新iPhoneと同じタイミングでファーウェイも新製品を打ち出した(撮影:風間仁一郎)

写真拡大 (全5枚)


ファーウェイの三つ折りスマホ(写真:ファーウェイ公式アカウントより引用)

iPhone 16の発表会から半日後の9月10日午後、中国では通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の新スマホ発表会が始まった。

開くと10.2インチになる世界初の三つ折りスマホの価格は最廉価版で1万9999元(40万円)。それにもかかわらず、予約数は発表から1日足らずで500万台に迫る。今年は中国市場でアップルを抜いて首位に立つことも、現実味を帯びている。

iPhoneの発表会は例年9月に行われ、新機能、カラーバリエーション、価格……と関連ニュースがこれでもかというほど放出される。だからほかのメーカーは通常、この時期を避けて新商品を発表する。

iPhone新製品発表会にぶつける

ところが今年はファーウェイが同じ日(日本時間)にスマホの発表会をぶつけ、中国では「アップルとファーウェイの戦争」と騒然となっている。日本の読者は「ファーウェイってまだスマホ作ってるの?」と疑問に思うかもしれないが、昨年、突如復活したのだ。

【写真12枚を見る】ファーウェイの三つ折りスマホ。気になる外観や、開いた様子も。新製品発表会は「まるで五輪開会式」のようだった

ファーウェイは2019年、アメリカ政府の禁輸措置を受けて、スマホ生産に必要な半導体調達を封じられた。アンドロイドOSやグーグルのGMS(グーグル・モバイル・サービス)と呼ばれる検索や地図、メールなどのアプリも搭載できなくなり、日本をはじめ多くの国から、同社のスマホが消えた。

以降中国市場では細々と新機種を発表していたものの、量産化は厳しく、2019年に世界2位だったシェアは、2021年以降5位圏外に沈んだままだった。

ところが2023年8月末、ファーウェイは規制で作れないはずの5G対応スマホ「Mate 60 Pro」を突然発売し、アメリカを大いに動揺させた。

カナダの調査会社はファーウェイが自社開発したチップを搭載したと結論づけたが、ファーウェイは詳細を一切説明していない。

翌2024年4月には、規制前に人気だった「P」シリーズの後継「Pura 70」シリーズを発売した。こちらも上位機種は5G対応しているとみられる。

そのファーウェイが、iPhone 16と同じ日に発表会を開催し、オンラインでも配信した。


ファーウェイの発表会の様子(写真:ファーウェイライブ配信より引用)

スマホ復活へ向けた気合の大きさがうかがえる。

ポケットに入るPC

ファーウェイが10日に発表した「Mate XT」は世界で初めて量産化された3つ折りスマホだ。


ファーウェイの三つ折りスマホ(写真:ファーウェイ公式サイトより引用)

折りたたんだ状態でも開いた状態でもアプリなどを利用でき、すべて開くと10.2インチのタブレットサイズになる。


ファーウェイ三つ折りスマホ、開いた状態(写真:ファーウェイ公式サイトより引用)

5.5倍光学ズームを搭載したカメラ、画像に映り込んだ不要なものを消去できる機能、対話型AIやAI翻訳……、サムスンやグーグルなど他社のハイエンドスマホがウリにしている機能はあらかたついている。通信規格については触れなかったが、当然5Gにも対応しているだろう。

価格はストレージの大きさに応じ、1万9999元〜2万3999元(約40万〜48万円)の3種類。最廉価版で10万円を超えるiPhone 16と比較しても、もはやスマホとは思えない高価格だが、登壇した消費者ビジネスグループトップの余承東(リチャード・ユー)氏は、胸ポケットから2つ折りのキーボードを取り出し、10.2インチの画面になるスマホと組み合わせて「ポケットに入るPC」だと強調した。

中国の景気低迷が長期化する中で、40万円のスマホが売れるのか。そんな疑問もあるだろうが、これだけ差別化できていればおそらく売れる。Mate XTの予約は価格や機能が公開される前の7日午後に始まったが、10日の発表会開始時には予約数が370万台を超えた。9月11日午後時点で約500万台に達する。

ファーウェイの最初の年間目標は、中国市場でのアップル超えだろう。それはかなり現実味を帯びている。

市場調査会社IDCによると、2023年の中国スマホ市場でアップルは17.3%のシェアを獲得し首位に立った。ただ、10〜12月の出荷台数は前年同期比2.1%減少し、シェアもわずかだが低下した。9月に新iPhoneを発表し、旧iPhoneを値下げすることも多いアップルは年末にかけシェアを伸ばすので、異例のことだ。

一方で10〜12月のファーウェイの出荷台数は同36.2%伸び4位につけた。同社のシェアが5位以内に入るのは、約2年ぶりだった。

2024年に入るとファーウェイの勢いがより鮮明となる。1〜6月の中国スマホ市場で同社は首位に立った(IDC調査、四半期別では1〜3月、4〜6月ともに2位)。アップルは4〜6月の出荷台数が同3.1%減少し、5位圏外に落ちた。iPhone 15の販売が振るわず、6月のネットセールでは各プラットフォームがiPhoneを値下げしたが、巻き返せなかった。

中国は消費の減速が深刻化しているが、スマホの高価格帯の市場はむしろ伸びている。IDCによると2024年4〜6月の600ドル(約8万5000円)以上のシェアは同3%上昇し全体の26%を占める。アップルは追い風を生かせず、ファーウェイにシェアを奪われていることがわかる。

アップルが中華圏で苦戦する一方で…

アップルの苦戦は8月1日に発表した2024年4〜6月期決算にも現れている。売上高が4〜6月期決算で過去最高だったにもかかわらず、中華圏は前年同期比7%減少した。

一方、ファーウェイの2024年1〜6月期の売上高は同34%増の4175億元(約8兆3500億円)だった。2022年1〜6月に売上高が3016億元まで減少したが、足元では規制前の水準に戻してきている。

浮かび上がるのは、アメリカの規制で土俵際まで追い詰められたファーウェイの粘り腰と、これだけ注目を浴び、「進化」をしているとは言え、iPhoneが革新性を失い「安定」したブランドになっているという現実だ。

iPhoneが圧倒的に強い日本ではiPhone 16の発表後、「16を買うか、値下げされた15を買うか、買い替えを見送るか」と、あくまでiPhoneをベースにした議論が展開されているが、中国市場では価格を据え置いて性能を向上させるだけでは消費者の支持を得られない。

規制後辛酸をなめてきたファーウェイの余氏は、Mate XTの発表で「開発に5年を費やした」と繰り返した。革新なければ生存なし。執念そのものである。

【そのほかの写真を見る】ファーウェイの三つ折りスマホ。気になる外観や、開いた様子も。新製品発表会は「まるで五輪開会式」のようだった

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)