地球の高度約10〜50kmの成層圏に存在するオゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収することで地球の生態系を保護する役割を担っています。ところが、近年急速に増加している地球低軌道の人工衛星により、オゾン層が破壊されてしまう可能性があるという研究結果が報告されました。

Potential Ozone Depletion From Satellite Demise During Atmospheric Reentry in the Era of Mega‐Constellations - Ferreira - 2024 - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library

https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL109280



Satellite “megaconstellations” may jeopardize recovery of ozone hole - AGU Newsroom

https://news.agu.org/press-release/satellite-megaconstellations-burn-deplete-ozone/

Satellite constellations like Elon Musk’s Starlink could deplete Earth’s ozone layer, study says | The Independent

https://www.independent.co.uk/space/elon-musk-spacex-starlink-internet-b2565081.html

オゾン層は地球を保護する上で重要ですが、20世紀には冷蔵庫やクーラーの冷媒、プリント基板の洗浄剤などに用いられるフロンをはじめとする塩素を含む化合物がオゾン層を破壊していることが判明し、大きな社会問題となりました。近年はモントリオール議定書に基づくフロンガスなどの排出規制によって、オゾン層は回復傾向にあります。

ところが、南カリフォルニア大学工学部の研究チームが発表した新たな論文では、急速に増加している「地球低軌道の人工衛星」のせいで、せっかく回復したオゾン層が破壊されてしまう可能性があると指摘されています。



地球低軌道にある約8100基の人工衛星のうち約6000基は、人工衛星インターネットのStarlinkを運営するためにSpaceXが過去数年間で打ち上げた人工衛星です。すでにSpaceXは1万2000基のStarlink衛星を打ち上げる許可を得ており、最終的にその数を4万2000基に増やすことを計画しています。また、Amazonなどその他のテクノロジー企業も3000〜1万3000基の人工衛星投入を計画しているとのこと。

衛星インターネットのために地球低軌道に展開されるこれらの人工衛星は、寿命が約5年ほどと短く、企業はサービス提供のために継続的に衛星を打ち上げなくてはなりません。耐用年数が過ぎた人工衛星は地球の大気圏に再突入して燃え尽きますが、その際に燃え残った汚染物質が地球の大気にまき散らされます。これまでに行われた人工衛星の汚染に関する研究は、多くが打ち上げ時のロケット燃料などに焦点を当てたもので、衛星が燃え尽きる際に放出される汚染物質についてはほとんど注目されていませんでした。

そこで研究チームは、人工衛星を構成する物質の化学組成と結合をモデル化し、大気圏再突入時にどのような汚染が生じるのかを調査しました。その結果、質量の30%がアルミニウムである典型的な250kgの人工衛星が大気圏再突入で燃え尽きると、約30kgの酸化アルミニウムのナノ粒子が生成されることがわかりました。酸化アルミニウムのナノ粒子はほとんどが地表から50〜85kmの中間圏で生成され、オゾン層の90%が位置する成層圏まで最大30年かけて到達すると推定されています。

2022年には合計約17トンの酸化アルミニウムのナノ粒子が、燃え尽きた人工衛星によって生成されたとのこと。また、計画中の人工衛星がすべて展開されるとその量は年間360トンに達し、大気中の酸化アルミニウムの量は自然のレベルより646%増加するとみられています。

酸化アルミニウムはそれ自体がオゾン分子と化学的に反応するわけではありませんが、オゾンと塩素間の破壊的な反応を引き起こします。酸化アルミニウムはこれらの化学反応によって消費されないため、成層圏を漂うオゾン分子を数十年にわたり破壊し続けるとのこと。これらの点から研究チームは、人工衛星の増加が重大なオゾン層破壊を引き起こす懸念があると警告しています。



論文の共著者で南カリフォルニア大学の宇宙航空学教授であるジョセフ・ワン氏は、「近年になってようやく、人工衛星が燃え尽きる際の汚染が問題かもしれないと考えられるようになりました。私たちは、これらの事実がどのような意味を持つか検討した最初のチームのひとつです」と述べました。