横山拓也×小山ゆうなインタビュー 舞台『ワタシタチはモノガタリ』は文通の実体験から生まれた物語
2024年9月8日(日)~30日(月)PARCO劇場(福岡・大阪・新潟公演あり)にて、舞台『ワタシタチはモノガタリ』が上演される。
本作は、劇団iaku主宰で第27回鶴屋南北戯曲賞を受賞した横山拓也がPARCO劇場へ初めて書き下ろす新作コメディで、第25回読売演劇大賞優秀演出家賞、小田島雄志翻訳戯曲賞を受賞するなど、演出家・翻訳家としても活躍する小山ゆうなが演出する。
15年にわたる文通の文面にかなりの脚色を加えた物語をSNSに投稿した富子役に江口のりこ、富子の文通相手・徳人役に松尾諭、物語の登場人物であるミコ役と俳優の丁子役に松岡茉優、同じく物語の登場人物であるリヒト役とアーティストのウンピョウ役に千葉雄大、といった出演者を迎えた本作はどのような舞台になるのか。横山と小山に話を聞いた。
作品の立ち上がる過程が魔法がかかっていくような感じだった
ーー横山さんはこれまでも様々な人間の業の深さを描いた作品を発表してこられましたが、今回は「書き手の業」が描かれています。なぜこのテーマにしようと思われたのでしょうか。
横山:自分が普段劇団でやっているような、業の深いところまでガーッと詰めて書いていくというよりは、今回は少しコメディやコミカルという外枠を意識して書いてみたいという、自分としてはチャレンジ的なところもあるんです。それを踏まえて、企画会議をしていく中でラブコメディというところにたどり着いて、ちょっと自分でも面白そうだな、と思ったので今回の作品の方向に踏み切りました。これまでの自分の作品でも、基本的にはそれぞれの登場人物にちょっとずつ自分の一面が何か乗るようにする、というイメージを持ちながら書いているのですが、今回はその中でも江口さんの演じる富子というキャラクターに、自分が抱いてきた書き手としてのコンプレックスだったり、何か高みを目指したい気持ちだったり、そういうところが投影できたら面白いかな、と思ってこのテーマで書き始めた、という感じです。
横山拓也
ーーコメディを意識した作品は、以前から書きたいと思っていたのでしょうか。
横山:そうですね。僕自身は大阪で劇団をやっていた時代にコメディ的な作品もたくさん書いていたのですが、iakuとして活動するようになってからは、あまりそういうところに手を伸ばさなかったので、久しぶりにiakuではやれないようなことをやらせていただける機会だなと思っています。チャレンジでもあるし、温めていたというわけではないですが、自分の中には元々あったものをまた引っ張り出してきたようなイメージです。
ーー横山さんの作品はPARCO劇場で上演されたことがありますが、今回は初めての書き下ろしということで、どのようなお気持ちでしょうか。
横山:いやもう緊張しかないというか(笑)、やっぱりプレッシャーはすごく感じましたし、出演者の顔ぶれを見ても「自分で大丈夫だろうか」という不安やプレッシャーと戦っています。
ーー小山さんは、この台本を読まれた感想はいかがでしたか。
小山:プロットの段階から読ませていただいていて、アイディアがすごく面白かったし、完成した台本も面白いの一言に尽きるのですが、プロットからどういうふうに横山さんが立ち上げていって、そこからどういうふうに深めていくのか、というような過程を見ることができたので、それがなんだか魔法がかかっていくような感じがして「すごいな」と思いました。
ーー演出家でもある横山さんに、演出プランについて意見を聞いたりはしているのでしょうか。
小山:先日上演されていたiakuの『流れんな』という舞台を見てきたのですが、放心状態になって終演後に1時間ぐらい電車に乗れずに下北沢を歩いていたぐらい(笑)、本当に素晴らしかったので、本作の演出が私でいいんだろうか、横山さんが演出した方が面白くなるんじゃないか、と思ってしまいました。これから稽古の中で作っていくものを横山さんに見ていただく中で、何かご意見くださることもあるかもしれませんね。
(左から)横山拓也、小山ゆうな
文通がアウトプットのトレーニングになっていた
ーー横山さんが小山さんに期待されている部分はどんなところでしょうか。
横山:これまで小山さん演出の作品を拝見してきて、すごく丁寧に作られる印象もありますし、作品によって全然手つきが違って、戯曲なり作品なりに寄り添ってくださる演出家さんなんだな、という印象があったので、今回は小山さんとご一緒できるのであればぜひ、という思いがありました。
ーー書き下ろし作品をご自分で演出したいという思いも少しはあったのでしょうか。
横山:それが全くない、という言い方もおかしいんですけど(笑)、自分で演出する作品の場合は、演出のやりようを考えるところもあるのかもしれないですけど、今回実はあまり演出のことを考えずに台本を書かせていただいていて、だから結構無茶なことも……(笑)。
小山:(笑)。
横山:ある方に「横山くん、全部の作品を自分で演出するつもりで書かなきゃ駄目だよ」と言われたこともあるんですけど(笑)。でもそう思いつつも、やっぱりこうやって小山さんとご一緒することを踏まえて「ちょっとこれ、小山さんどうにかしてください」とか、「これってどうやってやられるんですか、僕に逆に教えてください」というようなことを本に託させてもらったところはあります。
小山:でもそういうところがあるから、「いろんなやりようがあるな」と思いながら私自身楽しんでいるところです。むしろ「ああ、着替えのこととかちゃんと考えて書いてくださってるんだな」とかって思うし(笑)。
横山:ははは(笑)。
小山:さすが演出もされる方だな、と。演出されない方だと本当に「これどこで着替えるんですか?」みたいなことが発生するので(笑)。
