超重要国家機密扱いの熱核兵器弾頭の構造図をロゴ画像から発見
スティーブンス工科大学の教授であり、核兵器の歴史についてまとめるブログ・The Nuclear Secrecy Blogの運営者でもあるアレックス・ウェラースタイン氏が、Redditで偶然見つけた古いプレゼンテーション資料から国家機密扱いの熱核兵器弾頭の構造図を発見しています。
Did Sandia use a thermonuclear secondary in a product logo? | Restricted Data
ウェラースタイ氏は2024年9月、Reddit上に投稿された「2007年にサンディア国立研究所が作成したプレゼンテーション用スライド」を偶然発見します。
この資料はルクセンブルクで開かれた会議の中で、サンディア国立研究所の研究員が実施した「コンピューターモデリングの概要に関するプレゼンテーション」で使用されたものです。以下のスライドは、SIERRAフレームワークのロゴで、同フレームワークの一部であるさまざまなモデリングソフトウェアがまとめて表示されています。
この資料をチェックしていたウェラースタイ氏は、熱核兵器設計の断面図に非常によく似たものを見つけます。それが以下。
ウェラースタイ氏はこの「熱核兵器設計の断面図らしきもの」が何なのか気になったため、プレゼンテーション資料の高解像度版を探し始めます。アメリカエネルギー省科学技術情報局の公式サイトにアクセスし、関連しそうな単語を入力してプレゼンテーション資料を探したところ、「Sierra」「Salinas」「Conference presentations」といった検索ワードで資料の高解像度版を見つけることができたそうです。最も高解像度だったのは、2008年の別のプレゼンテーション資料に含まれていたSIERRAフレームワークのロゴだそうです。
この高解像度版の画像をチェックしたウェラースタイ氏は、「これは核弾頭の再突入体のようです。先端の赤色・黄色・橙色の部分は起爆・伸管・点火システムの位置にあり、その下にある緑色と青色の部分は熱核弾頭のように見えます。緑色の部分はプライマリ(核融合爆弾を起爆するための高温・高圧を得る目的で使われる核分裂爆弾部分)で、青色部分はセカンダリ(核融合部分)の典型的な表現です。各色の部分が何を示しているかについては議論の余地がありますが、放射線ケース・中間媒体・ダンパー・核融合燃料・スパークプラグを表しているように見えます。中央のシリンダー部分には中性子をスパークプラグに導くチャネルのような、興味深い小さなくぼみがあります」と言及。
さらに、同じプレゼンテーション用資料の別のページには熱核弾頭の構造をより正確に示した3Dモデルの画像も見つかっています。ただし、こちらの画像では弾頭部分の構造がより詳細に確認できるものの、プライマリやセカンダリ部分は赤色で塗りつぶされています。しかし、正確な寸法が記されており「かなり驚いた」とウェラースタイ氏は記しました。
このグラフィックはアメリカエネルギー省科学技術情報局の公式サイト上で公開されているプレゼンテーション資料の少なくとも6つに含まれており、他にもいくつかの政府系ウェブサイトでも使用されていることをウェラースタイ氏は確認しています。例えば、NASAが2011年に公開したプレゼンテーション資料にも同様のグラフィックが含まれているとのこと。この熱核弾頭の断面図と思しきグラフィックは、SIERRAフレームワークのロゴに含まれているため、多くのプレゼンテーションで使用されており、アメリカ政府がホストする非機密の一般向けデータベースで複数見つけられる状態になっていたというわけです。
さらに、ウェラースタイ氏はサンディア国立研究所の別のプレゼンテーション資料から、熱核弾頭の断面図の別バージョンらしきものを発見します。これは構造ダイナミクスを目的としたモデリング作業の一例として示されたもので、核兵器の一部であることは記されているものの、その他の詳細な説明は一切存在しないそうです。
SIERRAは、科学者がフルスペクトル武器の安全性問題をシミュレートするためのシミュレーションおよびモデリングツールだそうです。武器を落としたり火をつけたり落雷させたりしても暴発しないようにするために用いられるシミュレーションツールで、核兵器がどのように爆発するかをモデリングしているわけではなく、「さまざまな材料(鋼、ウラン、リチウムなど)をモデリングすることで、核兵器を落とした場合や、ひび割れや歪みが発生した場合に、どのような現象が起きるかをシミュレーションするためのもの」です。
1990年代以降、アメリカエネルギー省は、多段式熱核兵器を表す図として、唯一以下の画像を使用していました。これは熱核兵器が重要な国家機密であり、詳細を示すことは政府から認められなかったためであることは明らかです。この図は核問題担当国防次官補が発行した「核問題ハンドブック2020(改訂版)」でも登場します。この図では熱核兵器の中にプライマリとセカンダリという2つの構造が存在することを示すのみで、その他の詳細は何もわからないようになっています。
ウェラースタイ氏はFOIAリクエストを用いて政府に情報公開を求めていますが、入手できた資料はどこも重要な用語が読めないように編集されていたそうです。そのため、ウェラースタイ氏は「強調したいのは、エネルギー省がこの種の画像をぞんざいに扱っているというわけではなく、むしろその逆の傾向にあるということです」と記しています。
エネルギー省が熱核兵器の設計や形状について神経質なほど隠したがる理由は、核兵器の拡散を懸念しているためです。また、機密を漏らしたかのように見えるだけでも、望ましくないウワサや政治的スキャンダルを引き起こす可能性があるとウェラースタイ氏は指摘しました。
なぜ機密情報であるはずの熱核弾頭の断面図がSIERRAフレームワークのロゴに使用されていたのかについて、ウェラースタイ氏は「可能性のひとつとして挙げられるのは、事故・漏えい・うっかりミスです」と言及。しかし、複数の機関がSIERRAフレームワークのロゴをさまざまなプレゼンテーション資料で利用しているということは、機密情報の取り扱い担当者が何度もうっかり見落としを繰り返したということになります。数年にわたってこのようなミスが生じることは「ないとは言い切れないものの、その可能性は極めて低いと思います」とウェラースタイ氏は言及しました。
もうひとつの可能性として考えられるのが、「意図的な機密情報の公開」が行われているというものです。しかし、このようなことが起きないように機密情報の取り扱いに関する取り組みが行われているわけで、これもありそうにないとウェラースタイ氏は否定しました。そのため、ウェラースタイ氏は「熱核弾頭の断面図ではない」あるいは「意図的な偽情報」である可能性を挙げています。
ただし、最新のSIERRAフレームワークのロゴでは、ロゴが一部変更されており、熱核弾頭の断面図らしきものがかなり見えにくくなっているそうです。しかし、断面図らしきものはロゴに含まれたままです。
さらにその後、ウェラースタイ氏は2014年に公開されたサンディア国立研究所の計算科学に関する記事上で、「熱核弾頭の断面図」と思しきものとよく似た画像を発見します。この画像には「核兵器本体の複数の部品が、意図的に簡略化されたメッシュで強調されています。各部品は多数のサブコンポーネントで構成され、ネジ、ナット、ボルト、瓶のふたのような金具などで固定されています」と記されており、「意図的に簡略化」されたものであるとはいえ、やはり核兵器の構造を示すものであったことが明らかになります。
ウェラースタイ氏は公開されていた断面図が意図的に簡略化されたものであったとしても、「熱核兵器のグラフィカルな構造を実際に暗示するような画像をエネルギー省が公開することは驚きであり、通常許可する情報の範囲を明らかに超えています」と指摘しました。