和歌山地裁、和歌山家裁、和歌山簡裁が入る庁舎=竹内望撮影

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 和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を殺害したとして、殺人と覚醒剤取締法違反(使用)の罪に問われている元妻、須藤早貴被告(28)の裁判裁判の初公判が12日、和歌山地裁(福島恵子裁判長)であった。被告は「私は殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」と無罪を主張した。

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 起訴状によると、被告は2018年5月24日、野崎さんの自宅で致死量の覚醒剤を摂取させ、急性覚醒剤中毒で死亡させたとされる。2人は3カ月前に結婚したばかりだった。

 検察側は冒頭陳述で、被告がインターネット上で「老人 完全犯罪」などと検索していた多数の履歴を明らかにした。野崎さんの遺産は少なくとも13億円に上るとされ、「莫大(ばくだい)な遺産を得るため、証拠を残さない完全犯罪を企てた」と強調した。

 覚醒剤については被告が18年4月、密売サイトの関係者に連絡し、致死量の3倍以上に当たる3グラム超を注文。別の関係者と和歌山県内で接触し、十数万円で手に入れたとした。

 そのうえで、野崎さんの姿が確認された防犯カメラ映像や死亡した可能性の高い時刻などから、事件当日の午後4時50分〜同8時に摂取させたと指摘した。この時間帯は家政婦が外出。第三者の侵入もなく、野崎さんと被告が2人きりだったとして「被告以外の犯行とは考え難い」と述べた。

 遺体の解剖結果で胃の覚醒剤濃度が高かったことから、野崎さんは口から飲み込んだとしたが、具体的な方法には言及しなかった。野崎さんの体調が急変した場面の目撃証言など直接証拠はないとされ、検察側は多数の状況証拠で立証する方針だ。

 これに対し、弁護側は「具体的にいつ、どうやって覚醒剤を飲ませたのか。わからないことが多い事件だ」と反論した。そもそも野崎さんは殺害されたのか、被告が覚醒剤を飲ませたのかといった争点を挙げ、「怪しいからやっているに違いないと思うのであれば、裁判をする意味がない。疑問がある時は無罪としなければならない」と訴えた。

 公判は11月18日まで計22回の審理が予定され、計28人の証人が出廷する見込み。判決は12月12日に言い渡される。

 野崎さんは生前、複数の会社を経営。欧州の伝説上のプレーボーイになぞらえた著作「紀州のドン・ファン」で多数の女性と関係を持ったことをつづり、耳目を集めていた。【藤木俊治、安西李姫、木島諒子】