吉高志音、初挑戦のラッパー役に挑む思いとは? ミュージカル『RUN TO YOU』インタビュー
韓国発の人気舞台、ミュージカル『RUN TO YOU』は、HIPHOPグループとして活動する若者たちの夢と栄光と挫折を描いた青春ストーリー。全編HIPHOPで繋ぐ、ストリート感溢れるステージングも魅力の1作である。その“日本バージョン”でジョンフン役を演じるのは、ミュージカル界の次世代スターとしても注目を集めつつある吉高志音。初挑戦のラッパー役に挑む気持ちを語ってくれた。
──現在お稽古も順調に進んでいますが、この『RUN TO YOU』という物語の魅力について、どのような印象を持っていますか?
若者たちの生き様がとてもエネルギッシュな作品なので、わくわくしたり、楽しんだり、そうした演劇の力を借りて「明日も頑張る」という気持ちをもらえる作品になるんじゃないかなと思いました。僕ら「ストリートライフ」が下積みから成功し、そしてまた障害が訪れ……というサクセスストーリーにエンタメ界の裏側もちょっと覗けたりする面白さもあり、わかりやすい青春物語になってると思います。
──彼らが直面する人生の中のジグザグ模様は、いわば誰にでもあるもの。共感できる部分も多そうです。
はい。僕もまだ25年と短い人生ですけど、やっぱり「うまくいかないよね、人生って」と感じますし(笑)、そういうリアルもありますね。
──吉高さんが演じるジョンフンはHIPHOPグループ「ストリートライフ」のメンバーです。どんな青年ですか?
コッシー(越岡裕貴)さんが演じるジェミン率いる3人組の中の1人なんですけど、比較的正統派、でしょうか。最初は末っ子ポジションでおちゃらけてる子かなってイメージがあったんですけど、稽古場で動いていく中でもそういう立ち回りになるのかなと感じてます。それでいて、意外と周りのこともわかってたりしてね。末っ子だからこそお兄ちゃんたちよりも冷静に見れたりすることもあると思うし、案外気を遣えるやつなんです。恋人のへウォンに対しても思いがまっすぐ。基本はムードメーカーなのかな? 韓国版では結構いじられキャラにもなってたりするので、そこも面白いですよ。
──コメディ要素も本作の魅力のひとつですね。
そこをどう僕ら日本キャストでやっていくのかっていうのは、ひとつ、課題になってるかなって思います。韓国の役者さんの良い部分を活かして作られたお芝居をただ真似するのではなく、やっぱり僕は僕で活かせるところがあると思うので。メンバーの空気もいいですよ。先日も一緒にご飯食べに行って、各々の思ってることだったりこの作品に対する気持ちだったりっていうのも知ることができました。ラップでもアカペラで始まるパートがあったり、結構お互いの呼吸が合ってないとできないシーンも多いんですけど、そうやって中を深めていきながら稽古を重ねることによって歌の呼吸も合っていく。その過程もすごく楽しくて! 3人の空気感っていうのはやっぱりすごい大事だし、僕は「いいなぁ」って感じてます。すでに心地いいです。自分にもし男兄弟がいたらこんな感じなのかって思うと、なんかちょっと嬉しい。
──ちなみに吉高さん自身のクラブカルチャーやHIPHOPミュージックへの親しみ度と言うと……
今回、ミュージカルではありますけど歌パートはほとんどラップがメイン。でも自分はこれまであまりHIPHOPは聴いてこなかったので、今回の出演に合わせて日常からいろんなHIPHOPを聴くようになりました。ラップに関しては歌唱指導の先生も「リズムの取り方、グルーヴ感っていうのを大事にしてね」とおっしゃっていて、今まさにそれを自分で感じ、身体になじませるように……まだまだ精一杯って感じですけどね。セヒ役の遥海ちゃんなんかは昔からそういうグルーヴを感じてきている人だから、やっぱりセンスが素晴らしいんですよ。僕ももっともっとラップに親しんで、実際にHIPHOPやってる人が見てても自然に楽しんでもらえるようにって。そこはしっかり意識していきたいですね。もう今はとりあえず韻踏んでますし、なにかと「Yo」とか言ったり(笑)、そういうことをなるべく日常から取り入れていってます。ストリートライフの3人でいるときも、「Yo」から始まって、即興で僕がラップ僕がしたりみたいな……あ、でも本番ではフリースタイルは絶対やらないので期待しないでほしいんですけど(笑)。
──では、本作におけるご自身の課題となるのは?
