大学入試の難易度は、数年前と比べてどのように変化しているのでしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)

近年は、ひと昔前に比べて、大学の進学率と上位大学の難易度が上がっています。個別指導塾塾長の小林尚氏と推薦入試専門推進塾塾長の橋本尚記氏に、最新の大学入試事情について聞きました。

※本稿は小林尚・橋本尚記著『提出書類・小論文・面接がこの1冊でぜんぶわかる ゼロから知りたい 総合型選抜・学校推薦型選抜』から一部抜粋・再構成したものです。

大学進学者は増えているか減っているか

みなさんの周りで「大学入試なんて簡単だよ!」という先生や先輩は見たことがないですよね。むしろ、「入試は大変なんだ!」「受験は早くから準備しないと間に合わないぞ!」と、高校生のみなさんはあおられているくらいです。……実際はどうなのでしょうか。大学入試の難易度は、数年前と比べてどのように変化しているのか、確認をしていきましょう。

早速ですが、大学の進学者数にかかわるクイズを出します。読み進める前に、かならず考えて、答えを1つ選んでくださいね。

Q.2013年度の大学進学者数は約60万人でした。
では10年後の2023年、約何人が大学に進学したでしょうか?

➀52万人   ➁58万人   ➂62万人

……実は答えは➂。約62万人でした。少子化の時代ですから、大学進学者は減っていると思ったかもしれませんね。しかし実はここ10年で少し増加していたのです。

難易度についてはどうでしょうか。難関大学の2014年度と2024年度の偏差値を比べてみると、次の表のようになります。一部の大学・学部では偏差値が上がっていることがわかりますね。


『提出書類・小論文・面接がこの1冊でぜんぶわかる ゼロから知りたい 総合型選抜・学校推薦型選抜』P.15より

共通テストになり難易度がアップ

大学入試の難化を説明する理由はいくつか考えられます。まず1つ目が、共通テストです。大学入試改革の一環でセンター試験が共通テストに変わりました。これがなかなかの曲者です。

一般的には、「知識」重視から「考える力」重視に変わったといわれますが、問題量が増大し、とにかく速く処理することが求められるようになりました。簡単な問題を速く解くだけならよいのですが、問題の難易度は変わりません。つまり、試験としての難易度は上がってしまったのです。受験生にとってはたまったものではありませんね。

たとえば、英語を見てみましょう。もともとセンター試験の英語は全部で4000語程度でしたが、共通テストになって6000語を超えてしまいました。

これは、従来の発音問題や文法問題がなくなり、長文読解問題に変わったことや長文1つあたりの語数が増えたことによるものです。数学でも、問題文が長くなり、これまで20ページ前後だった問題用紙は30ページ以上になりました。

試験時間については、英語はセンター試験時代から変わらず、数学は10分増えた程度ですから、この問題量増加に見合っていないことは明らかです。

また、科目数と問題数の増加も大事なポイントです。2022年4月に入学した高校1年生からは、新学習指導要領で学んでいると思いますが、2025年度入試からその新課程に対応した形式になります。

共通テストの教科が変更されることは聞いたことがあるかもしれませんが、大きな変更は「情報」科目の追加です。特に国公立大学では「情報」を試験科目に追加する発表が相次いでおり「情報」の試験を避けるのは簡単ではありません。ほかにも、国語の実用文の追加や数学の問題数増加など、基本的に受験生の負担がどんどん増える方向で改訂が決まっています。

英語の学習量も増加している

英語の早期履修というトピックにも触れます。英語が小学校から必修になったのは、みなさんもご存じでしょう。もちろん小学校から学習を開始しているわけですから、学習量も増加しています。従来の英単語数は、中学校で1200語、高校で1800語の計3000語でした。

しかし、新しい学習指導要領では小学校600語から700語、中学校1600語から1800語、高校1800語から2500語で、合計すると4000語から5000語です。つまり、単語だけで1000語以上学習量が増えてしまったのです。

これに加えて、文法事項なども今まで高校で習っていた範囲を中学校で習うなど、前倒しがおこなわれています。

このように、大学入試を取り巻く環境はこれまで以上に厳しくなっています。その中で、大学入試に向かってやみくもに勉強を進めることは悪手であるといわざるを得ません。

厳しい現状の中で大学入試を勝ち抜くためには、受験を戦略的に進めることが必須なのです。その戦略として、総合型選抜や学校推薦型選抜の活用がありえるわけです。みなさんは総合・推薦入試を正しく理解して、戦略的に取り組んでください。

