花粉症の症状が年々強くなり、もうどんな薬を使ってもつらい……そんな人に教えたい「舌下免疫療法」とは(写真:Yotsuba/PIXTA)

花粉症の人にとっては不快なシーズン真っ盛り。花粉は1月下旬からスギが飛び始め、4月からはヒノキが始まる。外来では、何人もの「今年花粉デビュー」の方が受診される。たくさんの花粉症の患者さんを診察していると、やはりスギ花粉の時期が一番症状が強い、という方が多い。年々症状が強くなり、もうどんな薬を使ってもつらい、という方も少なくない。そのような方はどう治療すればいいのだろうか?

花粉症のスタンダードな治療

花粉症治療の基本は、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)の内服と、点鼻、点眼だ。抗アレルギー薬にはさまざまな種類があり、1日1回服用と、1日2回服用するタイプに大別される。点眼は抗アレルギー薬が基本で、症状の強いときには副腎皮質ステロイドの入った点眼薬を用いる。点鼻薬は、副腎皮質ステロイドがスタンダードだ。症状に応じて、薬を組み合わせて治療する。

抗アレルギー薬の一番の問題は、効果の強い薬は鎮静作用=眠くなることだ。個人差があるので、初めて抗アレルギー薬を服用する人は弱めから始めて、だんだんと強くしていって、自分に合う薬を選ぶことをお勧めしている。すでに何シーズンも治療を受けている場合は、いつもの合っている薬を使うのがいい。抗アレルギー薬1種類でコントロールがつかない人では、2種類を併用することもある。

漢方薬も花粉症に有効だ。鼻水や鼻閉(はなづまり)には小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、目の痒みや赤み、腫れには越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)が代表的な処方だ。2つを併用することも多い。鼻がつまり、鼻水が黄色や黄緑色になるなど副鼻腔炎になった場合は、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)や葛根湯(かっこんとう)を用いることもある。

漢方薬の最大のメリットは、眠くならないことだ。ただし別の副作用がある。小青竜湯と越婢加朮湯に含まれる麻黄は交感神経を刺激するため、血圧が上がり脈拍も増える。高血圧や不整脈の治療を受けている人では要注意だ。そうでなくとも動悸(心臓の鼓動を強く感じる)がして不快に感じる人もいる。

また、同じく両者に含まれる甘草という成分により、高血圧やむくみ、血液中のカリウムの低下が起きることがある。カリウムが低下すると不整脈が起きやすくなる。漢方薬とはいえ薬であり、副作用はゼロではない。短期間であれば問題にはならないかもしれないが、数カ月にわたって服用する場合は、血圧のチェックや、血液検査で副作用のチェックを受けるべきだ。

私は、抗アレルギー薬を中心に、漢方薬を併用して処方することが多い。普段は夜1回服用の強めの抗アレルギー薬を使い、それでも日中に症状が強くてつらいときは漢方薬を足して服用する方法だ。

市販薬でも十分コントロールできる

医療機関に行く時間がないという人も心配は要らない。市販されている抗アレルギー薬をうまく利用すれば、多くの人では症状コントロールが可能だ。小青竜湯も市販されている。医師が処方するのと同等の効果の強い薬もOTC薬(市販薬)としてドラッグストアなどで販売されているので、うまく症状を抑えてくれる薬を見つけよう。抗アレルギー薬を効果の強い=鎮静の強い順にならべると「セチリジン>エピナスチン>ロラタジン>フェキソフェナジン」となるのが私の感覚だ。

一方、点鼻薬と点眼薬は気をつけなければならない。購入するときに店員に確認するといいが、 血管収縮薬(ナファゾリン)が入っていると“くせ”になりやすい。目の充血がサッと引き、鼻の詰まりがスッと取れるので、最初はいい。ただし連用すると、薬の効果の持続時間が短くなり、薬をつねに使い続けなければならない状態になる。そのため、定期的に用いる薬では、血管収縮薬の入っていない点眼や点鼻薬を選ぶべきだ。

薬では症状がコントロールされない人や眠気が困る人は、舌下免疫療法=経口減感作療法がお勧めだ。花粉症に対する舌下免疫療法はスギ花粉のみ、薬が販売されている。治療方法は国によって少し異なるが、日本での標準的な治療法は、スギ花粉シーズンが終わった5月頃から開始する。

人体は口から摂る物質に対してアレルギー反応が起きにくく、皮膚に擦り込むとアレルギー反応が起きやすい。卵アレルギーの経口減感作治療では、タマゴボーロをごく少量から与え、少しずつ増量していくことでアレルギー反応が起きなくなる。スギ花粉症では、スギのアレルゲンを含んだ錠剤(シダキュア)を用いる。

シダキュアの添付文書によると、症状がよいと感じた人はシダキュア群40.2%対偽薬群15.7%であり、症状が悪いと感じた人はシダキュア群2.0%対偽薬群12.2%と、シダキュアは症状改善に有効であった。治療は3年続けて効果が感じられなければ終了する。有効だった場合、そのまま治療を続ける人が多いが、中止しても2年は効果が持続することがわかっているので、 3年服用したらいったん休んでみて、また症状がひどくなってきたら再開する方法もある。

私自身もスギ花粉症の舌下免疫療法を行い、翌シーズンから症状の改善を自覚した。症状が軽くなればより眠気の少ない弱い薬でも効果が得られるし、白目がブヨブヨにむくむほど目が痒くならずに済む。なお、スギ花粉症の舌下免疫療法を行うと、ヒノキによる花粉症の症状も軽減することが知られている。

舌下免疫療法の料金は?

舌下免疫療法は、スギに対してクラス3以上のアレルギー反応のある人が受けることが可能だ。よって、最初に血液でアレルギー検査をおこなう。過去の検査結果を医療機関に持参するのでもいい。まず1週間、2000単位の錠剤を服用する。初回は医療機関にて服用する。口の中の腫れや痒みなど症状が悪化しなければ、1週間後に5000単位の錠剤に増量する。

副作用は口の中の浮腫、のどへの刺激感、耳や口の中の痒みなどであり、ほとんどが軽症だ。服用を続けられないほどの副作用が出ることは稀であり、抗アレルギー薬を併用することで抑えられる。

シダキュアの3カ月分の薬価は約1万3000円で、そのほか診察料や調剤料がかかり、健康保険3割負担の人では年間3万円ほどの自己負担額となる。

舌下免疫療法は、オンライン講習を受けて登録を済ませた医師のみ処方が可能だ。耳鼻科や皮膚科、アレルギー科、内科など、花粉症の診療を受けられる医療機関で相談してみるといい。シダキュアを販売する鳥居薬品のホームページでは医療機関の検索も可能だ。

自分に合った治療を見つけて、花粉症のつらさから少しでも解放されよう。

(久住 英二 : 内科医・血液専門医)