やっぱりラップですかね。ラップで紡がれていくミュージカルって、自分が知っているミュージカルとは違うけど同じというか。歌によるメロディーの言葉の使い方とラップの言葉の使い方って、確かに表現は違うけど、でも結局「伝える」というのは同じですよね。そこで実際に感じている違いとしては、ミュージカルの歌は完全に感情を吐露するじゃないですか。ラップも吐露はするんですけど、なんか比喩だったり、言葉数の多さだったり……
──基本的な“作法”が違う。
多分そこがまだ自分は頭で考えながらノっている状態なので、それが自然と内側から滲み出るような体感として(手を動かす)ノリが生まれるまで馴染んでいけたらいいなって。ほら、今も勝手に手がラッパーあの形になってましたし、セリフ言うときもたまにこういう感じで無意識にアクションが出てるんです。これこれ(笑)。ラッパーとしていかにラップで伝えられる100%の表現を活かせるか、お客さまにちゃんと歌詞を、言葉を、思いを伝えられるか。しっかりできるとできないじゃ、伝わるものもたぶん全然違うのかなと思います。自分のラップをどれだけみなさんが聞き取れて理解してもらえるかっていうのがまだ不安なところもあるんですけど、それがうまくいったら、やっぱり結構刺さるものがあるんじゃないかな。自分としては挑戦的ではあるんですけど、そこはすごく楽しみです。
──盛り上がってきたら客席とのコール&レスポンスもありで。
全っ然、声出してもらっていいと思います! そうですね、ライブと演劇とが混ざったような感覚で観てもらうのが一番いいかもしれない。
──本作は8月~9月にかけての公演になりますが、今年はミュージカル『伝説のリトルバスケットボール団』、Experimental Theater『結合男子』、ミュージカル『GIRLFRIEND』、ミュージカル『暁のヨナ』と、すでに4本の舞台に出演。精力的に活動されていますね。
結構ギュッと詰まってますよね(笑)。確かに本番中にもその先の稽古が少し重なっていたり、というここまでの過密スケジュールは初めてだったかも。でも不思議とそれを楽しんでる自分がいて……ファンタジーから現代、現在からまたファンタジーみたいな流れとかもあったりしたので、いつも全然違う世界観で生きているのが楽しかったですし、やっぱりそれが役者の醍醐味だとも思います。俳優としては、それぞれの作品で世界観も演じる役の言葉遣いもセリフの吐き出し方も違うので、そういう呼吸の違いの全てを楽しんでやっていました。もしかしたら観てくださったファンの方のほうが、切り替えが忙しかったかもしれないですね(笑)。
──次々と本番が続く中、物理的な時間の使い方や自分の心のコントロールの仕方などで、これまでと変化したところ、新しく獲得できたことなどはありましたか?
今年は匂い、香水とかで僕切り替えたりしていました。役のイメージもそうですし、単純に匂いって記憶をすごい刺激してくれるから、あえて「この作品はこの匂い」みたいなことをやったりしてて。それが気持ちや意識をちゃんと切り替えられるツールになってくれました。
──今回は何系の香りを?
ちょっとダーティーな感じ。いわゆるストリート系のイメージで、自宅にあったけど使っていなかったものをちょっと掘り出して使ってます。あとはもう本当に「脳みそ」との戦い(笑)。最近は常に「脳みそ1個にしてないぞ」って感じです。「今これ考えてるけど、こっちも考えなきゃ」みたいなことが常にいっぱいあって、使い分けるというよりは、100%集中している状態の脳みそがいくつもある感じ。ものすごく頭、使ってます。だから今年は、どの作品も、すごい「作り込んでいく」っていう感じでしたね。自分でグーっとイメージして、それが稽古場で実際に形になるっていうことが多かったです。そのイメージするものも、今までは結構漠然としてたり、逆に「何か変わったものを」ってものすごく試行錯誤していたんですけど、今は「そんなに違う道を探しに行かなくてもいいんじゃない?」という考えられるようになれて、正解はないけどそんなに外れていない中にはいるのかなってところにいけるようになりました。また、いろんな経験を得て最近はちょっとそこに遊び心が入れられるようにもなってきた。やはり「舞台上でいかに自由に生きられるか」がすごい大事だなと思うので、作る過程でもそこはすごく意識していますね。
──多様なジャンルの作品を経験することで確実に解像度が上がっている。「この先やりたいこと」への欲求も、より高まってきているのでしょうね。
そうなんです! これはまだ本当にざっくりしたアイデアなんですけど、先日自分のSNSに「最近自分の声が好きになった」っていう投稿をしたら、すごくたくさんの方が反応してくださって。「私もその声をきっかけに吉高さんを好きになりました」みたいなことをおっしゃってくれたり、ね。で、僕は今すごくお芝居が好きになってきていて、なんとなく「いつか一人芝居とかで自分の声を題材にした作品を作ってみたいな」と思いついたんです。自分の今までの短い人生をちょっと反映させてみたりしつつ、自分だけど自分じゃない世界を自分のお芝居で表現できたらって。そうしたら自分のことももっと好きになれるだろうし、表現の幅もそうですけど、いろんなことが広がるんじゃないかなって思って。
──私も吉高さんの声はいろんな表情を持ったとても魅力的な声だと感じていたので、「最近好きになった」というのはちょっと意外でした。
もっと若い頃は本当に自分の声がコンプレックスだったんです。というのも、自分の中で勝手に正解を作っていて、「男として“良い声”というのは太くて低い声なんだ」みたいなことを考えてたんです。でも自分の声はどちらかというと高いほうだったのでそれをすごく意識してしまって、その響きをなるべく殺そう、殺そうみたいなことをしてたんです。「正解の声」なんてないのに。でも舞台をやるようになって、「そうじゃない。この自分の声の特徴を活かしてもいいんだ」っていうのを知ることができたし、むしろそれを活かせる職業でもあるので、今はすごく自分が自分として生きている存在証明ができてるなって、少しずつですけど思えるようになりました。でもそれはいつも応援してくださる方たちが認めてくださって、応援してくださるからこそ。みなさんのその思いが自分の自信になり、力になるので、それは本当に本当に感謝しています。だからやりたいんです、一人芝居。実現できたらコンプレックスだったこの思いももっともっと浄化されて、より良い自分になれるんじゃないかな。
──素敵ですね。この『RUN TO YOU』でも吉高さんのラップボイスによる新たな声の表現、新たな歌のグルーヴに出会えるのが楽しみです。
ありがとうございます。今回日本初上演となるミュージカルの成功に向け、今はみんなで着実に初日というゴールに向かって走っているところです。本当にチャレンジングな作品になっていると思います。音楽の力、HIPHOPの持つ力と演劇の力が一体となってお客さまの元まで届くように、「明日も頑張ろう」って思える力を届けられるように、頑張っています。ぜひ劇場に足をお運びいただき、このパワフルな空気とサウンドを感じてもらえたらとっても嬉しいです。よろしくお願いします!
取材・文=横澤由香 撮影=山崎ユミ