日本に「Fラン大学」は必要なのか…10年後の「大学全入時代」を前に考えるべきこと

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学究をかなぐり捨て、ビジネスに邁進する――。今、私立大学でモラルハザードが起きている。少子化が進む中、グレーな手段で学生を集めて国から補助金を受け取る、一部Fランク大学の存在意義を問い直す。

議論を呼んだ東大の授業料値上げ

9月24日、東京大学が来年度から20年ぶりに授業料を値上げすることを決定し、賛否両論を巻き起こしている。年間の授業料をおよそ2割引き上げることに対して、学生による反対運動も起きた。

学費が比較的安くて一定の学力さえあれば入学できた国公立大学は、かつて「機会の平等」の象徴とされていた。家計が苦しい家庭の学生を思えば、値上げが議論を呼ぶのも当然だろう。

今から50年前、1970年代の大学進学率はおよそ20%であり、「受験競争」が過熱した1980〜90年代でも40%未満にとどまっていた。しかし2024年度の進学率は55%に達しており、2035年には大学受験者数が入学定員を下回る「大学全入時代」が訪れるのは確実と見られる。

限られた若者しか通えなかったはずの大学だが、18歳人口が減少するにつれて、希望して学費さえ納入すれば誰でも通える場所となっているのだ。

ただし受験者の総数が急速に減りつつあるとはいえ、すべての大学の定員が充足されているわけではない。むしろ人気がない大学を中心に、すでに約6割の私大が定員割れを起こしている。「二極化」が進んでいるからこそ、各大学は生き残るために必死だ。

大学なのに分数の割り算

とりわけ瀬戸際に立たされているのは、いわゆる「Fランク大学」だろう。Fランク大学とは、大手予備校が作成する偏差値表において、偏差値35未満に位置する「ボーダーフリー大学」のこと。実質的には「偏差値が低すぎて算定できない大学」であり、そのほとんどが事実上の全入状態だ。

「答案用紙に名前さえ書ければ合格する」と言われるように学生の学力は低く、中には高校や中学の学習内容も満足に身につけないまま進学する人も多い。be動詞や分数の割り算、原稿用紙の使い方といった、義務教育レベルの授業を行わざるを得ない大学も存在する。

大学とは本来、高校卒業後も自発的に学びたい人、あるいは研究を続けたい人のための場であるはずだ。しかし本末転倒の事態が起こっている原因のひとつは、大学運営を「ビジネス」と割り切る経営者が増えたからだろう。大学の問題に詳しいジャーナリストの田中圭太郎氏が解説する。

「山梨学院大学では法人理事長の古屋光司氏が、2019年4月に『これから本学は教育に特化していくため、研究者教員は必要ない』と、研究機関の役割を放棄する方針を掲げました。さらに『サービス業』として教育の質よりも利益を上げることを目指し、教職員の給与を削減しています。私大の中で、こういった大学が増えてきているのです」

看護学部や介護系の学部であれば、在学中に資格を取ることを目的とする、いわば「就職予備校」としての役割も期待できるだろう。しかし経営上の利益を重視するFランク大学には、「手に職」がつくわけではない文系学部が多い。関西圏のFランク大学元職員のA氏が、その裏側を明かす。

「文系の授業は教員と教室さえ確保できれば設備が必要ないので、理系よりも利益率が高い。うちの学費は4年間で約700万円とMARCH(東京にある難関私大5校)以上ですが、それでも理系より安いと考える親は多いです。ただし就活は厳しく、人材を使い潰すブラック企業に就職する学生が目立っています」

「指定校推薦」の裏側

私大の経営をビジネスとして捉えるならば、最大の目標は「顧客の獲得」、すなわち学生の確保だ。つねに学生数が足りないFランク大学にとって、入学定員を埋めることは至上命題と言える。首都圏のFランク大学職員のB氏が入学者を確保するための「手口」を明かす。

「かつては中国や東南アジアから大量に留学生をかき集めて定員を埋めていました。しかしコロナ禍で留学生の確保が難しくなってしまったため、最近では『指定校推薦』を利用することにしています。他校よりも早く合格を出すと、意欲が低い学生は受験勉強を打ち切ってうちに進学してくれる。学生の質はどんどん下がっていきますが、背に腹は代えられません」

最寄り駅から歩いて10分、住宅街を抜けた先にある同大に足を運ぶと、平日の昼間にもかかわらずキャンパスに人影はまばら。授業中の教室から抜け出して喫煙所でタバコ休憩していた1年生に話を聞くと、進学した動機をこう話した。

「高校から推薦入試の枠をもらえたので、入りやすかったこの大学を選びました。両親は『大学でも専門学校でもどっちでもいい』という感じでしたし、授業もラクそうだったし」

一部の私大の暴走ぶりは、これだけにとどまらない。後編記事『「Fラン大学」の暴走が止まらない…! グレーな手段で補助金を受け取り、政治家とベッタリな大学も』では、さらなる実態を明かしていこう。

「週刊現代」2024年10月19日号より

「Fラン大学」の暴走が止まらない…! グレーな手段で補助金を受け取り、政治家とベッタリな大学も