雇い主に「エライ人」が多いがゆえにハイヤー運転士はツラい! 単なる運転士ではなく「主従関係」のようなムチャ振りをされることも
この記事をまとめると
■「ハイヤー」と「タクシー」では営業形態が異なる
■ハイヤーの運転手は乗客と「主従関係」のような歪な人間関係が生じる
■タクシーでもハイヤーでも運転手に対する対応がひどい利用者が増えている
タクシーとハイヤーは営業形態が異なる
子どものころ、祖母の家に家族で遊びに行くと、帰るときに最寄り駅までの移動のためにタクシーを呼んでくれた。そのとき、祖母はよく「ハイヤーを呼んであげるね」とタクシー会社に電話をしていた。
タクシーというのはみなさんご承知のとおり、屋根の上に「行灯」とも呼ばれる「車名表示灯」が装着されており、いまはカラフルな車体色の車両は減ったものの、ボディサイドなどに社名表示をした車両で、駅前のタクシー乗り場で着け待ち(お客が乗るのを待つ)したり、無線配車による乗車希望したお客のもとへ迎えにいったりしている。新しいところでは、スマホアプリのマッチングサービスを利用した配車なども行っている。
お客が乗るとメーターを入れ、降車するときにメーターを止めることで料金が確定する。無線配車やアプリ配車の多くでは「迎車回送料金」や、スマホアプリ配車ではさらにマッチングサービス会社への手数料が加算されることもある。
一方のハイヤーは、いまはミニバンも多いが、セダンが主流で「黒塗り」が多く、タクシーのような行灯はなく、ボディにも社名表示はない。調べてみると分類はタクシー扱いとなるようで、料金メーターもタクシーのような目立つ場所ではないものの設置されているとのことである。
わかりやすくいえば、「高級な貸切タクシー」のようなもので、ドライバーと車両を貸し切って使ってもらうというのが営業スタイルとなり、車庫を出てから戻るまでの間の料金がメーター料金などを参考にして算出されることになるとのことであった。
昔のタクシーといえば、事業者ごとや無線グループなどグループ単位などで派手なボディカラーに柄が入ったりするのが当たり前であった。しかし、それがいつからか「黒タク」と呼ばれる黒塗りのタクシーが主流となっていった。これは、一部タクシー事業者でハイヤー部門ももっている会社が、ハイヤーとして使っていた車両を新車へ入れ替えた際に、タクシー車両へ転用したのがはじまりとされている。黒タクが出始めると、そもそもハイヤーで使っていただけに、車両のグレードも高くて人気となり、無線配車では「黒タク指定」ということも多くなっていった。
ハイヤー運転士は乗客の使用人じゃない
また、ハイヤーの少ないある地域では、黒タクの行灯を脱着可能とし、ボディの社名表示も限りなく減らし、ハイヤー代わりとして貸し切り扱いで利用できるようにもしていた。いまは、ユニバーサルデザインとなっているMPV(多目的車)スタイルのトヨタJPNタクシーがメインとなっており、黒塗りであっても我々が思い描いているようなハイヤーの利用シーンにはそぐわなくなっている。ただし、いまでも「ハイヤーあがり」と見られる高級セダンタイプのタクシーを見かけることがある。
ハイヤーの利用形態は事前予約で貸し切りとなる。たとえば葬儀で必要になったなどのスポット契約のほか、テレビ局や企業の役員送迎などで「業務請負」として長期契約という形での利用などもある。
テレビ局や新聞社の記者が黒塗りのハイヤーで取材現場に乗りつけるシーンをニュースなどで見かけ、「ぜいたくしているな」と思う人もいるかと思うが、仮に事件が発生し現場へ自家用車や社用車で向かう途中に交通事故を起こしたり巻き込まれたりすると、事故処理には最短で3時間ほどかかるともいわれているので、事件現場に迅速に到着することができなくなる。ハイヤーを長期契約でテレビ局や新聞社に常駐させておけば、すぐに代車となるタクシーが現場に到着し、乗り換えて現場へ向かうことができるのである。ハイヤーではなくタクシーを利用することもあるが、その理由はハイヤーと同じである。ちなみに同様の理由で選挙の投票箱の運送はタクシーが担っているとも聞いている。
関係者によると、ハイヤーの運転士はなかなか厳しい面もあると聞いたことがある。たとえば過去に自社で役員送迎車と運転手を雇っていた会社があるとする。この場合は運転手と会社には雇用関係があるので、運転手という仕事に従事する社員ともなるので、乗せる役員などとは上下関係が発生する。
その後、自社保有をやめ外部と業務請負契約を結んでも、「請け負い会社の運転手」という上下関係が続くので、ドライバーは運転士というプロドライバーではなく、あくまで「使用人」というイメージで見られてしまいがちというのである。
まあ、タクシーでもいまどきは運転士を蔑む乗客が目立ってきているので、ハイヤーだけの話ではないのではあるが……。
「企業役員車両の運行請け負いでは、担当する役員次第で精神的負担はかなり変わってくると聞いています。役員車両を用意するぐらいですから大企業となりますが、そのなかで役員に昇り詰めるのですから、かなり性格的にはクセのある人も多いようです」とは事情通の話で、さらに話を進めてくれた。
「ある企業で『親分肌』の役員担当となった運転士がいました。日常の業務や自宅への送迎以外に休日のゴルフなどの送迎もやっていたそうです。ある日信越地方某所でのゴルフの帰りに、『ちょっと急いでいるから1時間半で都心まで帰ってくれないか』といいだしたそうです(グーグルマップで調べると3時間ほどはみておく必要があったそうだ)。細かい話はあえていいませんが、死ぬ気で走って1時間半は無理でも許容範囲の時間オーバーで目的地に到着したそうです。その運転士はその後『タクシーのほうが楽だ』と、同じ会社のタクシー運転士に異動したそうです」とのことであった。
企業の役員送迎だけではなくともハイヤーを利用する客層は富裕層や社会的地位の高い人、そして最近では外国人も目立ってきている。「タクシーのほうが楽」というのは語弊があるものの、乗せる人との「主従関係」のようなものがなく、ある程度自分のペースで業務につけるという点では、タクシー運転士のほうが精神的負担は軽いのかもしれない。ただ、これも個々人の価値観の違いなので、「ハイヤーのほうがいい」という人もいるはずである。
ただいえることは、タクシーだろうがハイヤーだろうが、運転する人をリスペクトする気もちが足りない利用者が目立ってきているということは間違いないようである。