フィギュア中古価格、高騰の理由とは? UFOキャッチャー景品とインバウンド需要から考える
中古フィギュアの価格高騰が続いている。日本経済新聞の記事によれば、中古フィギュアの平均販売単価はこの10年で大きく上昇。10年前と比較した中古商品の流通価格は『機動戦士ガンダム』シリーズで2.3倍、『ドラゴンボール』関連商品で2.9倍、『ワンピース』で2.1倍になったとされている。
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もとより、この20年ほどの間、フィギュアの価格は上がり続けてきた。量産した樹脂製部品を組み立て、場合によっては塗装まで行う一般的な塗装済み完成品フィギュア製造工程において、主な価格上昇の要因となるのは原材料費と人件費の上昇だ。
この20~30年余り、日本のみならず世界のメーカーが玩具製造の「工場」として仕事を任せていたのが、中国である。日本のフィギュア産業においても2000年代前半に「塗装済み完成品フィギュア」という形態の商品が一般化して以降、あらゆるメーカーの商品製造を中国国内の工場が引き受けてきた。ということは、フィギュアの価格上昇には、中国での人件費上昇の影響が大きいということになる。
1980年代以降の改革開放政策により、中国は社会主義市場経済体制へと舵を切った。海外からの発注を受ける中国の製造業、とりわけフィギュアの製造のような業種において強力な武器となったのが、手先が器用な工員を大量動員した人海戦術と、人件費の圧倒的な安さだった。手工業的なガレージキット製造を行っていた海洋堂が、大量生産を前提とした塗装済み完成品アクションフィギュアの製造に乗り出したのは、製造費用の圧倒的な安さという理由があった……というのは、同社の歴史をまとめた『海洋堂クロニクル』でも語られている。
当時から現在に至るまで、フィギュアを大量生産するには手作業の人海戦術が一般的である。「塗料各色を使い分け、あるキャラクターの目を描け」と言われて実際にできる人は、世の中にほとんどいない。が、「この頭部パーツのこの位置にこの塗料で点を打て」と言われれば、多少手先が器用ならば可能だろう。その「点を打つ人」を大量に揃えて横一列に並べれば、フィギュアの顔の量産ラインとなる。国産アクションフィギュアの流通が当たり前になり、食玩バブルが盛り上がった2000年代前半以降にフィギュア製造を担ったのは、このような製造工程を組むことができた中国の工場だった。
大量に工員を必要とするこのような製造方法は、あくまで現地で働く工員たちの賃金が安かったから成立していたものだった。安く大量に工員を揃えることによって、安価で高品質なフィギュアの量産が可能になり、「こんな値段でこんなにすごいものが買えるなんて」という食玩ブーム当時の驚きが成り立った。
しかし当然ながら、中国が経済成長し賃金も物価も上昇すれば、フィギュアの価格は高騰する。海洋堂が2006年から継続して販売している「リボルテック」シリーズは、高さ12cm程度のサイズで発売当初は税込1995円だった。それが今では、同シリーズでも1万円超えの商品がザラになっている。商品仕様の変化やクオリティの上昇といった要因もあるにはあるが、20年でおよそ5~6倍という強烈な価格上昇の原因として、中国の経済成長という要素は見逃すことができないだろう。現在、中国以外の東南アジアなどに製造拠点を移す動きも見られるが、クオリティの面で中国を上回る拠点を見つけるのは難しい。というわけで、前提として塗装済み完成品フィギュアのメーカー希望小売価格は、20年以上にわたって上昇を続けているのだ。
そういった強烈な価格上昇の影響を受けづらいのが、プライズ向けフィギュアである。これはUFOキャッチャーのようなゲームセンターのプライズゲームの景品として製造されているフィギュアで、高額な一般フィギュアと同様に塗装済みの完成品という仕様で販売されている。1万円台後半~数万円台の高価格なフィギュアに比べるとさすがにサイズが小さかったり造形や塗装が甘い点もあるが、しかし「ゲームの景品」としては充分なクオリティの商品が多い。また、「客が何度も撮り損ねる」ことを前提としつつ、「取れる時は数百円で取れる」という商品のため、ユーザーが支払うメーカー希望小売価格が事実上存在しないのも特徴だ。
こういったプライズのフィギュアの特徴が、通常のフィギュアよりも一般的な題材が多く選ばれていることだ。ゲームセンターはフィギュアを取り扱うホビー専門店と違い、幅広い客層が訪れる場所である。そんな場所で「欲しい!」と思ってもらうためには、誰もが知っている人気キャラクターを商品化する必要がある。また大量生産してフィギュア一体あたりの価格を下げるためにも、大きな需要が見込まれる題材をフィギュア化する必要がある。『ワンピース』をはじめとする『週刊少年ジャンプ』連載の有名作品はこういった条件をクリアしており、筆者の体感でも2000年代後半以降はプライズの景品としてジャンプ関連作のフィギュアが数多く出回ったように思う。
昨今価格が上昇している中古フィギュアには、こういったメジャー作品を題材としたプライズ向けフィギュアが数多く含まれている。店舗数の限られるホビーショップとネットのみで流通する一般的なフィギュアに比べて生産数が多く、実際にゲームセンターなどで入手する人が多いプライズ向けフィギュアは、中古流通する数もまた多い。ブックオフやホビーオフのような中古商品を取り扱うリユースショップにいけば、数多くのプライズ向けフィギュアで埋まった棚が見つかるはずだ。
興味深いのが、前述のようにこれらのプライズ向けフィギュアには「メーカー希望小売価格がない」という点である。数百円で入手できることもあれば数千円を注ぎ込んでも取れない時は取れない……。元々はそういう特徴のある商品だったものの、中古で流通する以上は値付けが必要になる。「希望小売価格と比較して高い/安い」という、ある種の基準値が存在する普通のフィギュアに比べると、プライズ向けフィギュアの価格設定はより流動的であり、おまけに国内外で広い人気のあるタイトルを題材としたものが多いことから、インバウンドでの需要も見込むことができる。「流通量が多く、希望小売価格が存在せず、誰でも知っているメジャータイトルを選んで立体化している」というプライズ向けフィギュアの特徴は、そのままフィギュア中古価格高騰の要因となっているのではないだろうか。
無論フィギュア中古価格の高騰には、そもそものフィギュアの高額化やあらゆるランニングコストの上昇といった要因も絡んでいるだろう。しかし、ことリユースショップを通した価格高騰という点に関しては、同じフィギュアでも商品形態や流通形態の異なる商品を同カテゴリーのものとして扱っている点も関係しているように思う。そしてそもそも、中古価格というのは「需要があればその分だけ上がる」というのが基本である。誰も欲しいと思わなければ勝手に値段は下がっていくし、「たとえ一億円でも欲しい」と思っている人が一人でもいれば、一億円が適正価格になるというのが中古流通というものである。
それでいえば、円安によって日本国内の商品を海外の通貨で買い漁りやすい状況が続く現在の状況は、フィギュアに限らず「外国人が欲しいと思う中古商品全般」の価格上昇をもたらすのではないだろうか。日本が外貨を稼ぐ手段としてコンテンツ産業がもてはやされるようになって久しいが、それによって日本人が日本製コンテンツを題材とした商品を買いづらくなるとするならば、随分と皮肉な話である。しかし、少しでも高く買ってくれる人間に売るのは商売の基本である。そうである以上、今後もフィギュア中古価格の上昇が止まる可能性は低いだろう。