兵庫県の斎藤元彦知事

写真拡大

 兵庫県議会から全会一致で不信任を突きつけられた斎藤元彦知事(46)は9月26日、会見で失職を選んだことを発表した。加えて、これまでの実績をアピールし、出直し選挙に臨むことも明かした。

 ***

【写真をみる】“お土産”を「俺がもらっていく」と堂々お持ち帰り 高級ガニを手に満面の笑みを見せる“パワハラ疑惑”の斎藤知事

 会見に現れた斎藤知事は、開口一番、こう言い放った。

斎藤知事:結論から言いますと、今回の不信任決議案を受けて議会の解散はせず、30日付で失職をする。そして次期知事選において出直し選挙に臨ませていただくことを決めましたので、その旨をご説明させていただきたいと思います。

 斎藤知事についてデイリー新潮は、これまで何度も報じてきた。事の経緯を簡単に振り返ってみよう。

兵庫県斎藤元彦知事

 斎藤知事に関する7項目にわたる疑惑を告発した文書が報道機関などに送付されたのは、今年3月12日のことだった。文書を入手した斎藤知事は「徹底的に調べてくれ」と副知事らに文書作成者の特定を命じる。作成者が西播磨県民局長であることが判明すると、彼のパソコン等を押収。斎藤知事は同27日の会見で「業務時間中に嘘八百含めて文書を作って流した行為は公務員として失格」と発言したが、まだ文書の内容については精査されていなかった。

 これが告発文書問題のスタートであり、斎藤知事の初動の失敗だった。5月7日、元県民局長の文書を公益通報としては扱わず、停職3カ月の懲戒処分が下される。6月13日、兵庫県議会は文書にあった7項目の真偽を明らかにするため百条委員会の設置を決定。しかし、7月7日、文書を作成した元県民局長が死去。さらに、同25日、文書で告発された阪神・オリックス優勝パレードの担当課長も、激務によりうつ病を発症し療養中だったものの、4月に亡くなっていたことが判明した。いずれも自殺と見られている。8月30日、百条委員会で斎藤知事の証人尋問が行われるも、本人はパワハラ等を認めることはなかった。そこで9月19日に県議会で不信任決議案が可決されたのである。不信任決議から1週間を経て、斎藤知事が導き出した答えは“失職”だった。

 とある県職員は突き放すように言う。

すでに知事選に突入

「知事は会見で『解散する気は最初からなかった』と言っていましたが、それは違うと思います。本音では自分の任期を3年で終わらせようとした県議会に恨み骨髄でしょうから、議会解散と迷っていたと思います。しかし、それをすると100人ほどにもなる立候補者の声が全て、斎藤県政の批判になりかねない。しかたなく解散を諦め、失職を選んだのでしょう。辞職でなく失職を選んだのは、出直し選挙で当選した場合の任期が、残り1年ではなく4年になるから。コスパがいいからですよ」

 あくまでも当選すれば、の話である。

「そのため不信任決議の翌日から関西ローカルのテレビに出まくり、これまでの実績をアピールした。すでに斎藤知事は次期選挙戦に突入していたのです。失職を26日の会見で発表したのもそう。本当は19日の不信任決議から10日以内に県議会を解散し、辞職の発表をすればいいのです。失職ならそのまま会見をせずにフェードアウトしても、自動的に30日に決まる。しかし、そうしなかったのは、記者クラブからの要請もあったそうですが、知事再選を見据えて会見を開きたかったらです。原稿も見ない淀みない喋りも、ずいぶん練習したのでしょう」

 会見は29日がギリギリの日程だった。ところが――。

改革の成果ではない

「28日は土曜日で29日は日曜日。会見を行うには県職員を使わねばなりませんから、土日に会見を開くと、またパワハラだの言われかねない。27日の金曜日がギリギリの日程でした。ところが、その日は自民党総裁選があるから、斎藤知事が会見を開いても注目されることはない。そこで前日の26日の木曜日、それも午後3時からと、ワイドショーでも取り上げやすい時間帯を選んだのです」

 事実、26日の失職会見でも、冒頭のセリフの後は自己アピールだった。

斎藤知事:まず自らの給与・退職金をそれぞれカットいたしまして、批判の大きかった公用車センチュリーのリースを大幅に見直させていただいた……。

「給与3割減、退職金5割減は、たしかに実績に数えていいと思います。公用車のセンチュリーをアルファードに変更したのも、コストカットになっています。ただし、この車に乗って県内の施設に出張した際、エントランスの20メートルほど手前で車を降りて歩かされたことに激怒していたわけです」

 他にも、県立大学の無償化、県の貯金が30年ぶりに100億円を超えたことなども改革の成果として挙げていた。

「地元紙も報じていますが、県立大の無償化については、昨年春に県内の高校を卒業した人のうち県立大に進学したのは757人で、わずか1・8%です。受益者があまりに限定的と議会でも批判されていました。また、県の財政調整基金が130億円になったことは事実ですが、それは企業の業績が好調で税収が増えたから。斎藤知事の行政改革で成し得たものではないと担当部長も認めています」

 そもそも斎藤知事は7月30日の会見で、こう自慢していた。

98・8%!

斎藤知事:選挙時に掲げさせていただいた公約が全体で173項目ございます。そのうち一定達成、着手した状況は171項目、98・8%という形になります。多くの公約や掲げたことは達成なり着手してきて、一つずつ公約は進捗、進んでいると考えています。

 公約の98・8%を達成したというのだ。

「知事は達成・着手した公約が171項目と言っていますが、手をつけただけの公約も少なくないようです。しかも、これらの公約は、以前は知事の公式サイトに掲載されていたのですが、今は削除されているのですから確認のしようがない。しかし、それを確認した機関がありました」

 一般社団法人セーファーインターネット協会が設立したインターネット上の誤情報・偽情報の対策を行なう日本ファクトチェックセンターである。同センターがインターネットアーカイブを用いて斎藤知事の公約を確認すると、その数は斎藤知事が発言した173項目はなく137項目だった。137項目しかない公約のうち、どうやったら171項目も着手できるのだろう。

「そもそも3年前の知事選の際、彼は6項目しか公約を掲げていませんでした。それがあまりにも公約数が多くなったので、斎藤知事もわからなくなったんじゃないですかね。一説には、知事選の対抗馬だった前副知事の金沢和夫候補の公約をパクったなんて声もあるほど。それで98・8%なんてよく言えたものだと思います」

 斎藤知事は失職を発表した26日、自身のXにこうポストした。

《本日、失職を選択し、/出直すことを決めました。/県政の現状、私の責任です。/改めて、心からお詫びします。/でも、やはり改革を止めたくない。/組織もなく、自分一人からの挑戦になります。厳しい道のりですが、しっかり歩んでいきたいです。》

 これに“いいね”が15万件もついている(28日現在)。斎藤知事を応援する声も少なくない。知事選の対抗馬が乱立すれば、知名度のある斎藤知事が有利なんて声も出始めている。

「この1週間の猛アピールが効いているようです。しかし、10月3日には百条委員会の理事会が開催され、次の委員会での証人について話し合われるそうです。11月に行われる知事選までに、新たな疑惑が出てくるかもしれません」

デイリー新潮編集部