ーーそれはちゃんと計算して書いているのでしょうか。
横山:まあ、そうは言っても「ここはちょっとうまく着替えられないぞ」というところも残っていたりもして、そういう意味では徹底はされてないというか、そこも含めて一緒に相談しながら、稽古の中で「ここは意図ですか、ミスですか」みたいなことも共有しながらやっていきたいなと思っています。
(左から)横山拓也、小山ゆうな
ーー小山さんは、横に作者がいる現場というのはいかがですか。
小山:直接聞けることがありがたいですよね。いつも、100年前の作家さんに「聞きたい!」と思っているので(笑)。「これは絶対、ちょっと思いつきで書いたでしょう?」みたいなことあるし。
横山:あります、あります、絶対にあると思う(笑)。
小山:あと、どういう背景で書かれたものなのかを調べるのも本当に大変なので、直接聞けるのはキャストにとってもすごいありがたいことだと思います。
ーー今回、文通や携帯小説を要素として選ばれた理由は何かあるのでしょうか。
横山:文通に関してはめちゃめちゃ語りたいことがありまして、これは僕自身の経験なんです。僕は小2から中2まで千葉県にいて、中3になるタイミングで大阪に引っ越したんですね。そのときに千葉の友達4人と文通をスタートさせたんですよ。その中の1人がちょっと好きな女の子だったんですが(笑)。手紙という何か特殊な、たった1人のためにああでもないこうでもない、とめぐらせながら書くというのが、自分にとって10代のときのアウトプットのトレーニングになっていたんじゃないかな、と今思っていて、作家としてそういうことに気づいた瞬間が描けたら面白いな、と思ったというのはあります。
ーーその文通は続いたんですか。
横山:4人の中で、その女の子とだけ続いたんです。文通自体は大学ぐらいまで続いて、その後お互い家族が出来てからも年賀状のやり取りは続いています。僕は別にその人との結婚を望んでいたわけでもないし、「30歳になって~」という約束をしていたわけでもないし(笑)、自分の実体験と他の人の体験とかを混ぜた複合的なものになっているのですが、その人に「こんな作品あるよ」とお伝えしたい気持ちと、これは言えないな、という気持ちですごく葛藤しています(笑)。
芝居はお客様と一緒に作るもの ライブで感じて欲しい
ーーメインのキャスト4名の印象を教えてください。まずは江口さんと松尾さんについて。
小山:江口さんは本読みの段階からすごく説得力があって、立ち稽古の初日からもう既に富子として居る、という感じで圧倒的にすごいな、と思いました。きっと、言葉一つひとつにどういう意味があって、富子としてどういう気持ちで言ってるのか、どういう仕草をするのか、ということも全部きちっと分析して考え尽くされているのだと思います。松尾さんは1回ご一緒したことがあるのですが、そのときは猫の役だったこともあって、今回は人間の役ですし(笑)、全然印象が違って新鮮です。
小山ゆうな
横山:本読みを拝見して、江口さんはすごく素直な方だと思いました。素直に言葉を吐くし、自分が言いにくいセリフがあったら、ちゃんとそこに引っかかってるような感じもしましたし、そこが信頼できるなと思いました。松尾さんは、江口さんが表現する「一生懸命生きているだけなのにずれていく感じ」に対して、ちょっと愚鈍さも持ちながら的確にツッコんでいくところがハマっていて面白いなという印象です。
ーー松岡さんと千葉さんの印象はいかがでしょうか。
小山:お2人ともわざとらしくなく本当にかわいくて、すごく絶妙なところに居てくれているのが素敵だなと思っています。こちらが「どうかな?」と投げかけたものを、すごい速度でバーッと考えてくれて、次のときには違うものを出してくださるという、知性も感じられる素敵なお2人です。
横山:松岡さんは技術もあるし、ちゃんと自分のことがわかっているというか、自分が発する言葉とか表情がどうなってるかをちゃんとコントロールできているところが強みだと思うので、ミコのようなちょっとつかみどころのない役でも、ご自身なりにいろんなアイディアを持ってやってくださるんじゃないかなという期待と、もう一つの丁子という役のざっくばらんな物言いの感じが、松岡さんらしさに繋がっていると思うので楽しみです。千葉さんは、あまりテクニカルさを見せないのに、実はものすごくたくさんの技術を持っている印象があります。心の中に渦巻く感情にうまく蓋をして表面上は隠しているウンピョウみたいな役を千葉さんがやると、裏までちゃんと見えて厚みがあって面白いんじゃないかな、と思うので、今回はウンピョウとリヒトという全く違うタイプの二つの役を演じてもらえるのが楽しみです。
ーー最後に公演に向けてメッセージをお願いします。
小山:横山さんの書き下ろしでPARCO劇場で、ということがまず演劇界の画期的な事件という感じがしていますし、しかも普段横山さんが書かれている物よりも長くて、若干大作になっている気がします。やっぱりお芝居はお客様と一緒に作るものなので、客席でライブで感じていただければ、と思います。
横山:この作品の中で描かれてる小説の部分とか、淡い恋心とか、自分がかなえたい夢の話とか、様々な要素が盛りだくさんで、お客さんそれぞれに何か感じるところがあるんじゃないかな、と思っています。言葉の応酬が一つ面白みだと思っているので、演出の小山さんはじめ俳優さんたちがどうやってこの言葉の波の中で稽古を重ねて、どんどん自分の言葉にしていきながらお客さんに届けていくエンターテイメントにしていくのか、というのを僕自身も楽しみにしながら稽古を頑張りたいと思っています。
(左から)横山拓也、小山ゆうな
取材・文=久田絢子 撮影=山崎ユミ