アフリカ東部の内陸国・ウガンダ共和国では顔や指紋、虹彩など、一人一人固有の身体的な特徴を記録し、個人を識別する生体認証ツールの構築が進められています。しかし、ウガンダ政府はこのツールを政治家やジャーナリスト、人権活動家、一般市民を監視するためのツールとしても活用していることが指摘されています。

Uganda: Yoweri Museveni's Critics Targeted Via Biometric ID System - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/features/2024-06-04/uganda-yoweri-museveni-s-critics-targeted-via-biometric-id-system



ウガンダでは、2014年頃に国家識別登録局(NIRA)を設立し、生体認証技術を使ったIDカードを発行しています。記事作成時点では、ウガンダ国内において国民の約60%が登録していると推定されており、携帯電話用のSIMカードの取得や銀行での取引、選挙での投票、病院でサービスを受ける際にNIRAが発行したIDカードの提示が求められています。

しかし、この生体認証システムが監視目的で悪用されていることが問題視されており、人権活動家やジャーナリストの活動の監視のほか、政府や法執行機関の高官が、自身に対する政治的脅威と見なされる個人を標的として監視を実施していることが指摘されています。

ウガンダの著名な人権派弁護士であるニック・オピヨ氏は「政府による監視によって私の仕事には、もはや守秘義務がほとんどなくなってしまいました」と述べています。過去には突如政府組織によって逮捕され、不当な尋問を受けたこともあるそうです。



オピヨ氏は「生体認証システムを使ったIDシステムを導入することには大きなメリットがあります」と前置きした上で「唯一の問題は、不完全で残忍な政府がこのシステムを導入すると、反対派や政権批判を行う人物の抑圧に悪用されてしまうようなシステムであることです」と批判しています。

ウガンダでは、殺人事件や暴力を伴った強盗事件が相次いで発生しており、ヨウェリ・ムセベニ大統領は「生体認証システムへの登録により、当局が犯罪者を正確かつ迅速に特定することが可能です」と宣言しています。その一方で、オピヨ氏によると生体認証システムの導入以降、ウガンダ国内における犯罪の定義が拡大しているとのこと。オピヨ氏は、小規模な政治的抗議活動に参加したり、政治家を不快にさせる投稿をSNSで行ったりすることまで「犯罪行為」になっていると例示しています。



海外メディアのBloombergは「『ソーシャルメディアの誤用』や『悪意のある情報』の共有に関する広範なウガンダの法律は、当局に批判者を強制的に沈黙させる強力な権限を与えています」と指摘しました。

実際にジャーナリストで人権活動家のアギャザー・アトゥハイル氏は2022年に「ウガンダ議会が約73万7000ドル(約1億1000万円)もの税金を投入して、議会議長のアニタ・アモン氏とそのスタッフ1人のために高級車2台を調達した」とのニュースを伝えました。報道を受けたウガンダ国民は大規模な抗議活動を実施したとのこと。

汚職が報じられたウガンダ政府はすぐに、犯罪捜査部門に対しアトゥハイル氏の調査を指示。当局は裁判所の命令や法的根拠がないにもかかわらず、アトゥハイル氏の行動や電話記録、SNSのアカウントの追跡を実施しています。



オピヨ氏は「政府や法執行機関の誰かが、NIRAのデータベースを使って特定の個人を調査したり、誰と会話していたのか、家族がどこに住んでいるのかを調べたりしたいと思えば、適切な手続きを一切行うことなく調査を実施することができます。アトゥハイル氏のようなケースは特別なものではありません」と批判しました。

Bloombergに対し、あるウガンダの警官は、警察の顔写真データベースに登録されていない人物の追跡を行う場合、NIRAから写真を入手して国内に張り巡らされた監視カメラのシステムに入力、その人物がネットワークのカメラの1つに写ると、AIがそれを検知して通知を当局に送信するシステムが導入されていることを明かしています。

また、別の警官は「裁判所の命令なしに、友人や同僚のために、ある個人の写真や指紋、経歴などの情報を含むNIRAのデータベースにアクセスした」と語っています。

一方で、NIRAのローズマリー・キセンボ事務局長は、法執行機関がNIRAのデータベースに容易にアクセスできることを否定しており、「裁判所の命令が必ず必要です」と述べています。また「私の25年のキャリアの中で、これほど優れた個人識別システムは見たことがありません」とアピールしました。

ウガンダでは、車両のナンバープレートに搭載された追跡デバイスを通じて、国内の全車両のリアルタイムの位置を追跡できるように設計されたシステムの策定が進められています。一部の政府機関はこのシステムに対し反発しているほか、人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは「野放しの大量監視を可能にします」と批判しています。



ウガンダでは、2026年に大統領選挙が実施される予定ですが、記事作成時点で6期目を務めるムセベニ大統領が再選するとみられています。オピヨ氏は「今後、ムセベニ大統領の下で国民の監視体制がより洗練され、ハイテク化するなど、これまでよりも厳しくなることを危惧しています」と語りました。