指定難病の「クローン病」や「潰瘍性大腸炎」などを含む炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)は、イギリスで10人に1人、世界では総人口のおよそ5%が罹患しているといわれている病気です。これまで、IBDの原因は不明でしたが、フランシス・クリック研究所などが、IBDの主な原因となる生物学的経路の特定に成功したことを明らかにしました。

A disease-associated gene desert directs macrophage inflammation through ETS2 | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-024-07501-1

Major cause of inflammatory bowel disease discovered | Crick

https://www.crick.ac.uk/news-and-reports/2024-06-05_major-cause-of-inflammatory-bowel-disease-discovered



Bowel disease breakthrough as researchers make ‘holy grail’ discovery | Digestive disorders | The Guardian

https://www.theguardian.com/society/article/2024/jun/05/bowel-disease-hope-researchers-find-biological-pathway

フランシス・クリック研究所とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、以前からIBDや他の自己免疫疾患との関連が指摘されてきた、「遺伝子砂漠」と呼ばれる非コードDNA領域の調査を行い、「エンハンサー」が存在することを発見しました。

「エンハンサー」とは、遺伝子が作るタンパク質の量を増加させることができる「ボリュームダイヤル」のようなもの。研究グループが発見したエンハンサーは、炎症反応で大きな役割を果たすマクロファージでのみ活性化し、「ETS2」と呼ばれる遺伝子の働きを強化していました。

研究グループは遺伝子編集を用いて、ETS2がマクロファージのほとんどの炎症反応に必須であることを示しました。また驚くべきことに、安静時のマクロファージでETS2の量を増やすと、IBD患者のものに酷似した炎症細胞に変化したとのこと。

さらに研究グループは、これまでにIBDと関連しているといわれてきた多くの遺伝子がETS2経路の一部分であり、ETS2経路がIBDの主要原因であることを証明しました。

Major cause of inflammatory bowel disease discovered - YouTube

ETS2の働きを阻害するような薬はないことから、研究グループがETS2の活性化を間接的に抑える可能性がある薬を探したところ、すでに他の非炎症性疾患で処方されているMEK阻害薬が、ETS2の炎症反応を抑制することが予想されました。

実際に試したところ、MEK阻害薬はマクロファージだけでなく、IBD患者の腸管サンプルの炎症反応も抑えることがわかったとのこと。

MEK阻害薬は他の臓器へ副作用を及ぼす危険性があるため、研究グループは医学研究団体のLifeArcと協力して、MEK阻害薬をマクロファージに直接投与する方法を模索しています。

なお、IBD患者の約95%がETS2エンハンサーのバリアント(多様体)を1つか2つ持っているのですが、研究グループは多様体がこれほど一般的に残っていることについて、抗生物質の登場以前はETS2が感染防御のスイッチの役割を果たしていたため現代まで残っているもので、感染症が多い地域では特に多く見られるのではないかという見解を示しています。