2024年夏のキーワードは「大雨」「猛暑」「長い夏」。日本気象協会がそう分析している分、8月下旬以降はフィリピン付近の対流活動が活発になって太平洋高気圧が強まり、2023年に匹敵する猛暑になる上、秋にかけて台風の発生が増えるという予報。台風への備えも大切だし、何よりも養生してこの暑さをしっかり乗り切らねば。同協会の気象予報士さんに食と気温の関係や夏の対処法などについていろいろ聞いてみた。

2024年夏のキーワードは「大雨」「猛暑」「長い夏」。日本気象協会による分析だ。8月下旬以降はフィリピン付近の対流活動が活発になって太平洋高気圧が強まり、2023年に匹敵する猛暑になる上、秋にかけて台風の発生が増えるという予報。台風への備えも大切だし、何よりも養生してこの暑さをしっかり乗り切らねば。同協会の気象予報士さんに食と気温の関係や夏の対処法などについて聞いた。

冷やし中華おでん、始めました」それぞれの時期の最高気温は?

2024年の夏、みなさんはすでに冷やし中華は召し上がられただろうか。「おいしい博覧会 2024夏」(PR TIMES主催)という東京都内で開かれたイベントで伺った、日本気象協会の講演会でのクイズが忘れられない。それは、

冷やし中華おでんが売れ出す時の最高気温は、それぞれ何度?」

というもの。

なんと、冷やし中華は20度、そしておでんが29度ということで、実はおでんが売れ出す最高気温のほうが9度も高いのだと聞いて驚いた。

気温と食は密接に関係している

夏の暑い時期を乗り越え、最高気温が30度を下回ってくると涼しいと感じて、おでんが売れ始めるんだそう。 

つまり同じ気温でも体験する時期によって感じ方というのがまるで違って、その時に食べたい食材というのも変わってくるということなのだとか。 

売れる食材と体感気温の関係

というところから転じて、売れる食材は体感気温で変わってくるというお話。

「日本気象協会ではどんな時にどういった食べ物が売れるかという解析をしていまして、気温や天候と私たちの体の感じ方、健康と食は密接に関係があるいうことをすごく感じています」

同協会ではPOS(販売時点情報管理)の売り上げデータと気象データを組み合わせたビッグデータを使い、食材の売り上げ予測からのメニュー提案などをコンテンツ化している。

日本気象協会のアプリやWEBサイトは興味深い内容

最高気温が28度を超えてくるのは6月頃だが、体がまだ暑さに慣れないためにバテてくるケースがある。バテて食欲が落ちてくるとモズクやメカブ、豆腐類といったようなさっぱりしたもの、カロリーの低いものの売り上げが伸びてくるのだそう。朝食すら食べる気がなくなるらしく、納豆やヨーグルト、菓子パン、調理パンといった食材の売り上げが下がってしまうのだという。

28度を超えると、かき氷の売り上げが伸びてくる。7月に入り32度を超えて体感的に暑くなってくると、かき氷の売り上げが、乳脂肪分が高いクリーム系のアイスクリームを上回るという。これも、暑くなると、カロリーの低いもののほうが売れるという現象の証左だろう。 

暑すぎるとビールが売れなくなる!?

以前聞いて釈然としていなかったのが、気温が35度を超えるとビールの売り上げが落ちてしまうということ。汗をかき、暑くてカラカラに乾いた喉に流し込む冷たいビールは最高のご馳走だと信じて疑わない筆者。

気象予報士さんにその疑問をストレートにぶつけ返ってきた答えが「ビールのカロリーって、やはり高いんですよね」

これは代謝や自律神経の話とつながってくる。暑い時期はたくさん汗をかくから、代謝は上がりそうなイメージだが、実は冬場のほうが代謝は上がると聞いたことがある。

「寒い時期は、熱を作り出すのに心臓を一生懸命動かすため、カロリーがたくさん必要なんです。でも夏は心臓の動きをなるべくゆっくりにして、熱を作り出さないように体が自然と消費カロリーを抑えているんです。なので、夏の体はカロリーがとにかく嫌いなんですね」

実体験として納得できるような。皆さんはいかがだろうか。

秋口になって少し涼しくなってくると食欲の秋を迎える。寒くなるにつれ、熱を作り出す代謝を上げるためにカロリーがたくさん必要になってくるので、冬にかけてこってりとしたものがどんどん欲しくなるんだとか。

と言いながら私は一年中、ビールもこってりしたアイスクリームも好きでいただいているのだが。

汗ばむ季節になってくると体調をより気遣う人が増えるのだそう

酷暑だと売り上げはどう変わるのか

2023年、東京の7〜9月は35度以上の猛暑日が22日、30度以上の真夏日が64日間もあり、ザ・真夏という気温の日が観測史上初めて3ヵ月間も続き、例を見ない夏になった。

