毎日「あーんしようね」「もぐもぐしてね」「ゴックンしようね」と声をかけ、自分でもやって見せる。でも、親が多忙さゆえにそれをしなければ、子どもは固形物を食べる方法が身につかない。それで、誤嚥事故が起こるというのです。

本書のタイトルは『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』と「スマホ」という言葉がついていますが、これは子どもたちを取り巻く環境の変化の象徴としてタイトルに組み込んだだけで、多面的に子どもたちの変化を描いていると考えていただければと思います。

◆「スプラトゥーン」のほうが面白い?

ーーご著書の中の、スマホやゲームの刺激に慣れて、リアルな遊びに興味を示さない子が増えているという指摘に驚かされました。公園へ連れて行っても、一定数の子たちは立ちすくんでしまうとか。

石井:私はゲームやスマホが悪いとは思いません。適度に使用するなら良いものです。半面、ゲームにせよ、ショート動画にせよ、ものすごく刺激の強いものです。それを一日に何時間もやることによって嗜癖となって抜け出せなくなると、これはこれで問題が生じます。

某保育園で、こんなエピソードがありました。ある日、先生が、子どもたちに紙で制作した大きな恐竜に、色を塗らせようとした。すると、子どもたちが「やりたくない」「おもしろくない」と言いだした。先生がなぜかと聞くと、子どもはこう答えたそうです。

「家でスプラトゥーンをやっているから、こんなつまらないことやりたくない」

「スプラトゥーン」とは、ゲームのソフトで、町中を塗料で塗りたくる対戦型の遊びです。これを家でやっているので、小さな筆で絵具を塗ることに興味がわかないというのです。冗談みたいな話ですが、このエピソードを教えてくれた保育園の先生はこう言っていました。

「刺激性の高いエンターテイメントにのめり込んでいる子は、現実のいろんなことに興味を持ちません。現実のものは刺激が弱すぎると言うのです。一旦こうなると、リアルで行われること全般に関心を示さなくなります」

現在、2歳児のインターネット利用率は58.8%になっています。日本語を覚える前に、それらを使っている。これが嗜癖にまでなってしまっている子には、こういう事態が起きているということなのです。

◆足を交互に出すスキップができないことも…

ーーこの本では、小中高の子どもたちの現状にも触れています。幼少期の問題が、小中高に引き継がされていると考えられるのでしょうか。

石井:一利あると思います。取材した先生方によれば、小学校では次のようなことが起きているそうです。

・徒競走でカーブを回れずに転倒する子が増えている。
・肩や脇が固まって、両手を上げて万歳ができない。
・バランスや筋力が弱く、雑巾掛けの姿勢がとれない。
・足を交互に出すスキップができない。

こうした事象は、幼少期の問題が、小中高に繰り越されて起きていることと言えるでしょう。本書でも紹介しましたが、これらは小児形成外科の分野で、「子どもロコモ」と呼ばれて大きな問題とされていますので、気になる方は参考にしていただければと思います。

◆一度も顔を見たことがない「ネットの恋人」

ーースマホの普及により、子どもたちの人間関係も少しずつ変わってきているという指摘がありました。

石井:代表例が、「ネットの恋人」です。今の子たちは、SNSで良いと思う相手を探して、フォローしたり、ダイレクトメールを送ったりします。中には、SNSで一度も会わないまま告白して付き合う子もいます。一般的な子は、ここからリアルのデートをするようになりますが、一部の子はデートもすべてオンライン上でする。デート代もかからない、しくじることもない、気疲れしたら切ればいいということから、ネットのみの付き合いの方が便宜性が高いと感じるのだとか。一緒に動画を見て、SNSで感想を言い合うなどというデートです。そのため、半年間付き合っていても一度も顔を見たことがないなんてことが起きています。