5年間の株価上昇率は4000%を超えた(NVIDIAのHPより)

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 何期にもまたがり驚くべき好決算をたたき出し、「AIブーム」の火付け役となった「エヌビディア」。5年間の株価上昇率はじつに4000%を超え、一時はアップルやマイクロソフトを抜き、時価総額で世界第1位にまで躍り出た「時代の寵児」である。この“ドリーム株”を、世界がブームに沸く前に目をつけ、6年も保有し続けている個人投資家がいる。

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【写真を見る】含み益がすごい! 今では考えられない取得単価の「エヌビディア株」

取得時から6年で約22倍も値上がり

 50代男性・Aさんが、エヌビディア株150株を約34000ドルで購入したのは、なんと、コロナ禍よりも以前の2018年5月のこと。エヌビディア株は当時から現在にかけ、1対4と1対10の株式分割を行っているので、当時の150株は現在で6000株となる。

5年間の株価上昇率は4000%を超えた(NVIDIAのHPより)

 エヌビディアの6月末時点の株価は123.5ドルで、株式分割まで考慮すると、Aさんの当時の取得単価は5.67ドルとなる。つまり、取得時から6年で約22倍も値上がりしたというわけだ。2018年5月のドル円相場から考えると、取得額は約380万円。急激に進んだ円安まで計算に入れると、380万円が31.2倍の1億1856万円にまで増えた。エヌビディアの1銘柄で一撃の“億り人”である。

「実際には保有株の3分の2を2021年に利確してしまったので、手元に残ったのは分割後の2070株となります。今も持っていれば…と考えることはありますが、そればっかりは結果論ですからね(笑)」(A氏)

 それでも、既に利確した約700万円と現在の含み益の約4000万円を合わせれば、エヌビディアがAさんにもたらした“富”は5000万円弱にのぼる。

6年前にエヌビディア株を買えた理由

 Aさんは金融投資1本で生計を立てる、いわゆる“専業投資家”だ。投資歴はサラリーマンだった頃から数えて25年になる。会社をやめて投資の稼ぎだけで暮らすようなったのは2011年からである。

投資を始めたのは28歳ぐらいなので、リーマンショックもコロナショックも経験済みです。リーマンの時は一時2000万円、コロナの時も4000万円ほど資産が減りましたが、狼狽売りはせずにじっと耐えました。結果的にはいずれも暴落前の株価まで戻しましたね」(A氏)

 これまで、主に日本株の短期投資と米国株の中長期投資で資産を増やしてきた。アジア通貨危機の際には、暴落したタイや韓国を投資対象とした投資信託を購入し、それぞれ5倍ほどで利確したこともあるそうだ。

 やはり気になるのは「AIブーム」の起きる以前に、どうやってエヌビディア株に注目できたのかということ。2度の世界株安を生き抜き、利益を上げてきた専業投資家ならではの“嗅覚”が働いた、ということなのだろうか。

「いえいえ、実は証券会社の営業マンに勧められて買っただけなんです。2018年当時は“eスポーツ”銘柄への投資が1つのトレンドで、当時からゲーム用の半導体で大きなシェアを占めていたエヌビディア株のことを教えてもらったのです」(A氏)

 ちなみに、エヌビディアを勧めてくれたのは三菱UFJモルガン・スタンレー証券の営業マンだったそう。

「担当者が変わって、当時の営業担当の方に御礼は言えてませんが、感謝しています。確かに昔ながらの大口顧客を相手にする証券会社は、株を買うのにも売るのにもそこそこの手数料を取られてしまいます。でも、特にアメリカ株なんかは個人で情報を集めるのは限界があります。私も証券会社に勧められていなければ、6年も前にエヌビディアという銘柄を知ることはなかったでしょう」(A氏)

1年のうち4〜5カ月は海外旅行

 エヌビディア株での成功もあり、Aさんが現在運用する金融資産は1億円を超える。2011年に仕事を辞めたAさんは、“FIRE”という言葉が流行する以前から、“悠々自適の生活”を実現しているわけだ。

 実際の暮らしぶりについても聞いてみると――。

「春夏秋冬の季節がはっきりしているところが気に入って、約20年前から群馬県の水上温泉に建つマンションに住んでいます。バブル期に建てられたマンションで、売り出し時の価格は4000万円ほどだったのですが、私の購入した2005年には650万円ほどで購入できました。現金一括で買ったので、住宅ローンもありません。リゾートマンションであるため、管理費と修繕積立金が高めで、約4万円します。それが実質家賃という感じですね」(A氏)

 マンション内には温泉が備わっており、いつでも入り放題だというから羨ましい限り。
 専業投資家としての“年収”を尋ねてみると、

「その年によって変動が大きいのですが、デイトレードをしているわけではないので、そんなにすごい額を稼いでいるわけではないですよ。一般のサラリーマンの年収と大きくは変わらないです」(A氏)

 そう謙遜するが、Aさんにはサラリーマンにはない“自由”がある。

「海外旅行が趣味で、1年のうち4〜5カ月は海外で過ごしています。独身で時間の自由が利くこともあり、だいたい1か月を海外で暮らし、群馬に帰ってきて1か月、そしてまた海外で1か月という感じの暮らしをしています。今はどこでも通信インフラが整っているので、株価の確認などに困ることはありません。最近はラオスの山奥の村に滞在していましたが、ちゃんと電波は入っていましたよ」(A氏)

 ここ1年間で訪れた国はラオスの他に、トルコ、スロベニア、ヨルダンと、まさに世界中を飛び回っての生活だ。

エヌビディアの次に狙う銘柄は?

 最後に、そんなAさんがいま注目する銘柄があるか尋ねてみた。

「日本株も米国株も、既にかなり値上がりしているので、上昇の余地はそこまで残されていないと見ています。そのため、今は新たに個別株を買うのは控え、米国などの金利引き下げの動向を睨みつつ、徐々に資金を米国や新興国の債券に移しています」(A氏)

 このように常に先を見ての投資法が、Aさんがここまで資産を築き上げた所以なのだろう。

 話を聞くうち、株価が大きく値下がりした際に投資をするのがAさんの投資スタイルだと分かったので、株価の低迷するEV車メーカーの「テスラ」はどうかと聞くと――。

「一時期テスラ株も保有していたのですが、決算発表でのイーロン・マスク氏の問題発言で株価が乱高下するのに嫌気がさしたので、もう保有しないと決めています」(A氏)

 ただ1銘柄だけ、仮に株価が大きく下がった際には購入を検討したい銘柄があるそう。

「糖尿病の治療薬を開発中のイーライリリー株は、もし安く買えるタイミングがあれば買いたいと考えていますが、個別株で新規で検討するのはそれだけですね。やはり今は債券の方により旨みがあると感じます」(A氏)

 うーん、ただただ羨ましい。

デイリー新潮編集部