二宮和也(右)と櫻井翔

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「日曜劇場」と月9が1、2位

 夏ドラマの季節が到来した。民放のプライム帯(午後7〜同11時)には16本ある。うち12本が7月15日までに始まった。スタートダッシュに成功した作品はどれか? 視聴率の詳細を見てみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 個人視聴率(4歳以上から高齢者までの全体値)の上位から各作品を順に並べた。多くのスポンサーに歓迎されるコア視聴率(13〜49歳に絞った個人視聴率)も付記した。

 個人の数字が5%なら、100人中5人が観ていたことになる。コアが3.0%だと13歳から49歳の100人のうち3人が観ていた。

二宮和也(右)と櫻井翔

 視聴率の合格ラインは午後9時台と同10時台では異なるが、個人が概ね3.0 %、コアが同2.0%とされている。
 
 さらに、ドラマ好きが多いとされるF1層(20〜34歳の女性)、これからのテレビ界の行方を左右するT層(13〜19歳)の個人視聴率も記したい。

 現時点でどんなドラマが高い支持を得ているのかが浮かび上がるはずだ(ビデオリサーチ調べ、関東地区、7月8日〜同14日)。

1:TBS「日曜劇場 ブラックペアン シーズン2」(日曜午後9時、14日放送の第2回)個人7.2%/コアは3.6%で1位/F1層4.3%/T層2.7%

2:フジテレビ「海のはじまり」(月曜午後9時、8日放送の第2回)個人4.7%/コアは2.7%で2位/F1層2.6%/T層2.6%

2:日本テレビ「GO HOME〜警視庁身元不明人相談室」(土曜午後9時、13日放送の第1回)個人4.7%/コアは1.8%で6位/F1層1.8%/T層0.7%

4:フジテレビ系「マウンテンドクター」(月曜午後10時、8日放送の第1回)個人4.4%/コアは2.1%で4位/F1層2.3%/T層1.9%

5:テレビ朝日「科捜研の女 season24」(水曜午後9時、10日放送の第2回)個人4.3%/コアは1.3%で11位/F1層0.6%/T層0.3%

「ブラックペアン シーズン2」の主演は二宮和也(41)。野心に満ちた天才外科医・天城雪彦の物語である。

 天城は超人的な才能がある一方で、手術前の患者に賭けを要求する。金に汚い。そんなことから「リアリティに欠ける」という声も一部にあるようだが、制作者側は最初からエンターテインメント色の強い医療ドラマにするつもりだったのだろう。前作もそうだった。

 そもそも放送枠は「日曜劇場」。視聴者層が子供からお年寄りまで幅広い。制作者側がストライクゾーンを広くしようとすると、エンタメ色は強くなる。

「海のはじまり」は放送枠が若い世代向けの月9でありながら、F1層とT層の数字がさほど高くない。15日放送の第3回はF1層2.3%、T層1.8%とさらに数字が下がった。

 ストーリーが身近に感じられない若い世代がいるからではないか。主演の目黒蓮(27)が演じる月岡夏が、知らぬ間に父親になっていた。子供を産んだ元恋人の南雲水季(古川琴音)は早世。夏の現在の恋人・百瀬弥生(有村架純)には中絶の過去があり、彼の子供を受け入れようとしている。ありふれた物語ではない。

 一方で月9としては珍しく、年齢の比較的高い視聴者の支持が厚い。人生経験を積んでいるから、夏と水季、弥生のような運命もあり得ると考えるのだろう。また、水季の母親・朱音(大竹しのぶ)が夏に複雑な思いを抱いたり、弥生に不条理な怒りをぶつけたりするところに共感をおぼえる中高年の視聴者もいるはずだ。

「西園寺さんは家事をしない」は台風の目

 日本テレビ「GO HOME」の舞台は警視庁身元不明人相談室。小芝風花(27)が演じる主人公・三田桜と月本真(大島優子)たちが、名前の分からない遺体の身元を突き止め、死の真相も解き明かす。

 第1回では東京・奥多摩の山中で死んだプロバスケット選手の白骨遺体が見つかるが、妻は夫だと認めない。夫はケガで試合を離れており、それを苦にして自死したと見られたが、妻はそう思いたくなかった。結局、桜たちが自死ではなく、事故死であることを突き止める。

 殺人事件は起こらず、だから犯人捜しもない。これまでとは違った新しいタイプの刑事ドラマ。若い世代が刑事ドラマを苦手とし、あまり観ないからだろう。だが、やっぱりコアとF1層、T層は低い。若い世代には「刑事ドラマはパターン化されている」という固定概念があるようだ。

「マウンテンドクター」の主人公は若き山岳医・宮本歩(杉野遥亮)。アウトサイダー的なベテラン山岳医・江森岳人(大森南朋)の下で成長していく。もちろん山に関係する患者たちも救う。治療を見せるより、患者の人生模様に重きを置いている。長野県白馬村などの風景も楽しめる。

