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今回の主役は、パートを減らして家族との時間を増やすために、FXのデイトレードを始めた44歳のパート主婦。家族との時間を増やすはずが、相場から目が離せず家族よりもFX優先の生活に。原因はいったい何だったのでしょうか? 本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏がその様子を詳しく分析し、FXと上手く付き合うためのポイント5つを紹介します。

へそくり10万円から始めたFX、順調なスタートを切るも…

佐藤美香さん(仮名)は、中学生と高校生の子供を持つ44歳のパート主婦。2023年の初め頃に、ママ友から「最近、FXで毎月2万円ぐらい利子もらってるんだ」と聞きました。日米の金利差が拡大する中で、ドル円のポジションで大きなスワップポイントを得ていたそうです。

佐藤さんはちょっとしたお小遣い稼ぎになればと考えて、こっそり貯めていたへそくり10万円を元手に、夫に内緒でFXを始めます。余裕のある少量のポジションでしたが、1ヶ月で数千円のスワップポイントを獲得することができました。

さらに驚いたことに、ドル円のレートも大きく上昇したため、ポジション自体には1万円近い利益が発生。「細かく取引したらもっと利益を出せるかも。パートを減らして、家族とのんびりできる時間が増えるといいな」と考えた佐藤さんは、毎日売買を繰り返すデイトレードを始めるようになります。

ところが、ここから徐々に生活のバランスが崩れていったそうです。デイトレードを始めたもののなかなか上手くいかない佐藤さん、「負けてお金を失うのは絶対にイヤ」という思いから、相場から目を離せなくなっていきました。

わずかな変動に一喜一憂する日々が続き、夕方からは相場を見ながら晩ごはんを作るのが習慣に。夜も相場が気になりスマートフォンとにらめっこで、家族との会話は減っていきました。パート中には、トイレでこっそりチャートを確認することもよくあったとのこと。

そんなある日、夕方に相場の流れが急に変わり、佐藤さんは大きな含み損を抱えます。何とか挽回しようと相場に張り付き続けていると、夕食の準備をすっかり忘れてしまいました。帰宅した夫はこれを見て不満が爆発、「最近、一体どうなっているんだ!」と怒鳴ります。負けてイライラしていた佐藤さんも言い返し、大げんかに発展してしまいました。

冷静さを失っていた佐藤さんですが、仲裁に入った長女の「ママ、私の話聞いてくれなくなったよね」という言葉に我に返ります。子供よりもFXを優先してしまっていたことを深く反省して、FXをやめることを決めたそうです。

FXで生活バランスが崩れた原因は?

佐藤さんは、FXで致命的な損失を出したわけではありませんが、FX優先の生活が家族との時間や家事をおろそかにしてしまったところに問題がありました。皮肉にも、家族との時間を増やすために始めたFXが、家族との時間を奪う結果となっていたわけです。

こんな状況に陥った根本的な原因は、しっかり準備せずにデイトレードを始めてしまったことにあるでしょう。どう取引すればいいかも曖昧な中で、お金を失うプレッシャーから極端に相場に張り付くことになり、生活のバランスが崩れていったわけです。

また、トレードにおける負けを極端に嫌っていたことも問題です。特にデイトレードは勝ったり負けたりを繰り返しながら、トータルで利益を積み上げていくもの。一定の負けは受け入れる姿勢も含めて、トレードのスキルを高める準備ができていれば、過度に相場に執着することもなかったかもしれません。

スキルを高める上で重要な「トレード経験」

佐藤さんのような失敗を避けるためには、どのようなスキルアップ方法が効果的なのでしょうか?FXで安定的に利益を上げている人を対象にした弊社の調査では、次のような興味深い結果が得られました[図表1]。

[図表1]

このグラフは、FX上級者が考える「取引成績が安定しないFXトレーダーがスキル向上するための効果的な方法」を示しています。最も支持されたのは「過去チャートを使用した練習や振り返り」で42.5%、次いで「少額の実戦トレード」が40.6%となっています。この結果からは、リスクの少ない環境で取引経験を積むことの重要性がうかがえます。

佐藤さんのケースを考えると、少額資金で実戦トレードを繰り返していたという点で、努力の方向性自体は間違っていなかったといえそうです。しかし、「負けてお金を失うのは絶対にイヤ」というプレッシャーに弱い性格を踏まえると、まずは過去チャートを使用した振り返りや練習を中心に取り組んでいた方が、良い結果につながりやすかったと考えられます。

トレード経験を積むことが重要となるFXですが、自分の性格や置かれている状況を踏まえて、無理なく取り組める方法を選択することが大切といえるでしょう。

FXと上手く付き合うための5つのポイント

FXは手軽に始められる投資手段ですが、佐藤さんのケースのように家族関係の悪化を招くこともあります。最後に、生活とのバランスを保ちながら、FXと上手く付き合っていくためのポイントを紹介します。

1.「生活第一」を意識する

FXが原因で、他にやるべきこと(家事、仕事など)が疎かになっては本末転倒です。あくまでも最も大切なのは自分自身の生活であり、FXはそれを豊かにするための手段に過ぎないことを意識しましょう。

2.いつ取引するのか、ルールを決める

FXは、土日を除いて基本的に24時間取引することが可能です。これはメリットでもありますが、やり過ぎにつながりやすい側面もあります。自分の生活パターンを踏まえて、FXの取り組み方について、無理のないルールを決めておくといいでしょう。

3.スキル向上のために経験を積む

FXで安定した成績を出すには、一定のトレードスキルが必要と考えられます。そのためには、できるだけ多くのトレード経験を積むことが効果的。まずはたくさんのトレードをこなして、スキル向上を目指すことが大切です。

4.負けても受け入れられる金額でトレードする

FXを始めたばかりの頃は、誰しもトレードスキルは身に付いていないはずです。例外も多々ありますが、基本的には勝ちにくいと考えられます。いきなり大きな勝負をせずに、負けても受け入れられるような金額でトレードを行うようにしましょう。

5.過去チャートを使った振り返りや練習も行う

過去チャートを活用すれば、ノーリスクでリアルトレードよりもたくさんの経験を積むことが可能です。過去チャートを再生してシミュレーションできるようなツールやアプリもあるので、こういったものも上手に活用しながら、効率良くスキル向上を目指すといいかもしれません。

以上の5つを意識することで、佐藤さんのような失敗は避けることができるはずです。

FXは、安定した副収入につながる可能性もある投資手段ですが、付き合い方を間違えるとお金以上に大切なものを失うことにもなりかねません。生活とのバランスを保ちながら、着実にスキルを磨いていくことを心がけていただければと思います。