デートは“都心の駅近”がテッパンだったが、美食を求めるいまの大人たちはエリアも利便も気にしない!

“わざわざ行く”が誘い文句にもなる令和。東京のグルメマップはどんどん拡大中なのだ。

そこで今回は、とある男女のディナーを覗き見!場所は、二子玉川にあるフレンチ『前芝料理店』

隣はバレエ教室で向かいには鮮魚店。落ち着いた住宅街らしい環境が新鮮だ。


空間の素敵さに加え、セラーや映える器具など心くすぐる仕掛けが楽しい


背筋が伸びる雰囲気のフレンチもいいが、ここは着席の瞬間から寛げる店だった。

上質な木を多く使っているからだろう。特に僕たちが座った大きなテーブルは、ここまで大きな一枚板があるのかと驚く。

シェフにそんな感想を挨拶がてら話すと、実は大工さんが造った空間とか。




その温もりとガラス張りのウォークインセラーの眺めが混じり合い、センスの良い彼女も顔がほころんでいる。


進化を続ける料理は、ひとたび口にすれば美味しさに感嘆する


そして、始まりはやはりシャンパン。

乾杯をすると、シェフが食通なら知るイタリア産スライサーでハムを切り出す。




小気味良い音が僕たちの高揚を高め、出されたのは薄衣のような生ハムの一品。



コース1品目の「生ハムと玉ねぎのキッシュ」。削り立ての極薄の生ハムの下は、淡路島の玉ねぎを6時間炒めて甘みを出して生地にのせたキッシュ。その甘さと生ハムの塩気が絶妙なバランスだ


繊細な舌触りは言わずもがな、目も耳も楽しいのが、イマドキの序章だ。

「分かりやすく美味しいものを」と話すシェフのスタンスは今の自分に丁度いい。

単なるシンプルとはまるで違う。例え見た目がさり気なかったとしても、食べて気持ちが華やかになるからだ。



ハーブのサラダや穂紫蘇が鮎の香りと合う「鮎のクレープ」。自分の手で巻くアクションも抜群に楽しい


シェフは同じソース作りや火入れを何回も繰り返すが、その反復が進化となっているからそう感じるのだと思う。

まさに『前芝料理店』のスペシャリテでそれを感じた。



「宮崎の坂元牛クリのロースト」は、ナイフがすっと入る瞬間からもう美味しい。赤身の旨みと調和するリッチなソースには3種のワインとコニャックが入っている。添えられているのは陶器の皿ごとくるポテトのグラタン


宮崎牛のクリが纏うのは黒トリュフのソース。マデラやポルトも効いて、なんと艶っぽいことか。

「何かの記念日みたいだね」

肉のあとピノノワールを飲んだ彼女が呟く。

僕らはまだ付き合ってもいないのに。研ぎ澄まされたひと皿がデートに効くのだ。

「お肉のサクッとした食感に驚きました」

彼女がシェフに感動を素直に伝える。シェフの家に招かれた雰囲気だから、話しやすいのだろう。


30〜40代の新たなチャレンジを続ける若きシェフが、時代の中心になってきた


気づけばシェフを“前芝さん”と、名前で呼んでいた。

聞けば前芝さんは『北島亭』の出身。日本のフランス料理をけん引してきたベテランからきちんと教わった人だから、料理にも骨太さが潜むと納得した。

近頃、そんな30〜40代のシェフが多い。王道の技術も高みに向かい、そこに自分らしさを重ねる。

脂がのった彼らの店にはポジティブな空気が漂う。さらに前芝さんは大阪の人気店を閉めて東京に挑戦したシェフ。経験豊富にしてフレッシュさも感じたのだった。

料理が美味しくて、ワインも的確。だから、料理の話を中心に会話が弾む。




「また来たいね」という言葉が自然と出る。「今度は、私がご馳走するよ」と彼女は笑った。



今宵の舞台は……『前芝料理店』


シェフの前芝 平さんが目指すのは、「少し奮発したら、誰でも来ることができるしっかり美味しいフレンチ」。季節感を出しながらボリュームもある8品のコースを提供する。

席間が広い店内はお洒落かつ心地いい。コース¥16,500、ワインペアリング¥11,000。


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