流行語(写真はイメージです)

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JC・JK流行語大賞2024上半期

 SNSをながめていると強い違和感を覚える言葉が数多く出てくる。先月発表された「JC・JK流行語大賞2024上半期」のコトバ部門で1位になった「◯◯界隈」もその1つだ。受賞理由は「従来は特定のコミュニティを指す言葉として使用されていた言葉『◯◯界隈』が動画のジャンル名としてTikTokで認知されるようになり、堂々の1位を獲得いたしました」と説明されているが、中高年世代からすればすでにこの時点で意味不明、チンプンカンプンである。

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 若者カルチャーを取材しているライターがこう話す。

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SNS上でとてもよく現れる表現ですね。共通の趣向を持つ人たちの集団という意味で使われるケースが多いようです。例えば、XやTikTok、フェイスブックに自身の顔のドアップを掲載する人たちを『ドアップ界隈』、自撮りの写真をアップする人たちを『自撮り界隈』、長距離を歩く人たちを『伊能忠敬界隈』などと呼びます」

「JC・JK流行語大賞」は、トレンドのリサーチが得意な全国の中学1年生〜高校3年生の女子中高生からなる精鋭マーケティング集団「JCJK調査隊」が選考しているという。その結果、コトバ部門1位になったのが「〇〇界隈」というわけだ。

 主催者側は「例としては、自然豊かな場所に行った時に付ける『自然界隈』やコーディネートを回りながら紹介する『回転界隈』などが代表として挙げられます。◯◯界隈が発信する情報を見て、真似して行ってみたという女子中高生の意見も多く聞かれました」と説明しているが、中高年世代はこの文章の意味すらのみ込めないのではないだろうか。

 そもそも、「界隈」という言葉について中高年世代は、「今晩は銀座界隈で会食する予定です」「クリスマスの夜、渋谷界隈は大混雑するよ」などの使い方がしっくりくるだろう。「デジタル大辞泉」(小学館)によると、「界隈(かいわい)」は「そのあたり一帯。付近。近辺。『銀座-』」とある。つまり、地理的な意味を持つ言葉なのだ。それがネットで使われると、次第に特定の人々の集団という意味合いを持つようになったようだ。これを知れば「自然界隈」や「回転界隈」の意味が何となく分かるような気がする。

 Z世代が好んで使う「〇〇界隈」のネットスラングとして「風呂キャンセル界隈」「ジャニオタ界隈」などがあるが、それぞれ「お風呂に入るのが面倒なので入浴をキャンセルする、つまり入浴しない人」「ジャニーズの熱心なファンたち」という意味となる。

「界隈」はジャンルの表し方の1つ

 一昨年あたりから流行している「和室界隈」は少し難しい。「実用日本語表現辞典」によると、「垢抜けない・野暮ったい・オタクっぽい・ダサい・地味な雰囲気を漂わせている人」を指す意味で、TikTokで主に用いられている用語。そのような人の多くが、「オシャレな洋室ではなく、実家の暗めの和室のような部屋で撮影していることが多い」ということに基づく言い方だという。

 若者の世界だけの流行といえばそれまでだが、「風呂キャンセル界隈」という用語の大流行によって実際に風呂に入らない若者が増えると、特に夏場は衛生面や健康面への悪影響も懸念されるのだが……。

『若者言葉の研究─SNS時代の言語変化』(九州大学出版会、2022年)などの著書がある宇都宮大学の堀尾佳以講師(現代日本語学)がこう指摘する。

「若者が好んで使う『〇〇界隈』という言葉は社会言語学の授業でも触れました。この『界隈』はジャンルの表し方の1つで、〜〜系、例えば『原宿系』などと同じくある一定期間は使用されるでしょうが、次の世代まで継続されるかどうかは不明です。かつて女子中高生の間で大流行した『激おこプンプン丸』は今やほとんど使われていないのと同様、大多数の若者の間で使われるようになると急速に飽きられてしまう現象がよく起こります。それよりはもう少し息の長いものにはなるでしょう。今後の使用傾向に注目していきたい言葉です」

 懸念されるのは「界隈」の意味について「人々の集団」という意味しか持っていない、と考える若者がいることだ。超難関国立大学の男子学生は「自分もSNSで界隈という言葉をよく使います」と明かした うえで、「ぼくは人々の集団という意味で使っています。赤坂界隈や青山界隈というように『界隈』に地理的な意味があるとはまったく知りませんでした。もし共通テストの国語の問題で『界隈』の意味を問われたら、ほとんどの受験生は誤答してしまうのではないでしょうか」と指摘した。

 若者言葉は日本語に新しい活力を呼び込んでいるが、ここまで使い方が変容するとは――。

デイリー新潮編集部