹底していて、その表現はスマートかつシンプル。放たれるメッセージは年代、性別、国籍問わず幅広い人々に受け入れられ得るもので、その射程範囲の広さが彼女の音楽が長く愛される理由の1つとなっている。

 たとえば1曲目を飾る「Brighten up your day!」は、変わり映えしない毎日を生きる人々へのささやかな応援歌といえる1曲で、サビの最後を〈まずは一日を 笑顔で始めてみよう〉と締め括る。もちろん情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)のテーマソングとして平日の昼間、主に主婦層に向けて流れることを想定したフレージングだと思うが、このシンプルな心構えは聴く者を選ばない。〈どんな人の言葉にも 生きるヒントが隠れてる〉というフレーズもさまざまな分野のコメンテーターが出演する同番組にふさわしいものだが、そのポジティブな世の中の見方は独立した1つのポップソングとして幅広く機能するものだ。

 ほかにも「今を生きよう (Seize the Day)」における〈不満ばかりじゃ変わらないさ まずは自分が変わらなきゃ〉〈誰かを助けたいなら/自分が幸せでいなくちゃ〉といった言葉であったり、「Smiling Days」で歌われる〈尽きない悩み抱え 生きるのは皆同じ〉といった人々を安心させるものなど、生きていく上でのある種の助けとなるような歌詞がそこかしこに散りばめられている。

 彼女の歌声は、山下達郎が演奏する軽快なカッティングギターが牽引する極上のアンサンブルの中で、どこか自信に満ちていて、リスナーに優しく寄り添う包容力と、心をほんのり明るくさせる不思議な魅力が宿っている。決してガツンとインパクトを与えるようなものではないが、だからこそ聴いていて邪魔にならない。言葉が押し付けに感じにくく、スッと耳に馴染むのだ。

 邪魔にならないという意味では、歌詞にも同じことが言える。自身の思いや主義主張を吐き出すソングライターも多い中、竹内の歌は三人称視点による表現が多い。だから音楽がBGMとしても馴染み、聴き手それぞれのシチュエーションに自然と溶け込んでいく。「Brighten up your day!」の歌い始めは〈少し寝不足のままで 今日もあたりまえのように/別の朝がまたやってきて 彼女は動き始める〉と“彼女”という視点から描かれる。“あなた”でも“わたし”でもなく“彼女”を選ぶのだ。

 今作で「1980年代、1990年代、2000年代、2010年代、2020年代」の5年代連続でアルバム1位獲得となり、松任谷由実、桑田佳祐、山下達郎に次いで史上4人目の達成を果たした竹内まりや。その音楽には、世代問わず支持される工夫と魅力が詰まっている。彼女の音楽はこれからも人々を励まし、寄り添い続けていくだろう。

※1:https://www.oricon.co.jp/news/2351664/full

(文=荻原梓)