高校生が使える時間が減少している3つの理由

大学受験が難化する一方で、高校生が使える時間は減少しています。まずはその背景を確認しましょう。

1つ目は部活動の過熱化です。部活動は本来自由に取り組むものですが、なかにはそれが生活の中心になってしまって、まともな高校生活を送れていないことがあります。

実際にスポーツ庁は運動部活動のあり方についてガイドラインを策定し、過熱化しすぎた部活動の抑制をはかっています。しかし生徒さんを見ていると毎日のように部活にあけくれ、学校の宿題をやることすらおぼつかない人がたくさんいる現状は、いまだに変わっていません。

次に、「探究学習」も影響が大きいものの1つでしょう。2022年に学習指導要領が改訂され、「総合的な学習の時間」だったものが「総合的な探究の時間」に変わりました。

一見すると何が変わったのかよくわかりませんが、調べ学習や、発表・プレゼンの時間が増えたということです。その分、他の科目がラクになればよいのですが、そんなことはありません。つまり、以前よりも高校生の負荷が大きくなっています。

最後に、学校行事です。もちろん、学校行事にはすばらしい意義がありますが、行事に気を取られ、学校生活がおぼつかなくなる高校生も少なくありません。最近では、生徒の自主性を重んじた学校行事が増えており、それ自体はすばらしいことですが、その分やることが増えてしまい、勉強時間をけずってしまうことが多いようです。

このように、現在の高校生にとっては数学や英語などの勉強以外の活動に時間を取られる場面が以前よりも多くなっているのです。

ネットで情報を手に入れることの良し悪し

そんな忙しい受験生にとって希望となるのが、インターネットです。YouTube、SNSなどによって大学入試や勉強に関する情報は、誰でも手軽に、そしてほとんどタダで取得できるようになりました。しかし、これにも罠があり、使い方によっては受験生のデメリットになりかねません。

ここで1つ、答えのないクイズを出します。自分なりに考えてみてくださいね(本書ではデメリットを2つ紹介しますが、それ以外にもあるかもしれませんよ)。

Q.YouTubeやTikTokなどのSNSで情報を手に入れようとした場合、どのようなデメリットが考えられますか?

……たとえば、勉強法がわからず困っている生徒がいたとしましょう。その生徒はYouTubeで勉強法を調べたとします。もちろんYouTubeの勉強法で解決できれば、問題はありません。

しかしYouTubeの情報は玉石混淆です。指導経験が多数ある塾や講師が発信した情報から、自身の成功体験だけで大学生が語る情報もあります。なかには、注目を集めるために少し事実を脚色してしまっているものもあるでしょう。これらの情報の中から、生徒は自身で適切なものを選ぶ必要があります。

さらに恐ろしいのは、YouTubeの動画は毎日とめどなく発信されることです。自分に合っていると感じた勉強法を実践しても、次の日には別のチャンネルで新しい勉強法が発信され、その次の日にはまた別の動画の勉強法が気になってしまう……そのような毎日です。

このような状況の中で、自分のやるべきことに集中し継続していくことは、これまで以上に難しくなっています。

選択肢が増えすぎて何を選べばいいかわからない

それに追い打ちをかけるかのように、受験生の選択肢が増加しています。
選択肢の増加というと聞こえはよいですが、もう少し厳密にいえば、選択肢の複雑化です。

たとえば、大学・学部の新設です。時代に合わせて新しい大学・学部が多くつくられます。これ自体は悪いことではありませんが、高校生にとっては悩みの種になります。「〇〇学部に行きたいと思っていたけど、この時代だし、情報系の学部を目指した方がいいのかな……?」そんな悩みを持つ人も少なくないでしょう。

入試形式も増えました。総合型選抜や学校推薦型選抜の割合が増えたことにより、これまでは特殊な力や実績を持つ生徒向きだった入試が、一般的な生徒の選択肢に組み込まれているのです。

一般入試の中でも、複数科目に範囲がまたがる大学独自の「総合問題」の出題や英検を利用した試験形式の増加、私立大学での共通テスト併用型入試など、複雑化・細分化の波は今もなお、続いています。


このような状況下、難関大学合格の難易度は依然として高く、一般入試であれば3000〜6000時間の勉強が必要です。仮に5000時間勉強をするとしたら、1日5時間勉強をするとしても、1000日間かかります。1000日間……つまりは約3年近い時間が必要、ということです。

「高校は3年間しかないのに、どうやって時間を確保したらいいの……?」と思いますよね。

普段の生活を振り返ると、どうやっても現実的ではないという高校生も多くいると思います。今の高校生はこの現状の中、限られた時間でどう大学入試を勝ち抜くかを考える必要があるのです。

特に推薦対策は、高校1年生の最初から始まっています。早め早めに情報をチェックし、やるべきことを小分けにして、1つずつ取り組んでいきましょう。

(小林 尚 : 個別指導塾CASTDICE塾長)
(橋本 尚記 : 推薦入試専門推進塾塾長)