キッチン用品はアイテム数が多く、店舗入り口の展示のほか、「洗う」や「整える」といった工程別に分けて陳列している(記者撮影)

アクセサリーから電化製品、キッチン用品、食品まで――。3COINS +plus(スリーコインズプラス)西銀座デパート店には多くの商品が所狭しと並び、平日の昼でも女性客で賑わっていた。

アパレル企業のパルグループホールディングスが運営するスリーコインズは300〜3000円程度と、比較的低価格の生活雑貨を中心に展開し、30〜40代女性の支持を集めている。

プラスは従来のスリーコインズに代わる業態で、面積は100坪以上とこれまでの60〜70坪よりも広い。品数は4000アイテム(通常は2500〜3500アイテム)で、客単価は1000円を超える。

昨年に全都道府県への出店を実現したが、デベロッパーからの引き合いはまだまだ強く、今期も大型店を中心に30店舗以上の出店を計画している。

店頭にはつねに新商品が並ぶ

全国へ人気が広がるスリーコインズ。その特徴は商品の投入スピードだ。毎週月曜日には新しい商品が入荷し、2週に1度は季節商材や推し活グッズといった企画ものの新商品も打ち出される。

パルグループHDは4週間MD(商品の開発・販売計画)という手法を駆使する。過剰に在庫を持たず、1カ月の短いサイクルで衣料品を売り切る方法だ。スリーコインズもこの手法を採用し、1商品当たりの数量を抑え、商品投入のサイクルを早めている。1カ月当たりのアイテム投入数は700〜800点にのぼる。


「推し活」がテーマの売り場なども企画している(記者撮影)

店舗の大型化によって、商品を展示するスペースもできた。テーブルと椅子、食器をセットにして展示するなど、商品の利用シーンをイメージしてもらうような展示を心がけているという。

スリーコインズを統括する常務執行役員で第四事業部長の澤井克之氏は「いつでも新しい商品があるという期待感を持ってもらえるようにする。スリーコインズは雑貨屋がやる雑貨屋ではなく、アパレル企業が手がける雑貨屋。使われるシーンや棚のレイアウトなど、見せ方にもこだわっている」と語る。

着実に規模拡大を進めてきたスリーコインズだが、順風満帆だったわけではない。2018年頃には売上高が伸び悩み、出店も進まない曲がり角を迎えていた。

そこで2019年頃にかけ、商品開発から店舗での見せ方まで大幅に見直し、リブランディングを図ることになった。「かわいいといった感性を軸に訴えるより、商品の機能や実用性を打ち出して勝負しようと決めた」(澤井部長)。

以前は流行に沿った柄や色の雑貨を中心に展開するなど、20代前半の女性を想定した商品作りだった。しかし、自社アプリを通して顧客の属性データを集めると、主に30〜40代女性に支持されていることがわかった。購入してよかった商品をSNSで投稿してくれる、拡散力の強い層だという。


2020年には食品のPB(自主企画商品)を投入し、新たに男性客も来店するようになった。食品は大型店ならではの商品群で「ごはんもん」「おかしもん」というブランドを展開する(記者撮影)

そこで、家事や育児に活用できるキッチン用品やキッズ関連の商品群を重点的に強化、商品はベージュやクリーム色のデザインに統一した。

シンプルな商品に合わせて、店舗も模様替えをしている。従来のライムグリーン、白、ピンクのポップなイメージから、壁の色は抹茶、床はコンクリートの色に近いグレーに変えた。什器も木製のものに切り替えるなど、落ち着いたトーンにしている。

中核事業に成長、円安を克服できる?

リブランディング以降は勢いを取り戻し、スリーコインズはプラスを中心に出店を進めてきた。

店舗数は2019年度の199店から2023年度に306店まで拡大。スリーコインズが中心の雑貨事業の売上高は2019年度の349億円から、2023年度には725億円まで拡大した。パルグループ全体の売上高の4割弱を占める中核事業になっている。

一方で、目下の課題は利益率の底上げだ。雑貨事業の部門利益は2019年度の23.2億円から、2021年度に41.7億円と伸ばしたが、昨今の円安の影響で、2023年度は19.8億円と半減してしまった。

現在は7〜8割の商品を中国、それ以外は東南アジアや韓国で生産し、輸入している。急激な円安の影響は厳しく仕入れ値が上昇、原材料の高騰も重なり、業績を圧迫している。


アパレル企業の強みを生かせるか

スリーコインズは300円の商品が約6割で、300円以上の高単価商品が約4割を占める。そのため、円安を理由に商品の機能性や品質を落として販売する方針ではない。今年4月には既存商品の値上げと内容量の変更を実施。商品をアップグレードしつつ、価格を見直す構えだ。

調達面の見直しも必要になる。すでに一部の商品を商社経由でなく上海子会社から仕入れるルートに切り替えた。生産国の見直しも検討し、今後は東南アジアの生産拡大やインドでの生産も視野に入れる。こうした取り組みで、雑貨事業の利益率は2023年度の2.7%から、2021年度の6.7%程度に戻していく方針だ。

スリーコインズは1994年に大阪の茶屋町で1号店を開店している。意外にも30周年を迎える長寿の業態なのだ。円安の逆境の中でも、アパレル企業発の独自性やノウハウを生かし、顧客を魅了する商品を作り続けることが、今後のポイントとなりそうだ。

(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)