それ以前にも吉野家は1980年にコスト削減を目的に肉・米・卵などを変更したせいで味に支障をきたし、顧客離反を招いて業績が悪化、会社更生手続きを申請して1987年に完了している。そして、前述したように2003年のBSE問題でも店舗の閉鎖に追い込まれ、業績不振に陥った。

 こういった危機的状態のなかで、学習したことを未来の発展に生かしていき、新たな成長へと繋げている。現在では長期ビジョンに「競争から共創」を掲げ、「人・健康・テクノロジー」をキーワードに飲食業の再定義を行い、力強い成長を目指している。

「人」は、労働集約産業としての外食で、多様な人材が働きやすい環境づくりの徹底、「健康」は、エビデンスに裏付けられたトクホ商品などをお客様に提供する商品開発、「テクノロジー」は、作業効率向上・従業員の肉体的・精神的負担の軽減につながるシステムの構築、とこれらを徹底強化していくと宣言している。

吉野家の業績推移(決算資料より)2020年2月期〜2024年2月期】
売上:2162億100万円→1703億4800万円→1536億100万円→1680億9900万円→1874億7200万円
営業利益:39億2600万円→▲53億3500万円→23億500万円→34億3400万円→79億7300万円
営業利益率:1.8%→▲3.1%→1.5%→2.0%→4.3%

◆直近の業績は回復傾向に

 直近の2024年2月期は、売上1874億7200万円、営業利益79億7300万円と回復傾向だ。なおそれ以外の数値は原価663億6100万円(35.4%)、粗利益1211億1100万円(64.6%)、販管費1131億3700万円(60.3%)となっている。コロナ禍での外食不況の中で、来店客の減少で厳しい経営を余儀なくされたが、テイクアウトやデリバリーで何とか店を維持してきた。

 コロナが収束し、外出制限が解除された今、コロナ前(2020年2月期)の売上には及ばないが、売上は回復傾向にある。原価率は35.4%と標準値(適正原価)を維持しており、高度な原価管理技術を有している。この適正原価は顧客と店が利益を享受し合う最適なバランスから成り立っていることが推察される。

 現在、吉野家(国内1232店、売上構成比67.5%)、はなまるうどん(国内416店、売上構成比15.6%)グループ総数(海外含む)2773店を有する。主な海外進出先は中国北京281店、インドネシア155店となっている。中国への進出が早かったのは米国産牛の輸入停止に伴う代替牛に中国産を検討していたからのようだ。

 日本人の魚離れが深刻で20年間で半減している。一方で、元気な高齢者が増え、肉食シニアが増加中である。牛丼店や焼肉店で肉を頬張るシニアを見ると頼もしい限りである。今後も肉類の需要は伸びそうであり、せっかく伸びるその需要を、取りこぼしのないようにしなければならない。社会に牛肉料理の提供を通じて貢献していく、吉野家のさらなる飛躍に期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan