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 サクラバイト歴10年以上のキャリアを持つ筆者。赤の他人の結婚式での友人、プロレスの観客、会社の販売部長など、様々なシチュエーションでサクラとして潜入してきた。
結婚式で新郎の同僚役。「君の会社は…」と親族に話しかけられ…

 サクラ業(代理出席業)のなかでイージーな現場の部類に入るのが、結婚式のサクラである。

 何らかの事情で空いた結婚披露宴の席を埋めるため新郎新婦いずれかの関係者のフリをする。ハレの場を荒らすことさえしなければ、フルコースの料理とアルコールを楽しみながらプログラムがただ過ぎるのを待っていればいい。終わればギャラに引き出物まで付いてくるんだからこんなラクな仕事はない。

 ただし、その他大勢ではなく、役つきの特別ミッションが下った場合は別だ。結婚披露宴につきものの、乾杯発生、友人代表のスピーチ、余興などである。筆者はサクラとしてそのすべてをこなした経験がある。

 北関東にサクラ4人で結婚式に出席した時は、クライアントは某大手自動車メーカーに勤める新郎だった。我々サクラには新郎の同僚として、乾杯発生、祝辞、代表スピーチという大役が振られた。サクラ全員が同僚役ということは、新郎側の勤め先からの出席者は実質ゼロ。新郎は勤め先のシフト上の理由からサクラ起用に至ったようだ。

 披露宴では筆者を含めて皆ベテランのサクラとあってそつなく大役をこなし、タダ酒とタダ飯を楽しんでいると、新郎の父親がお酌に回ってきた。

「今、○○(新郎が勤める某自動車メーカー)では新車を作っているらしいけど、どんな車なの?」

 下手なことは言えないので、「まだ詳細は発表になっていないので詳しいことはお父さんにも言えないのですが、ヒントはエコです」と絞り出してことなきを得た。

 このように、式にサクラが出席していることを知っているのはクライアントのみというケースがほとんどなため、事情を知らないクライアントの肉親からのコンタクトが最も危険なのだ。

◆某プロレス団体「今日初めて来た人?」→ほぼ全員が挙手

 筆者がサクラのバイトを始めたばかりの10年ほど前は、サクラといえば結婚式出席の仕事がほとんどだった。ある年の6月には赤の他人の結婚式に2日連続で出席し、1日目には新郎友人として余興でウルフルズの「バンザイ」を歌い、次の日には友人代表スピーチをしたこともある。

 しかし、コロナ禍によって結婚式の仕事は皆無となり、入れ替わるように増えたのが、音楽ライブや演劇などのエンタメ系のサクラである。つまりお客のフリをしてライブなり演劇なりに参加するわけである。

 チケット代はおろか、ギャラを払ってまでお客を集めなければならない事情−−。それにはエンタメ界の慣例となっている「チケットバック制」が大きく影響しているようだ。チケットバック制は出演者のギャラの管理だけではなく、出演者1人ひとりの集客力を測る目安にもなっているらしい。そこでサクラの出番となるわけである。

 エンタメ系のサクラで印象深いのが、某プロレス団体の興行を観に行ったときである。会場のある新木場の駅前に集められたサクラはその数30人以上。登録スタッフだけでは足りず、サクラの友人、知人にまで参加の呼びかけが行われた。

 メインイベント前、リングアナウンサーも務める団体代表が客席に問いかける場面があった。

「本日、当団体の大会を初めて見に来たというお客さん、手を挙げてくれますか?」

 ほとんどすべての客が手を挙げたのは言うまでもない。

◆企業の「社運を賭けた一日」に思い入れもなく参加

 サクラ業のなかで難易度の高いのがビジネス関係の仕事だ。

 たとえば、筆者は某ゲームアプリ会社から依頼が来た「スポンサーとなってくれそうな企業の内見の場で社員に扮し、会社を実際より大きく見せる」という現場に立ち会ったことある。