試算の2倍の8000万超で契約…大阪市のクジラ『淀ちゃん』処理「業者と癒着疑惑」黒塗り資料大公開

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大阪市クジラ処理を巡る資料を開示請求したら、出てきた資料は真っ黒。とても普通ではありませんでした」(大阪府の市民グループ『見張り番』一柿喜美氏)

クジラの死骸処理を巡る問題で、大阪市が住民監査や入札監視から疑義を指摘される異例の事態になっている。

発端は’23年1月に大阪湾へ迷い込んだ1頭のマッコウクジラだった。

「新年早々、淀川河口付近に迷い込んだ全長約15m、重さ40トンほどのクジラ『淀ちゃん』が見つかり、4日後には死んでいるのが確認されました。市は紀伊水道沖へ海洋沈下することを決めて委託業者と8019万円の契約を交わします。しかし、市が最初に試算した処理費用は3774万円だったのです。

 公金を投入する以上、最初の提示額より2倍以上高い金額を払うのはおかしいと感じるのが普通でしょう。さらに弁護士や市の調査結果(後述)によると、交渉には担当部署と関係のない職員が乗り出して業者に有利になるよう市の担当者に指示したり、他の職員が業者と会食し酒を贈っていたそうです」(全国紙社会部記者)

通常2週間が2ヵ月も

一柿氏らの市民グループは今年1月上旬、クジラの処理を巡って市役所や委託業者の間でどういうやり取りがあったかを明らかにする目的で市に情報公開請求を行う。だが、市からの開示は進まなかった。一柿氏が憤る。

「通常なら2週間で関係資料が開示されるのに『もうちょっと待ってください』の繰り返し。開示されたのは請求手続きから2ヵ月後となる3月に入ってからでした。しかも、開示された資料を見ると、よほど見せられないのか黒く塗りつぶされたページだらけ。これではどんなやり取りがあったのかさっぱり分かりません」

『FRIDAYデジタル』が入手した市の開示資料は157枚にのぼるが、業者との交渉経緯を記したものや市が業者と交わしたクジラ処理に関する仕様書は、すべて黒で塗りつぶされたページも少なくなかった。

一柿氏が市に黒塗りの理由を尋ねると、こんな答えが返ってきたという。

「個人情報が書かれているから公開できないとのことでした。しかも、クジラ処理を巡って市役所や業者とやり取りをした職員のメールアドレスが塗りつぶされているのは、『(公開すると)メールにウイルスが入るから』と理由にならない言い訳をするのです。公開できないよほどの理由があるのだろうと考えました」

市の対応を不審に感じた一柿氏らは、2月下旬に住民監査請求手続きを行う。弁護士らで構成する大阪市監視委員会は、4月下旬に公表した監査結果で「契約締結に関しては多くの疑義が認められ、契約事務として少なくとも不当なものであった蓋然性が高い」と結論付ける。

市の入札等監視委員会が6月7日に公表した調査結果でも、業者との契約の進め方に疑念が生じる事実の詳細が明らかになった。港湾再編担当課長(当時)は業者で働く市職員のOBにクジラの処理後に酒を贈呈。経営改革課長(当時)は契約交渉期間中に業者の担当者と2回会食していた。

しかも調査結果によるとこの課長は、価格交渉の協議で業者が「(費用を)ブラックボックスにできるのはクジラの清掃」と提案したことに本来のクジラ処理を担当する市の担当課長が難色を示すと、「お前エエ加減にせえよ」などと言って業者の見積額に近づけさせようとしたとされるのだ。

「途中経過の費用を出したにすぎません」

一柿氏らは5月下旬、横山英幸大阪市長を相手取り、契約締結に関わった市職員3人と委託業者に約8000万円の損害賠償を請求することを求める住民訴訟を起こした。

クジラ処理をした当時の市長は松井一郎氏。業者となれ合いになっていて市が忖度したのではとの話も聞きます。私たちは、開示された資料が黒塗りだった理由を問うために現在、市に審査請求もしています。また同じことが起きないようにするために、きちんと調べないといけません」(一柿氏)

数々の疑惑の目が向けられていることに関して大阪市はこう回答した。

「腐敗が進むクジラを安全かつ速やかに移動する特殊な業務のため、処理費用は十分に精査しています。業者の見積額と2倍以上の違いが出たのは、水産庁の補助金をもらうためにその時点で分かる途中経過の費用を出したにすぎません。

契約事務に携わる職員は、癒着の疑惑が抱かれないように業者との会食が禁止されていますが、今回はそれに該当するものと考えています。結果として市民への説明責任が果たせていないのが一番の課題で、その点は港湾局の落ち度として認めざるをえません」(港湾局)

元兵庫県明石市長の泉房穂氏は、大阪市の対応のまずさを指摘する。

「市が提示した3000万円には合理的な根拠があったと考えるのが自然で、基準がなかったというのはみっともない言い訳。8000万円を超えて契約を迫る働きかけによって金額が変わったのでしょう。横山市長は前市長に気を使っているように見えるが、ここは毅然と調査をして何があったのかを明らかにすべきところ。ありえないことが大阪市で起きている印象です」

横山市長は入札等監視委員会の調査結果が公表されたことを受けて、契約金額の妥当性などについて外部監査専門委員に委託して調べることを明らかにした。騒動はしばらく続きそうだ。

取材・文:形山昌由
ジャーナリスト