現在は、エルニーニョ現象からラニーニャ現象に移行した

その時に売れたのが、菓子パンや調理パン、ヨーグルトなど、冷夏のときに売れる食材なのだそう。

前項で28度を超えたら売り上げが下がると書いたものたちだが、どういうことだろう。

「昨年はあまりにも暑すぎて、屋内で過ごす人が増えたために、こういった食材の需要が伸びたのではないかと分析しています。同様に昨年は制汗剤や日焼け止めクリームなど、外で活動する機会が減ったことで夏商材の売り上げも落ちてしまう傾向が露骨に見られました」

確かに、強烈な日差しや暑さはもちろん、熱中症も怖いし、極力外に出たくないものね。

でも家にずっと篭(こも)っているわけにもいかないし、食欲が減退してしまった時や夏バテ防止のためにはどんな工夫があるのだろうか。

「特に涼しい室内で過ごして、蒸し暑い外に出るという、大きな温度差を繰り返していると自律神経が働き過ぎてしまい、体がバテてしまったり、不調をきたしてしまったりしがちです。それ以外にも、睡眠不足や食欲不振などで調子を崩してしまうケースもよく耳にします」

暑い時こそご飯が重要

気象予報士さんによると、朝ご飯を食べ損ねると、脱水の状態でスタートする最悪な状態なのだそう。

「炭水化物はエネルギー源になります。バナナ1本でも良いので必ず摂っていただけたらと思います。特におすすめなのが食べることで水分補給にもつながるご飯。炭水化物に合わせて、ビタミンB1やタンパク質など、基本的にバランスの良い食事を意識してくださいね。食欲がない時は酸みがあると美味しく食べられると思うので、ご飯と梅干しや漬物などを朝食でいただくというのは理にかなっています」

食べ方の工夫なども大切だ

なるほど。個人的に気になっているのが、炭水化物を食べると体温が上がってしまい、体がとても熱くなること。エアコンが効いている部屋でも気づくと汗をかいていることも。それでもご飯は食べたほうがいいのだろうか。

「熱くなるのは、ご飯に含まれる糖質燃料のグリコーゲンの働きです。熱くなり過ぎてしまう時は、一気にたくさん食べるのではなく、ちょこちょこ食べて対応するのがおすすめです」

それから、口当たりがいいから、これなら食べられるからと、冷たいものばかり摂ってしまいがち。そうすると余計に疲れやすいとか、夏バテしそうな気がする。

「冷たいものを連食することは胃腸に良くありません。腸は自律神経のバランスを保つためにとても大事な臓器で、腸内環境を良くすることは大切です。たとえば(3食のうち)1食冷たいものをいただいたら、残り2食は温かいものにするなど、胃腸も労ってあげてください」

そうなのだ。野菜が好きなので特に「夏野菜」に分類される野菜たちをよく食べるが、体が冷えているという感覚が実際にある。熱くなったり冷えたり、我が体も大変だなぁ。

水分補給に適した飲み物は

なおこの時期、熱中症への対策として、水分補給の大切さを説かれることが多い。

日本気象協会では、熱中症ゼロを目指す啓発活動をしている。

夏バテ熱中症は厳密にはまったくの別物ですが、対策には相通じるものがあります」

熱中症対策としていつも気になるのが塩分も摂るように言われること。でも普段の食生活で塩分過多だと思うし、スポーツドリンクは糖分が気になってしまう。

「塩分は普通の生活をしている方は特別に摂取する必要はありません。意識して摂っていただきたいのはあくまで運動していたり外で働いていたりする方などです。また水分を摂る時に気をつけていただきたいのは、ガブ飲みするのではなくこまめに摂取すること。一気にたくさんの水を飲むと胃液が薄まり、胃腸の働きが悪くなります」

「水分補給には麦茶もいいと思いますが、緑茶やコーヒーなどカフェインが入っているものは利尿作用があるので水分補給になりません。お酒ももちろん水分補給になりませんのでご注意ください」

お話を聞かせてくれた日本気象協会のお二人

体を冷やし過ぎても暑くなり過ぎてもダメで、何事もバランスが大切なんだな。私は白湯のような温かいものを入れてからということを心がけたい。

暑さを乗り切るには

なお、今回新しく知った言葉がある。「暑熱順化」(しょねつじゅんか)だ。

これは、暑くなり始めた6月くらいから、適切な運動などを行い2週間程度かけて体を暑さに徐々に慣らしていくこと。同協会で推奨していた。

暑熱順化ができていないと、うまく放熱できず体温が上がりやすいのだそう。対応できれていれば汗をかいていても、ナトリウムを失いづらいのだとか。毎年、暑くなり始めると夏の終わりまで生き延びることかできる不安になるが、過ぎたらなんとかなっているのはこういうことだったのか。

こうした様々な叡智を味方につけて暑さを乗り切れたらいなぁ。

なお、日本気象協会では、「Weather X」というサイトを活用して我々の生活に対してヒントや新たな情報をデータから導いて紹介している。気象データを使ったビジネスや生活のヒントが転がっていておもしろい。

さぁ、酷暑を乗り越えたらおいしいものがいっぱいの食欲の秋だ。その時にもおいしいものに舌鼓を打てるよう、元気に楽しく夏を乗り越えていこう。

いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。