「科捜研の女」は放送開始から25年。主人公は言わずと知れた榊マリコ。沢口靖子(59)が演じている。ここまで長く続いたのは制作を担当する東映が一線級の監督を投じ、脚本執筆陣の育成にも余念がなかったからだろう。

 もちろん、沢口の存在なくして成功はなかった。常識人のように見えて実際には不思議ちゃんのマリコは沢口以外ではハマらない。ただし、典型的な刑事ドラマなので若い世代には敬遠されている。

6:TBS「西園寺さんは家事をしない」(火曜午後10時、9日放送の第1回)個人4.0/コアは2.6%で3位/F1層3.2%/T層2.2%

7:フジテレビ「新宿野戦病院」(水曜午後10時、10日放送の第2回)個人3.8%/コアは1.7%で7位/F1層2.1%/T層1.2%

8:日本テレビ「マル秘の密子さん」(土曜午後10時、13日放送の第1回)個人3.6%/コアは1.7%で7位/F1層1.3%/T層1.4%

9:フジテレビ「ギークス〜警察署の変人たち〜」(木曜午後10時、11日放送の第2回)個人3.0%/コアは1.4%の10位/F1層1.1%/T層1.8%

「西園寺さんは家事をしない」の主演は松本若菜(40)。デビューから17年で、プライム帯の連ドラ初主演となる。

 主人公はアプリ制作会社で働く38歳の西園寺一妃。働くことは大好きだが、家事は大嫌い。結婚にも興味がないものの、それでいて一戸建てを35年ローンで買った。そこに同僚で年下のシングルファーザー・楠見俊直(松村北斗)とその娘が住むことになる。一妃の人生が変わり始める。

 この放送枠は20代の登場人物によるラブコメディが目立つが、今回は「私の家政夫ナギサさん」に通底する大人のオフィス・ラブコメ。家事と年の差が関係してくるところも同じだ。

 若い世代の視聴率が高い。F1層の数字は「ブラックペアン シーズン2」に次いで2位。一妃を家事嫌いにした理由などがやがて明かされそうだから、数字はますます伸びそう。

視聴率が伸びない「笑うマトリョーシカ」

「新宿野戦病院」の主演は小池栄子(43)と仲野太賀(31)。舞台は東京・新宿歌舞伎町のボロ病院である。

 小池は日本の医師免許がない ものの、志は高い医師のヨウコに扮している。仲野は免許こそあるものの、金儲けと女性のことしか考えていないダメ医師・高峰享役だ。

 この作品には暴力団排除の流れによって落ちぶれた老ヤクザや不法滞在の外国人、体を張ってホストに貢ぐ若い女性などが登場する。一定の人生経験がないと共感するのは難しいはず。このためか、若い世代の数字は高くない。

 もっとも、脚本を書いているクドカンこと宮藤官九郎氏(53 )もそんなことは百も承知のはず。だから若い世代が嫌いそうな「性病」などの言葉もセリフでバンバン使う。

 クドカンは敬愛する作家・山本周五郎の名作『赤ひげ診療譚』を現代の新宿でやろうとしているのではないか。この小説の主人公・新出は、立場の弱い長屋暮らしの人たちの救済に心血を注いだ。新宿の弱者を相手にするヨウコの姿と重なる。

10:TBS「笑うマトリョーシカ」(金曜午後10時、12日放送の第3回)個人2.8%/コアは1.5%で9位/F1層1.8%/T層1.3%

11:日本テレビ系「降り積もれ孤独な死よ」(日曜午後10時半、14日放送の第2回)個人2.7%/コアは1.9%で5位/F1層2.1%/T層1.6%

12:フジテレビ「ビリオン×スクール」(金曜午後9時、12日放送の第2回)個人2.1%/コアは1.3%で11位/F1層0.9%/T層0.8%

「笑うマトリョーシカ」は主人公の新聞記者・道上香苗(水川あさみ)が、有力な若手政治家・清家一郎(櫻井翔)を操っている人物を探す物語。原作は早見和真氏の人気小説で、ドラマもよく出来ている。しかし、視聴率が振るわない。

「日本では政治ドラマが嫌われがち」と言われるが、この作品もそうなのか、それともやや難解な部分があるので敬遠されているのか。伏線などを見逃さない考察ドラマではなく、推理と人間ドラマを楽しむ作品だ。

「降り積もれ孤独な死よ」も考察ドラマというより推理作品。主人公の刑事・冴木仁(成田凌)が、子供たち13人が殺された事件の真相を追う。児童虐待問題にも踏み込む意欲作である。この作品も内容はいい。

高堀冬彦(たかほりふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部